魔王VS女神の勇者1
「陛下っ!?」
最初に我に返ったのはペリカだった。慌てて俺に駆け寄って来る。
「ご無事ですか!?」
「問題無い。それより被害は?」
「メイクラブが羽をやられたのと、パリィが種子をくらって足に怪我をしたくらいです」
致命的被害にはなってないか。ならばいい。さっさと逃げきるべきだ。
「お、おい、良かったのかよ!? バロネット、殺しちまって……」
ホルステンが戸惑い気味に聞いて来る。
俺としても出来れば救ってやりたかったが、現状、アレを放置しておくわけにはいかなかった。
「相手のカードマスターと思しきガキにテイムされた状態だった。真名を奪われているのと同じだ。しかも相手は女神の使徒。現状救いだす手が無い以上、バロネットは倒すしかない。ディアを従えたレベル∞の勇者様を倒せるなら別だがな」
無謀とはこのことか。このまま魔王城に逃げ戻ったところで敗北は確定している。
ここからどう盛り返せというのか。
とにかく若萌を問い詰め、緊急会議を行い防備を固めないと。
「ペリカ、ひとまず早めに王城に帰り、ギュンターに知らせろ。女神の使徒、レベル∞の勇者が四体出現した。人族が全て敵に回ると仮定して緊急集会を開く。魔王軍は王城に全集結。各地の街にも緊急防備の令を送ってくれ!」
「か、畏まりました!」
このメンツで一番速いのは空を飛べるペリカだ。
ペリカが慌てて飛んで行くのを確認した後、仲間を集めて魔王領を目指す。
エルフの森に入った時だった。
ゾクリと嫌な予感が背筋を駆け廻る。
「来るぞ!」
セイバーを呼び出した瞬間だった。
木々を縫うように走って来た赤い獣がホルステンに飛びかかる。
「おおっ!?」
「ギャォ!」
咄嗟に反応したのはパリィ。
飛びかかって来た獣に横合いから飛びかかる。
気付いた獣はパリィの鼻づらに前足を叩き込み進路を変更。
空中でくるりと回転して四足で地面に着地する。
「ガルム!? なんでこんな場所に!?」
ガルム……ってことは。
「来たか玲人ッ!」
「チッ。奇襲失敗か」
木の影から、そいつはゆっくりと現れた。
ムーラン帝国でガルムに連れ去られるように消えた勇者、浜崎玲人。
その横には、彼に侍るように佇む犬耳娘が一匹。
「よぉ河上ぃ」
「おかしいな。お前はルトバニアで王様暗殺に向うと思ったんだがな」
「ああ。そのつもりだったさ。それでテメェを完全に魔王に仕立てて人族に滅ぼさせるつもりだった。が、もうその必要なかったしな。矢鵺歌の野郎がお前がここに居ると言って来たから来てみたのさ」
ムーランで落ちぶれるきっかけを作ったのは自分自身だろうに、俺を恨むのは筋違いだぞ玲人?
「正直、矢鵺歌の野郎には思うこともある。だが、だ。ムーランで一番俺に屈辱与えてくれたあの魔神はお前が連れて来たんだろ。だったら、俺が恨む相手ってのぁお前だろうが、魔王様よぉ!」
刹那、彼の背後に無数の赤い光。
獣たちの眼光だと気付いた時には、一斉に魔物達が群がって来るところだった。
「へ、陛下!?」
「テーラ、ホルステンは左右を頼む。パリィとメイクラブは遊撃だ。ベー、後ろは頼む。正面は……俺がやる」
「行け、殺せ! 勇者様が魔王をぶっ殺してやるっ」
矢鵺歌に操られたか、それとも思考誘導されたのか。どの道哀れだな。
「行くぜ、ジャスティス。砕け、セイバー!」
だから、速攻でケリを付けてやる。黄泉路に案内してやるよ、玲人!
「必殺! ギルティーバスタ――――ッ!」
セイバーに溜めた光の奔流を、一撃として解き放つ。
咄嗟に犬娘が玲人の襟を掴んで飛び退く。
迫り来る魔物の群れを飲み込んで、一筋の光がエルフの森を破壊していった。
「な、なんだ今の!? テメェただのコスプレ野郎じゃなかったのか!?」
「前から言ってるだろ。俺はジャスティスセイバー。正義の味方だ」
「ふざけんな! テメェみたいな赤い悪魔が正義な訳があるか! 人間共に裏切られ、テメェらに殺されそうになって、それでも魔物を従えての復讐。俺のが勇者だろ! 正義はこっちにあるんだよ!」
「暴論をっ」
いけっと指令をだせば、俺達に寄って来る無数の魔物。ギルティーバスター一撃では散開していた魔物の群れを全て倒すことは出来なかったか。
迫る魔物はそれでも高レベルはいないらしい。
テーラとホルステンのレベルは4000。群がられても充分対処できる。遊撃にメイクラブもいるしな。
パリィはガルムを相手取っているようだ。
地獄の犬が忌々しそうに咆えながら走る。
ソレを雷電のように左右に移動しながら高速回避して反撃するパリィ。レベルが高いことも相まって結構余裕そうだ。
ベーが問題っちゃ問題ではあるが、メイクラブがフォローしてくれているので問題はなさそうだ。
玲人達だけなら、充分対処できそうな気がする。
「ま、流石にそう上手くはいかんわな」
セイバーで飛んで来た矢を一閃。
レシパチコタンの生き残り共に追い付かれたらしい。
森に特化したこいつ等相手にエルフの森は少々面倒だな。




