武闘会昼の部1
再び王族用の観戦席に座る。何故か俺の上に座って来るチキサニ。お前、ホント遠慮って言葉知らないよな。マイツミーアがちょっと悔しそうにしてるぞ。
どの道お前はチキサニの護衛があるから今回は愛でないんだがな。
王族の座席はルトバニアと懇親の中にある順に近いようだ。一応魔族と仲を良くしたいという外へのメッセージだろう。俺は隣の席。その横に座っているのはメーレン。こうして見るとルトバニアとコーデクラの仲の悪さが良く分かるな。奥の席に座っているのがハーレッシュ、エルダーマイア、コーデクラだ。
「それではっ、これより昼の部、魔族参戦型トーナメントリーグを開催致します! 国民の皆様も驚いていることでしょう。各国の皆様も本来戦争を行っているはずの魔族がこのトーナメントに参加する事に驚いていると思われます。しかし、先日我が国と魔王国は和平を結び、親交のため此度のトーナメントを開催するに至ったのであります! さぁ! 魔族の実力をその目に焼き付けよう。そして人族の優勝者を交えた魔族に挑みたい猛者たちが彼らに勝てるのか、こうご期待だっ!!」
マイクも無いのに大きな声だ。一番離れた俺らにまでしっかりと聞こえる。
「皆も待ち望んでいることでしょうし、さっさと始めましょう! 第一試合対戦者は、ペリカ VS 勇者十三っ!! 早速魔族のえーっと、魔王軍近衛師団所属というなんかものっすげー肩書き持った羽翼人という種族の魔族に挑むのは、エルダーマイアの勇者! 入っ場おぉぉぉぉぉっ!!」
早速闘いが始まるらしい。
コロシアム形態で中央にある四角い舞台を観客が囲んで見る形だ。
四角い舞台は石畳で作られており、よく見る対戦形式の舞台と思われる。
ルールとしてはこの舞台から落下して地面に身体を付けたら負け。あるいは相手を戦闘不能にするか、まいったと言わせるか。ちなみに殺害は禁止されてないのだが、魔王軍は基本殺害は無しで行くよう伝えている。一応懇親のためだしな。参加してるの。
ちなみに、死んだ場合は直ぐ近くに待機している神官たちが復活してくれるらしいので問題もないのである。
中央の舞台状へとペリカが、そして十三がやってくる。
どよめきが走った。いくら本当に魔族が出て来ると言われていても、本当にその姿を見るのは初めての一般人達。自分たちと容姿が余りにも違うペリカの姿に驚いているようだ。
何しろ手が翼になってるからな。
「さて、魔族の戦闘ってのを見せて貰おうか」
筋肉質の男の言葉に、はぁ。と溜息を吐くペリカ。
「正直見せ物にされてる気分です。まぁ見せ物なのですが。ですが、魔王陛下のため、優勝狙いますからね!」
「第一試合、ペリカ VS 勇者十三っ、開始!!」
司会者の言葉と共に突撃する十三。伊丹君よ、開始直後のタックルって、どうなのよ。
対するペリカは両腕を使って真上へと羽ばたく。
悠々十三の頭上を飛び越え着地するとクスリと笑った。
「こちらですよ? 何処へ向って居らっしゃいますか?」
「テメェっ」
そこから先は、もはやどこの悪代官の遊びだよ。と言いたくなる状況だった。
目隠しこそしていないが十三が必死にペリカを追い掛け、クスクスと笑いながらひらりひらりと避けて行くペリカ。
勝負にすらなっていない。
それでも、あの巨漢の人族を相手に遊んでいる姿は、人族の一般人には恐怖に映るらしい。
手に汗握り、十三ガンバレーっと子供たちが叫ぶ。
魔族は悪っていうのがまだまだ浸透してるせいだ。
ペリカが困った顔をしていたが、こればかりは仕方無い。
「くっそ、ちょこまか逃げやがって」
「そろそろ遊びは終わりにしますか?」
「ずっと真剣だっつの!」
ふわりと石畳に降りたペリカに追い付いた十三が思い切り拳を振り抜く。
ペリカ向って放たれた一撃をクルリと回転して弾くように避け、そのまま懐に飛び込むと羽を使ったアッパーカット。
綺麗に決まったようで十三の巨体が浮き上がった。
レベル4000オーバーのペリカだ。余程手加減したようで、十三は死ぬ事なく地面に倒れる。
しかし、起き上がる程の体力はなかったようだ。
仮にも勇者が一撃で敗北する姿を見せられた一般人が呆然とする中、思い出したように司会者が叫ぶ。
「ぺ、ペリカ勝利! 勝者ペリカです!!」
というか司会者、さっきの試合少っしも解説やらヤジやら飛ばしてなかったよな。観客みたいに普通に見守ってただろ。
そんな役立たずな司会者は、十三が担架っぽいので運ばれていくのを見ながらペリカに退場を促す。
若萌が伝えたのだろうか? 会場を後にする直前、舞台を降りて直ぐに舞台に振り返り一礼。
一般人からどよめきが起きる。
どうしたのかと思えば、魔族が一般常識的な試合後の挨拶を行った事が驚きなんだとか。
お前らの魔族の共通認識ってどうなってんの?
どうやらペリカは顔が可愛いのもあってそこまで嫌悪はないようだ。
ルトバニアの街をシシルシたちが闊歩していた御蔭もあるかもしれない。
魔族を受け入れる下地は着々進んでいるとみた。




