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危機感しかない昼食会

「ふむ? そちらのお嬢さんはレシパチコタンの巫女ではありませんでしたかな?」


 コーデクラ王がふと気付いたように告げる。全員の目が俺の膝に座ったチキサニに向いた。


「チキサニ、魔王殿に迷惑を掛けていないか?」


「ウェプチ……クアニ良い子。迷惑なんて「ブッ」かけてない……」


「今、迷惑掛けたよな?」


「クアニかけてな……アルカアルカっ」


 側頭部に拳を当ててぐりぐり攻撃。こいつには一番効くようなのでこれで攻撃してやる。


「まぁ、なんだウェプチ。こいつはこんなだが結構魔王軍になじみ始めてるみたいだぞ。稀良螺とそれなりに仲いいし」


「何言ってるんですか。チキサニちゃんはしたな過ぎて仲は良くありませんっ」


「喧嘩するほど仲がいいのよ。ねぇチキサニ」


 反論するチキサニにふふっと悪戯な笑みを浮かべた若萌が告げる。


「なんでしたら、送り返して戴いて良いのですよ?」


「まぁ、大丈夫だ。今しばらくはチキサニが居たいそうだからな」


「クアニ魔王国居る!」


「……そうか」


 今、見えないように舌打ちしたよなウェプチ。そんなにチキサニの生存が気に入らないのか?

 となると、やはりこの大会で仕掛けてくる可能性は高そうだな。


「ふん。我が国の勇者をこれ見よがしに同行させて来るか魔王」


 ウェプチが押し黙ると猊下様が忌々しげに告げて来る。今度はアンタか。


「エルダーマイア猊下はついに真名で勇者を縛ったみたいだな。人形みたいに目の光が消えてるぞ? 教国は勇者を操り人形にするのか」


「貴様に言われたくはない魔王ッ。我が国の勇者を真名で縛りよって!」


「稀良螺は真名で縛っただけで実質的な命令は与えてないさ」


「どうだかな。魔国への愛国心を植え付けていてもおかしくないからな。なんなら今直ぐに真名を解放してみせていただきたいものですな」


「その瞬間猊下様が真名で縛らぬという保証がないのでね。彼女までそこの人形のようにさせるわけにはいかんさ」


 両手を上げて肩を竦める。相手をバカにしたような態度だったので猊下が思わず立ち上がりそうになったが、隣のノーマンデ王とメーレン国王が慌てて押し留める。


「ま、まぁ落ち付けエルダーマイア猊下。今回は会食会だ。ルトバニア王の前で粗相する訳にもいくまいて」


「そ、そうである。猊下。落ち着きたまえ」


 まだ怒りが収まらないらしい猊下さんは、二人に諭され忌々しげに俺を睨みながら座りなおした。


「ふふ。魔王は随分と恨みを買っておるな」


「ネンフィアス王。あんたもあんたで言いたいことはあるんだがな。矢鵺歌はなんであんたについてってんだ?」


 ネンフィアス王の隣で優雅に食事を取る矢鵺歌に視線を向けながら聞く。


「ふむ。この女が我が国に身を寄せたいと言って来たから連れ帰っただけだ。なんだ? 寝取られたことが許せぬか?」


 くっくと笑うネンフィアス王。


「いや、別に矢鵺歌とそういう仲だったわけじゃないから問題はないんだがな。まぁアンタがきにしてないならいいや」


 溜息を吐いていると、隣のシシルシがクスリと笑う。シシルシは結局若萌の膝に座って食事をする事にしたらしい。若萌が物凄く迷惑そうにしている。


「ねーねー、赤いおぢちゃん。チキサニとマイツミーアにいろいろ聞いたよー」


「ん?」


「ロシータ、死んだんだって?」


 瞬間、空気が凍りついた。

 お前、今ここで言うべき事じゃないだろう。どうした?


「シシルシ? 何を言って……」


「ルトバニアのおじちゃんは知ってるよねー。ムーラン王国に連れ去られた魔族令嬢ロシータちゃん」


「う、うむ。知ってはおるが……アレはムーラン国に身を寄せた勇者玲人が起こしたことで、既に決着はついたのでは?」


「んー、なんかね、逃げ出してたロシータちゃんがつい先日魔王城に戻って来たんだって。でもねー、戻って数日で殺されちゃったらしーんだよねー。……女神に」


 おい、シシルシ? ちょっと待て。何を言ってる。今ここで矢鵺歌を断罪するつもりかっ?

 俺の顔を一瞬ニタリと見つめてきたシシルシ。その目は漆黒の穴のように底が無い暗闇に見えた。


「シシー教えて貰ったよ。エルダーマイアのおじいちゃんが信望してる女神様。実はこの世界に勇者を呼び出し絶望させて殺しちゃうんだって。酷い女神様だよねー」


 くっくと笑みを浮かべるシシルシ。

 皆、食事を止めてただただ呆然とシシルシを見る。


「ロシータは、絶望しながら死んじゃったのかなー? どうなんだろーね?」


 ふふ。っと笑みを浮かべたあと、食事に戻る。

 矢鵺歌が女神。ということは言わなかったようだが、少々危ない橋を渡り過ぎだシシルシ。正直焦ったぞ。

 一応、既にネンフィアスとエルダーマイアとウェプチ以外の王族にはディアを通して矢鵺歌が女神で……ってことは伝えているし口止めはしているので、衝撃的事実で取り乱したりする者はいないのだが、皆、シシルシの異様な話と表情に手が止まっていた。


「で、でたらめをっ!」


「えー。シシーは聞いた話を伝えただけだよー。赤いおぢちゃん、エルダーマイアのおじいちゃんが怒った」


「あー、まぁ、信望する女神様貶されちゃなぁ」


 憤慨する猊下が隣の二人により必死に説得される様子を見ながら、ちらりと矢鵺歌を見る。

 気にしたふうも無く優雅に食事をする矢鵺歌。随分と余裕があるように見える。

 なんか、嫌な状況だな。罠でもあるんじゃないだろうな。

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