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決意

「くそっ」


 個室に入るなり、俺は思わずベッドを叩きつけた。

 何なんだよ畜生。

 いや、わかるんだ。仲間を救うためといえども躊躇い無く貴族を殺したうえにアイテムまで奪って確実に息の根を止めた俺は彼らにとっても異質に見えるんだろう。

 俺は悪を倒しただけだ。悪は完全にトドメを刺さなければ、やつらは何度だって際限なく悪意を振りまく。なら、ならばそれで泣く人が出ないよう、さっさと潰してしまうのが一番じゃないか。


 でも、そうだよな。他人から見れば貴族を殺した重罪犯。こっちじゃ相手の真名を知って奴隷に落とすのはおそらく普通のことなんだろう。むしろ殺害の方が重罪。そういう事だろう。

 つまり、この世界では俺は正義のヒーローにはなれそうにないってことだ。おそらく俺の世界のヒーローの殆どが殺人者として悪認定されるんだろう。


 でも、悪をただ懲らしめるだけで終わるなら警察に任せればいいんだ。

 こっちなら衛兵か。

 でも、殺害しきらないと教会で生き返った悪人に今度は致命的な悪意を受けこちらが壊滅するかもしれないんだ。皆のためにも、俺は後悔していない。


 していないけれど、皆から怯えた目とか、キチガイに向ける視線を向けられたり、あからさまに避けられるのは正直かなり精神にキた。

 ベッドに座り、身体の力を抜きながら倒れ込む。


「クソ、何やってんだ俺は……」


 どうするのが正解だったんだ?

 これで正解じゃないのか?

 やっぱ正義の味方向いてないのかなぁ。


「武藤……お前なら、どうしてた? 畜生、なんで離れてすらお前を意識しちまうんだよ」


 きっと、スーツを着てなければ俺は涙を零していただろう。

 正直向こうの世界じゃこんな状況になっても俺をフォローしてくれる奴はいた。

 でも、ここには誰も居ない。俺の仲間は、本当に仲間と呼べる存在は、きっとこの世界のどこにもいないんだ。


「随分と、萎れてるわね。貴族殺したの後悔してるの」


「いや、そんなものに後悔はしてな……っ!?」


 思わずがばりと身を起こす。目の前にはいつの間に入って来たのか若萌がいた。


「若萌!?」


「ええ。一応、助けてもらったお礼を言っておこうと思って。あのままだとあの奴隷と同じようになってたかと思うと、ね」


 そう言いながら若萌は俺の隣へと座ってくる。


「正直、いきなり殺害した時は驚いたわ。貴方正義の味方なんでしょ。さすがに一般人を刺し殺すのはやり過ぎだと思う。私としては助かったから感謝してるけど」


「そうか。俺からすれば当然の処置だったんだがな。あのまま生かしておくと若萌の真名を使って必ず奴隷化して、多分あの奴隷みたいに主人の死と共に自爆するみたいなことも命令するはずだ。そうしたらアイツからは絶対に逃げられなくなる。自分も死ぬわけだから嫌でも守らなけりゃならなくなってたんだろうな」


「最悪もいいところね。でも、実際その危険が無くなった訳じゃないから、この国の上層部には私の真名を知ってる人もまだいるし」


 ああそうか。俺達最初に着た時護衛兵の居る場所で互いに自己紹介してたんだっけか。

 おそらく国王とか姫にも名前は伝わっていることだろう。


「どうする?」


「ん。エルフとの戦いのどさくさで魔族領に向ってみようと思う。大変だろうけど、人族領で逃げまどうよりはマシな気がするの。それで、よければ……」


 一緒に来てほしい。そういう事だろう。

 俺としてもこの国に留まる気には既になってない。

 このまま居ても他の勇者との仲も最悪だろうし、魔族領で魔族倒しながら、できるなら魔王倒してさっさと帰るか。


「そうだな。行くか」


「ええ。明日には玲人と大悟がレベル20になるんだって息巻いてるし、おそらく一番早くて明後日にはエルフ戦に投入されるでしょうね」


「身一つだから準備する物もないし、食材も森で狩りまくったしな」


「ええ。後は回復薬とかを道具屋で買うべきなんだけど、私達二人とも殺人者になってるし、多分普通の商店は売ってくれないわ。一応矢鵺歌に頼んでみたけど望みは薄いでしょう。この状態での脱走になると思うわ」


「全く問題無いな。後は紛れられるようにエルフの森を偵察できればいいくらいか。逃走経路くらいは知りたいな」


「そうね。一応明日は北の森でのパーティー戦になるだろうからちょっと遠出してエルフの森近辺を見てみましょう。兵士達に勘ぐられてもエルフの森偵察と正直に言えばいいんだし」


 俺と若萌は逃走について話を詰めて行く。

 逃げるだけなら問題はないが、そこで起こるかもしれないイレギュラーを出来るだけ想定しておかないと、最悪対処できない事態に翻弄されて逃走失敗になる可能性が高い。

 若萌の真名を叫ばれないように気を付けないと。


 だが、俺達は気付いていなかった。

 ドアの向こう側で、俺達の会話を聞いていた存在が居たことを……

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