各国の同盟事情5
「これはまた、随分と物々しいな」
コーデクラ王国にやってきた俺は、街中の雰囲気を見て思わず呻く。
そこかしこで兵士が見回りを行っており、冒険者や兵士の雰囲気がギスギスとしている。
まるでこれから戦争でも起こすかのような状態だ。
こんな国と和平を結べるのか?
ユクリの疑問に俺は答えることなど出来なかった。
馬車で王城へと乗りつけ、整列している兵士達の横を通り抜けて王城に入る。
会食なのは変わらず、ただしテーブルは円卓だった。
しかも、なぜかコーデクラ王は俺を右横に座らせ、ユクリ達を右隣に、コーデクラの宰相以下を左隣に座らせる。
どの国もそれなりに特色はあるのだな。と思っていると、コーデクラ王が食事を行いながら話しかけてきた。
「前回の全国定例会、ルトバニアの阿呆がこの国を攻めようとしていると聞いた」
「ああ、そう言えばそんなことを言ってたな」
「よって今、我が国は開戦準備を行っている。決して魔王国に敵対しようとしている訳ではない事を先に伝えておこう」
「なるほど。国内が緊張している理由は理解した。ああ、これを。ネンフィアス帝国で締結した和平交渉の事案一覧だ。下の方が各国で却下したものと追加事案だ」
「おお、これは交渉がやりやすいですな」
書類を直接隣に手渡すと、普通に受け取り無防備に見るおっさん。
ちょっとコーデクラ王、無防備過ぎじゃないですか。
宰相さんが慌ててらっしゃるぞ。
「ふむ。我が国で魔族の奴隷は使っていない。このネンフィアスで通った事案は全て了承しよう。宰相、各国で可否が分かれたモノと我が国からの条件を照らし合わせてくれ」
食事を行いながら重要書類だろう和平交渉用の書類を宰相に無造作に渡すおっさん。この人王様って呼ぶより普通におっさんで良い気がして来た。
気の良いおっさんは食事は合うか? と聞いて来たので俺の代わりに食事を行ってくれているマイツミーアに感想をお願いした。
大変お気に入りだそうだ。
当然包んで貰って俺は後で喰うことにした。
「で、では我が国からの条件はこの辺りに」
宰相がわざわざ持って来てくれた書類に目を通す。
妥当な条件が多い中、さりげなく無茶振りが入っている。
関税の完全撤去はムリだな。流石に他の国を無視してコーデクラのみというわけにはいかない。
「ふむ。幾つか許容できないモノがあるが、概ね問題はないな。それで、この最後のアイドルの派遣というのはなんだ?」
「ふふ。やはり気になったか魔王よ。勇者と聞いていたからもしかしたら喰いつくかと思ったが案の定だな」
ニヤリ、おっさんが不敵に笑った。
「我が国は数十年前に出現した勇者により空前のアイドルブームなのだ。なんでもプロデューサーという部類の職業に付いていたそうでな。乞食の少女が歌って踊れる皆の憧れの的になるというサクセスストーリーを演出し、既に何度も劇や紙芝居になる程の人気なのだ」
アイドルの成り上がりがコーデクラで人気なのか。
で、コロシアムをライブ会場にして国民が一人の少女に熱を上げまくったらしい。
当然数十年前なので当時のアイドルは既に引退しているのだが、名誉貴族として豪華な暮らしを行い、王家に輿入れしたのだとか。大した玉の輿である。
「と、言う訳で、我が愛しきアイドルのよっちゃんだ。入って来なさい」
輿入れ先はこのおっさんだったらしい。既に年嵩食ってはいるものの、当時の面影を残すスーパーアイドルオーラが出ているおばさん……じゃなかった王妃様がやって来ておっさんの横にやってくる。
兵士の一人が椅子を用意して宰相と国王の間に王妃を座らせた。
この人が乞食からアイドルに、そして王族になったサクセスストーリー持ちのご本人だそうだ。
「代表曲の川の流れのようね、は国歌に指定される程の名曲でな」
ちょっと待て。そのプロデューサー絶対俺の知ってる日本から来ただろ。しかも曲パクッただろ。
「で、だ。我が国から次のアイドルも何人も排出されているのだが、プロデューサーは彼女の引退と共に行方不明になってしまってな。風の噂では殺されたと聞く」
つまり、彼女以降伝説的アイドルは一人も生まれず、ノウハウもないことからアイドル業は衰退を始めているらしい。しかし、ここで魔王である俺、勇者がアイドルを育成してこちらに送り出すとなれば別だ。再びアイドル人気が再燃することだろう。
「どうだろう?」
「ふむ。一度持ち帰って他の勇者との相談になるだろうな。だが、面白そうではある」
「もし可能ならば定期的にアイドルを生み出せるシステム構築も教えてもらえると有難い。我が国だけではどうにも難しいようなのだ」
前の勇者とやらは結構売り込みに力を入れたんだろう。本業だからノウハウも豊富だろうし、何も知らない王国でアイドル業を立ち上げるくらい訳なかったのかもしれない。
若萌に相談だな。やはり48人くらいのユニットにすべきだろうか?




