外伝・VS災厄のキマイラ2
「ずっしりとした霞」
黒色の剣を取りだした若萌が走る。
アルティメイトキマイラの足元に出現する黒い靄。
アルティメイトキマイラの足が包まれた瞬間だった。
彼の動きが極端に遅くなる。
「ギーエン! 無茶しやがって!」
なんとかゲドが間に合った。
突撃して来るアルティメイトキマイラからギーエンを救いだす。
さらに突撃するアルティメイトキマイラは若萌向けて一直線。
「高慢な衛兵」
力ある言葉に剣が反応する。
闇が若萌を取り捲いた。
「暴力的な闇」
闇色に光と放電を始める剣を振るい、ゆっくりと突撃して来るアルティメイトキマイラに向け跳躍。
「喰らいなさいっ!」
気合い一閃。ライオンの顔に袈裟掛けの傷がつけられた。
ブシュゥッと血が噴き出しアルティメイトキマイラの悲鳴が響いた。
勢いを殺されたアルティメイトキマイラは突撃の途中で止まり、忌々しげに若萌を睨む。
ギーエン殺害を失敗させられた矢鵺歌も同じ顔をしているように見えた。
「矢鵺歌、ギーエンさん無事?」
一応、仲間であるので声を掛けておく。
弾かれたように矢鵺歌が大丈夫。と声をだし、ギーエンがバツの悪そうな顔でこっちは気にすんな。と告げて来る。
さて、危険は一応乗り越えはしたが、アレが来るまでしばらく掛かる。
自分の出せる能力は、今はここまでだ。この変身状態で扱う武器や必殺も使うつもりはない。
せいぜい先程の剣を奥の手とでも思っておけ女神。
コバルトアイゼンで矢を絶えまなく打ち込みながらアルティメイトキマイラの力を削いでいく。
突撃が恐いので途中、奴に近づき、暴力的な闇で後ろ足を一つ切り裂いてやった。
多分腱を切れたと思うのでもう突撃も出来ないだろう。
それでも、若萌だけではコイツを倒す事は難しい。
何しろコイツを倒すと……自爆するのだから。
正直、無理ゲーの類である。
若萌は唇を噛みながら剣を振るう。
自分ではこれを倒せないと分かっているからだ。
だからこそ、待たなければならない。
どれ程の犠牲を出そうとも、奴が来なければこれを何とかする事は出来ないのだから。
「ずっしりとした霞」
魔法剣の大盤振る舞いだ。
このずっしりとした霞は相手に纏わりつく靄が重しとなって相手の動きを阻害するスキルだ。
若萌自身の能力ではなく、剣自身の力である。
アルティメイトキマイラの動きを阻害し、前足を切り裂く。
時間がどれ程か、聞いただけだっただけに待ち遠しい。まさに一日千秋の気持ちだ。
アルティメイトキマイラの攻撃は避けられるとはいえど、その攻撃力は喰らえば致命的だ。
特に若萌以外の人族は鼻息一つで死にかねない威力の高さなのだ。
流石に鼻息は攻撃対象になってないようなのでダメージを喰らうことはなさそうだが、先程のブレスだって他の誰かに向けられていたらと思うと若萌は気が気ではなかった。
聞いた話では、ここで若萌と矢鵺歌だけが生還したそうだ。
若萌は重症で、矢鵺歌も一応重症だったらしい。
二人もギリギリだったそうだ。あいつが突然虚空から現れアルティメイトキマイラを倒してくれたからこそ生き残ったにすぎず、あいつが現れなければ確実に死んでいたらしい。
当然ギーレンも稀良螺もネンフィアスの五人も一緒に付いて来たエルダーマイアの勇者二人も全滅した。
そのせいで後に色々と困ったことにもなったらしいのだ。
でも、今回の若萌は違う。話では変身も剣二本もコバルトアイゼンも、変身時の必殺すらもアルティメイトキマイラに効かなかったそうで、良いようにやられ、突撃で死に掛けていたそうだ。
当然ながらギーレンを先程のように守れる訳も無く、最初の突撃で気絶していたらしい。
気付いた時には既にギーレンが突撃から矢鵺歌を守って死に、ゲドが無謀に突っ込み、他の面々が次々とやられて行った。
最後まで抵抗した稀良螺も喰い殺され、そこで若萌が変身し、全力でアルティメイトキマイラと闘ったのだそうだ。そして、敗北した。
なぜなら、その時の彼女のレベルが4500前後だったからだそうだ。
そう、本来彼女のレベルであれば、レベル8000のアルティメイトキマイラに、今のような闘いを繰り広げることは出来なかった。
だから、若萌は今回、ディアに頼み込み、一人だけレベル上げを敢行したのである。
今の若萌のレベルはディアには及ばずとも7973。未だ届かずとも充分アルティメイトキマイラと闘えるレベル差なのだ。
まだ誰にも教えてない奥の手の一つ。若萌自身の実力の底上げ。
若萌はそっと矢鵺歌を見る。
不安げにこちらを見ている矢鵺歌は、本当に心配しているように見える。
でも、内心は違う。女神、貴方の好きにはさせやしない。正義の名において、私達が貴女の企みを潰してやる。




