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予言の書

「待たせたわね」


 俺の部屋にやって来た若萌は部屋を見回し怪訝な顔をする。


「ディアと稀良螺に先を越された?」


「あ、はい。先程ディアさんが訪ねて来まして」


「丁度魔王陛下の元へ集まるとなった時に稀良螺殿の部屋前を歩いておりましてな。せっかくだったので彼女も転移で送ることにしました」


「なんでまたそんな場所を?」


「森で使うモノを取りに倉庫に向っておりましたので。思いついたのですよ、くたびれた鎧や武具を無造作に置くことで死の色取りをさらに生えさせ、生を色濃く表現できるのではないかと!」


 要するに、芸術的閃きを思いついて倉庫に向う途中にこっちに来るように言われて、隣を見れば稀良螺の部屋だったと。どんな偶然だよ。


「それで、この部屋に来たのはいいけど、何があったの?」


「ああ。さっきチキサニに見せて貰ったんだが、これだ。黒の聖女だかクンネ ラムピリカポンメノコだか知らんがそいつから渡されたらしい。見せて貰ったが、これは預言書だ」


「預言書!? 私以外に未来から来た存在でもいたって言うの?」


 慌てて俺から大学ノートを奪い取った若萌がぱらぱらとめくる。

 稀良螺もディアも興味を覚えたようで後ろから覗き込んでいる。


「そんなところで見なくてもいいだろ。ほら、こっちに置いてくれ、皆で見よう」


 彼らが来るまでにテーブルを用意しておいたので、全員そちらに移動させて中央にノートを開く。


「変わった書物ですな」


「大学ノート。異世界の文字を掻くための白紙の紙束って奴だ」


「ほう、異世界ではこのような製紙技術があるのですか。ふむ。一度行ってみたいものですな」


「ディアがこの世界以外に現れたら大魔王確定だけどな」


 俺達は無駄話しながらもノートを見続ける。

 稀良螺も若萌も真剣で話に入ってすら来ない。

 チキサニは内容を覚えているためだろう。真剣な眼をしつつも何も考えてないようでさっきからオプケ娘と化している。毎回毎回音が鳴るたびに思わずチキサニを見ると、なぜか親指を立ててやったった。見たいなドヤ顔をして来る。


「嘘。これ、私の聞いていた未来より正確。しかも私が行ったことまで予言されてる」


「それだけじゃないですよ若萌さん。これ、私が生きてる状態での予言になってます。今回の未来を辿った後の未来ってことですよね?」


「しかも幾つもの未来分岐の結果も書かれてる?」


 例えばチキサニだ。俺と一緒に魔王城に来なかった場合は今頃ウェプチにより毒殺されており、原因不明で死亡。カムイオロンベの祭りが行われるそうだ。

 そして俺と共に魔王城に着た後にも幾つもの未来が用意されている。

 例えば武闘大会に行かなければ女神の二人目の犠牲者となり、大会で俺から離れれば襲撃して来た玲人に囚われ魔物の餌に、俺と共に居て危機を乗り越えても女神の遣わした勇者に殺されたり、タイミングが合わないだけで死ぬ未来が多数用意されていた。ベストなタイミングでベストな場所に寸分たがわず居ること。その為の予言が事細かに書かれている。


 ……二人目の、犠牲者?

 不意に、気になった単語を見付けてその前の辺りの予言を調べる。

 待て、コレ、一人目の犠牲者は誰だ?


「おい、この二人目の犠牲って、一人目は何処で殺された?」


「ん? それは起こす気のない未来。クアニ死ぬ気ない」


「そうじゃねぇよ。ここで二人目ってことはその前に誰か一人死んでるってことだろ!」


「待って。こっちを見て。この会議の話。私達の名前の中で、一人居ないのがいるわ」


 明日に行う大会への会議か。二人名前が無いな。矢鵺歌はネンフィアスに付いて行く未来があるとか書いてあるから今日中に居なくなるってことだろ。これ、良いのか?


「矢鵺歌はこの後ネンフィアスに身を隠すのね。何故かは知らな……待って、これ、ロシータさんの名前が出て来てないっ」


「ロシータ!」


 俺達は預言書を閉じて慌てて走り出す。

 目指すはロシータの部屋だ。

 急ぎ確認しよう。ロシータの安全を確認して、明日の会議までは俺達の誰かの部屋で隔離を……


 ロシータの部屋を開けようとするが鍵が掛かっている。

 緊急事態だ。ドアの鍵を外して貰うまで待ってるわけにはいかない。

 ディアがお任せくださいと言って来たので任せる。

 気合い一撃、ドアを蹴り壊した。

 びくりっ、部屋の中に居た人物が俺達に振りかえる。


「……矢鵺歌?」


 部屋の中には矢鵺歌だけがいた。

 ロシータは? 彼女は何処だ。というか何故矢鵺歌がここに居る?


「矢鵺歌さん、なぜ、ここに?」


 稀良螺が乾いた声で聞く。すると、矢鵺歌は一瞬戸惑った顔をして、直ぐに決壊したように涙を流しだす。


「二人で真名交換しようと思ったの。でも、私はセイバーに真名を捧げてるから、無理だって。でもロシータが貰ってほしいって。だから、真名を貰ったの、そしたら……そしたらロシータが死んじゃった……」


 意味が分からない。こいつは何を言って……


「おそらく、自害するために自身に真名命令を行っていたのでしょう。他人に真名を奪われた瞬間死亡するようにしておけば真名を奪われ操られることなく、尊厳ある死を行えますから。異世界に呼ばれる前に命令していたのを忘れていたのでしょうな『もちろん、嘘でしょうが』」


 最後の一言だけ念話で飛ばして来るディア。

 なるほど、そう言えば自害しようとしてたってロシータ自身が言ってたな。だけどアンゴルモアが現れたせいで自害前に異世界に飛ばされたとか。


 と、とにかく落ち付け。今はまだ女神に戻す訳にはいかない。コイツの言い分を納得しなければ……全員、ちゃんと演技できるのか?

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