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矢鵺歌の本性

「話がありますっ」


 俺が自室へと向かっていると、稀良螺がムッとした顔でやってきた。


「あ、オパタッチェプルセプ」


「いい加減にしないと潰しますよチキサニ」


 おお、冷酷な声で告げられたチキサニが押し黙った。


「どうせ矢鵺歌の事だろ。いいよ。その話は若萌から聞く予定だ」


『そこに誰かいるの? 矢鵺歌には秘密にしておいてほしいんだけど?』


 うお、ああ、そうか。若萌と念話繋いだままだったっけ。


『クアニも念話? 繋がったまま』


 お前も居たな。まぁいいや。とりあえず若萌、目の前に稀良螺が居るんだが、コイツ納得するまで言い続けるぞ多分。


『仕方無いわね。稀良螺にも念話繋げて、部屋に戻るよう告げてくれる? 鍵を掛けて誰が来ても絶対に開けないようにって』


「誰が来ても?」


『会議でちょっと目立ち過ぎよ彼女。消されても……文句言えないわ』


 消すって誰がだよ。矢鵺歌が稀良螺を殺すってことか? そんなバカな。

 と、とにかくだ、ディア、悪いんだけど稀良螺にも念話繋いでくれ。グループは俺と若萌とチキサニと稀良螺かな。


『了解しました。私はいかが致しますか?』


『いいわ。折角だからディアも聞いておいて』


 全員が部屋に戻って安全を確保してからということで、俺と稀良螺は分かれて自室へと向かう。

 部屋に入って鍵を掛ける。ラオルゥが何か文句言いそうだが……あ、マイツミーア連れて来てない。


『彼女ならペリカに連れていかれていたわ。折角だからこの機会に魔王近衛騎士団の会合をするらしいわ』


「俺、聞いてないんだけど」


「アノカイ聞いてない」


 あ。

 ベッドに腰掛け気付いた。普通にチキサニが部屋に居る。


「おいオプケ娘、なんでここに居る?」


「ん? クアニ部屋聞いてない。ギュンターニシパこの部屋で過ごす言った。コシマッなら問題無い」


「いや、問題ありありだろ」


『そっちの話はどうでもいいわ。手を出すならロリコンの称号を差し上げるけど?』


「止めてくれ。俺はあの怪人とは違うんだ」


「クアニもう二十歳過ぎてる。ロリじゃない」


『「え゛っ!?」』


『すいません、部屋の鍵掛け終わりました』


 どうやら全員自室に戻れたようだ。

 ディアからも返事が来たので若萌からの念話を待つ。

 チキサニの言葉による動揺がまだ収まらない。


『結論から言うわ。稀良螺の懸念は本当』


『やっぱり、矢鵺歌さんは若萌さんとギーエンさんを殺すつもりだったんですね! でも、それが分かってるならどうしてとぼけるようなことを?』


『正確には、全員だからよ。矢鵺歌は私達全員が絶望しながら死ぬのを見たいの。その為にこの世界に勇者を呼んだのよ』


 お、おいおい。ちょっと待て若萌。それは……それはまるで、俺達を呼び出したのが矢鵺歌みたいじゃないか?


『彼女にはまだ素知らぬ顔で仲間を演じていて貰わなければならないわ。アレの正体がバレて、自由に動き出すよりは、獅子身中の虫で居てくれる方がまだマシなのよ。今はまだ、時期じゃない。もう少し、せめてこの世界が見つかるまでは……』


 少し、理解できない呟きがあったが、矢鵺歌の正体はおそらく……


『あれが「女神」よ』


 世界を管理する者。この世界に俺達を呼び出した張本人。王が呼びだしたのは確かだが、誰を選び呼び出すかは管理者である彼女の仕事だ。


『あれが……あの人が神?』


『彼女はゲーム感覚で自分の箱庭にアバターを送り、遊んでいる状態なの。今はただの一人の勇者として動いているけど、女神に戻れば管理者として世界を見渡すわ。私達の状況もおそらく全て把握される。そして異世界の動向も。だから、今はまだ彼女を女神に戻す訳にはいかないの』


 それはつまり、女神に戻られる方が今は不利になるってことか。


「なるほどな。だから若萌は矢鵺歌を庇うようなことをしてるのか」


『ええ。まだ時期じゃないわ。アバター状態で今しばらくはいて貰いたいのよ』


「被害は出ないか?」


『出るわ。でも私の聞いていた未来の話とは少し違ってきているから何とも。ロシータなんて既に死んでるはずだったし。アンゴルモアが出て来るタイミングも少しずれていた。そもそも嘆きの洞窟で生還できるのは矢鵺歌と私だけのはずだったわ』


『ちょ、それ、私死んでた……』


『そう。既に死んでいるはずだった貴女は今回生存している。これがどういう未来に繋がるのかは不明。少なくとも、私の知っている未来よりはマシに成るはずよ』


『待ってください。そもそも未来って、貴女一体何者なんですか!』


 稀良螺の質問に、若萌が押し黙る。まだ、言う気はないってことか?


『クンネ ヌプルクル』


『はい?』


『黒の聖女が言っていた。ウェンカムイの思惑を打ち破ろうとするクンネ ヌプルクルが魔王城に居ると。若萌がクンネ ヌプルクル。未来を見て来た者』


『はぁ。チキサニに先に言われてしまったみたいね。ええ。そうよ。私はセイバーの居た世界の未来から来たの。だからこの世界で起こった出来事を母と父から聞いている。この先何が起こるかも知っているわ』


『そ、そんな奇跡起こるんですか……だ、だったら未来を変えるように動けば』


 だから、今その最中だろ。稀良螺、動揺し過ぎだ。

 本日のアイヌ語

クンネ=黒

ヌプルクル=予言者


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