外伝・令嬢の帰還
異世界に召喚された勇者は等しく魔王を倒さなければならない。
それは誰が決めたことなのだろうか?
少なくとも、彼女はそれに従い行動した。
人族の王に請われ、迫り来る魔王の軍団を、己と従者たるメイドたちだけで打ち破る。
人が束になっても敵わぬ魔族を、たった一人で百、二百と駆逐する。
その者の名はロシータ。魔族の令嬢ロシータとその従者たちであった。
異世界に呼び出され、何の皮肉か魔王と敵対し、彼らを倒し人族を救う。
魔族である自分たちが呼ばれた理由らしい。
途中まではアンゴルモアを名乗る男と共に闘っていたのだが、不幸なことに竜巻に巻き込まれた彼は何処かへと消え去ってしまった。
しかし、この世界の魔王軍は魔族であるロシータ達に比べると、あまりにも弱い。
考える知能も無いただの魔物であるため駆逐するのに躊躇いも無かった。
魔族としてそれなりのレベルを持つロシータ達はレベルも100から200程。目の前に迫る魔族の群れは、強い者でも50を超えない。それに人族が翻弄されているのだからこの世界の者たちは自分のいた世界よりも弱いと言わざるを得ない。
途中、確かに危険はあった。
しかし、別の異世界から呼び出されていたらしい龍華と呼ばれる少女の御蔭で窮地も脱出できた。
アンゴルモアのことを話に出すと知っているようなことを言っていたが、結局魔王退治まで手伝って元の世界に戻っていった。
ロシータも同じく異世界から帰還する。
帰還直前アンゴルモアを忘れていたことに気付いたのだが、既に遅く、行動に移った時には異世界から帰還し、何も無い荒野にメイドたちと共に降臨した後だった。
メイドたちが周辺を探り、どうやらロシータのいた世界であると確信が持てたのが夜中になってから。
結局その日はその場で野営し、魔族領を目指して歩く。
メイドたちが調べたところによると、ムーラン国のあった場所に戻って来たらしい。
残念ながら自分たちのパンツすらも残っていなかったが、異世界でそれなりのものは手に入れているので皆残念とは思っても失ったパンツに思いを馳せることは一人くらいしか居なかった。
メイドの一人が勝負パンツを履いていたらしい。
そのパンツたちがエルフ村で信望され、彼女の勝負パンツが聖樹の真下に新設された祠に鎮座していることなど、彼女たちは知る由も無い。
「さぁ、なんとか無事に帰りつけたわね」
「魔族並みの敵が出たらと思っていましたが、四天王でもレベル80前後しかありませんでしたし、楽で良かったですねロシータお嬢様」
「とにかく街に戻ってみましょ。矢鵺歌は元気にしてるかしら? 私が生きてるって知ったら泣いちゃうかもしれないわね」
ムーラン国に向うには旧エルフの森に戻らなければならないのだが、彼女たちは地理を知らないばかりに西へと向かっていた。
そのまま海にぶち当たり、対岸の魔王国を見ながら北進する事になる。
そのままレインフォレストを通り、メーレン、ノーマンデと遠回りをすることとなる。
検問に引っかかりはしたものの、撃破を考えたロシータを、なぜかレインフォレスト兵が快く迎え入れ、警戒しながら検問を通り抜けたロシータたちは、メーレンでも、そしてノーマンデでも人族に快く迎え入れられる。
実は魔王が和平を結んだあとであるなどと知ることのなかったロシータは最後まで人族の罠を疑っていたのだが、魔族領への橋を見付け、橋の魔族領側で野営する魔族達の元へ戻れた時には、本気で安堵の息を吐いた。
「まさか人族領にすでに魔族がいたとはねぇ」
「いえ、こちらも既に人族と和平が結ばれていたなど知りもせず、人族に戦闘を仕掛けなくて本当に良かったですわ、メロニカ様」
保護されたロシータ達はサイモンとメロニカにより一日陣幕内で休憩してもらい、ブルータースが用意する馬車に乗って魔王城へと戻ることになっている。御者はサイモンらしい。彼も用事があるのでそのついでだそうだ。
矢鵺歌も聞いた話によると魔王城に身を寄せているのだとか。
直ぐに会えると分かったロシータはうきうきとした気分でその日は眠れなかった。
メイドたちに茶化されながらも気分は修学旅行でメイドたちとキャッキャウフフしながら幕内で朝を迎える。
御者とともに用意された馬車に乗せられ魔王城へ。
異世界での魔王討伐はただの旅行だった。そんな気分で戻って来た魔族国で、自宅ではなく魔王城へと戻る。
しかし、そこに矢鵺歌の姿はなく、ギュンターへの謁見を行った時には、ギュンター王の側にいた見知らぬ女に指を差され、「シンナキサラ」と良く分からない事を言われることに。
後から聞いた話だが、どうやら矢鵺歌はエルダーマイア王国に出張しているらしく、時の魔王も和平交渉の帰路に付いているところであり、どちらも魔王城へは戻っていなかった。
少しタイミングが悪かったらしい。
逸る気持ちを押さえながら知り合ったチキサニという少女と親交を深めるロシータであった。




