外伝・VS災厄のキマイラ1
「若萌さんっ!!?」
口元を両手で覆った稀良螺が眼を見開く。
矢鵺歌も嘆きの顔で呻く。だが、一瞬、恍惚に歪んだのを、若萌は見逃しはしなかった。
やはりこいつは危険だ。
空中で身を捻り、襲って来た壁の破片を交わしながらさらに矢を打ち込んでいく。
コバルトアイゼン。母から託された神殺しの武器である。
神にすらダメージを与えられるこの弓は、番えた矢に神を殺す能力を授ける。
これを矢鵺歌の眉間にでもブチ込んでやればもしかしたら倒せるかもだが、下手な一撃は奴がなりふり構わなくなってしまう可能性があるので今はまだ撃てない。
せいぜい普通の弓として使って見せて、神に効くような武器ではないと見せておこうと思う。
「GAAAAAAAAAAAAAAA」
獲物全てに避けられたことに気付き、怒りながら後ろを振り向くアルティメイトキマイラ。
その眉間に、渾身の矢が突き立った。
悲鳴と共に両手を振り乱し矢を叩き落とす。
ファイヤーブレスにコールドブレス、パラライブレスの同時発射。
しかし、若萌は直撃したにも関わらず、ブレスを抜けてアルティメイトキマイラに突撃する。
その姿は人のそれではなかった。白桃に輝くスーツの女性。
そのフォルムはどことなくジャスティスセイバーに似ている。
彼女の姿を見た兵士たちはおぉっと驚きの声を浮かべ、稀良螺や琢磨たちはセイバーの姿を思い出したのかあいつも変身するのか!? みたいな顔で驚いている。
そして、矢鵺歌だけが爪を噛んで想定外といった顔でギリッと若萌を睨んだ。
あの女狐、実力を隠していたのか。そんな顔をしている。
だが、若萌はその全てを今回で見せる気はないのだ。確かに警戒はされるだろうがそれだけに留める予定である。
「矢鵺歌! 援護! 稀良螺達は巻き込まれないよう退避に全力注いで!」
手早く伝えて弓を引き絞る。
連続で突き立つ矢に悲鳴を上げるアルティメイトキマイラ。
そのダメージは微々たるものだ。もともとの体力が多いのだからこれは仕方無い。長期戦を想定してないとコイツを倒し切るのは難しい。
「ギーエン無理すんな! 嬢ちゃんに任せるぞ!」
「ふざけろゲド! 女に任せたままにさせられるか!」
「レベル差がありすぎんだよ! 諦めろ! 嬢ちゃんの邪魔にならないように逃げ回るんだよ! 急げ!」
「ああもう、チクショウっ!」
残念だけど今回だけは彼らには回避に専念して貰う。
矢鵺歌が援護と称して時々若萌に向けて撃って来る。
やってくれる。毒づきながら若萌は飛んできた矢を幾つか叩き折りながらアルティメイトキマイラに矢を突き立てて行く。
ブレスが意味無いと気付いたアルティメイトキマイラは悔しげに呻きながら若萌に対して爪の連撃、噛みつきと行うが、図体がデカ過ぎるため、これを足場に直ぐに逃げられる。そしてお返しとばかりに矢が突き立つ。
一撃一撃はそこまでのダメージではない。しかし、痛みがアルティメイトキマイラを仰け反らせる結果となる。
アルティメイトキマイラは尻尾まで使いだし若萌を迎撃に向かう。だが、毒液はスーツに弾かれ、有効打にすらなりはしない。
焦れたアルティメイトキマイラは背後を振り向きざまに尻尾の一撃。
若萌はこれを待っていた。
「致死之痛撃」
矢鵺歌に見えない死角で、若萌は聖剣セレスティアルフェザーを引き抜き尻尾を一太刀。
ぶった切られたアルティメイトキマイラは、想像を絶する痛みに大絶叫を轟かす。
即座に剣をアイテムボックスに仕舞い、悲鳴を上げるアルティメイトキマイラにコバルトアイゼンの矢を打ち込んでいく。
「やった!? でも、どうやって斬ったのかしら」
「稀良螺、気を付けろ、あの野郎まだ何かするつもりだぞ! 回避準備しないと!」
痛みに仰け反りながらもアルティメイトキマイラは怒りに燃える瞳で若萌を射抜く。
ぐっと身体を縮ませ、来るッ!
空中に居た若萌はギリと唇を噛んだ。
逃げ場が無い。体当たりが来る。
砲弾のような巨体が弾丸の如く飛んで来る。やるしかない。っと突撃してきたアルティメイトキマイラを足場に跳ぶ。足に物凄い衝撃。
とっさに回復魔法を唱えて自身を回復。今ので折れた脚を即座にくっつける。
逆方向の壁にぶち当たったアルティメイトキマイラが振り向く。
その視線の先には、避けたはいいが呆然と彼を見上げる矢鵺歌。当然演技だ。
気付いたギーエンが走る。
再び突撃体勢に向うアルティメイトキマイラ。
マズい。このままじゃ未来通りになってしまう。
若萌はアイテムボックスに手を突っ込む。
迷ってる訳にはいかない。奥の手を一つ、切らせて貰う。
ギーエンに庇われ吹き飛ばされる矢鵺歌。驚きの顔に一瞬、嘲りと期待の笑みが浮かぶ。
ギーエンがここで殺され、嘆く自分を楽しむ気だ。
絶対にさせない。若萌は決死の覚悟でソレを引き抜いた。




