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外伝・嘆きの洞窟5

「ん? ここまで来る軍団がいるのか?」


 エルダーマイアの兵士達と野営を行っていた斎藤琢磨は、やってきた男女に気付いて作業を止めて顔を上げた。

 隣に居た伊丹十三もまた、食事の準備を止めてやってきた兵士達を見る。


「大方先に先にとここまで来たんだろ。実力無しじゃ……九人だけ?」


「ってことはそれなりに出来るってことか、何処の国……の?」


 琢磨は兵士達の中に、見知った顔を見付けて言葉が止まる。

 それに気付いた十三もまた彼の視線の先を追って気付いた。


「「桜井」さんっ「っ!?」」


 男達の声に兵士達もなんだ? と作業を止めてやってきた男女に視線を向ける。

 やってきた男女も琢磨達に気付いたようで、一人、突出して女性が駆けだした。


「琢磨君、伊丹君っ」


「嘘だろ、何で……」


「もしかして助け出された、とか?」


 不安げに顔を見合す二人の男は、駆け寄ってきた稀良螺に疑惑の眼を向ける。


「あ、あれ? 二人とも?」


 二人がなぜか警戒しているのに気付いた稀良螺も途中まで近づいたものの足を止めて戸惑い気味に近づくのを止めた。


「名前は?」


「え? 桜井稀良螺、だけど?」


「どうやって……ここへ?」


「どうやってって、あの……」


「彼らは警戒しているのよ。貴女は魔王に真名を奪われてるんだから。ここに来ているってことは魔王の差し金だってことでしょう?」


 追い付いて来た若萌が稀良螺の後ろから告げる。

 それでようやく合点がいった稀良螺はああ。と納得したのだった。


「初めましてエルダーマイアの勇者たち」


「え? あ、おう?」


「あんたは?」


「元ルトバニアの勇者、河上若萌。こちらは弓羅矢鵺歌。同じ元ルトバニアの勇者よ」


「初めまして」


 矢鵺歌は言葉短に告げる。人見知りのようで、若萌の後ろに隠れてしまった。

 若萌は横目でそれを追って迷惑そうにしながらも、遅れてやってきた兵士達に視線を向ける。


「こちらはネンフィアス帝国の軍人さん。あと、ノーマンデのおじさん」


「待てや嬢ちゃん。俺はノーマンデ王国のギーエンだ。よろしくな!」


 にかっと笑みを浮かべて呆然としていた十三の腕を取り強制握手。

 ぶんぶんっと振った後は隣の琢磨の腕を取り同じく握手。

 そしてがははと笑い始める。

 厚かましいおじさんという位置付けをした琢磨と十三はギーエンを放置する事にして若萌に視線を向ける。


「ネンフィアスと一緒に魔王軍も来たってことですか?」


「魔王軍。というよりは魔王領に身を寄せてる勇者三人だけね。ああ、ちなみに私たちは魔王に真名預けてるから、稀良螺を真名命令しても意味ないからね」


 後ろの方で小声で稀良螺に真名命令を仕掛けていた兵士に告げておく。

 苦い顔をしながらそいつは去って行ったが、琢磨たちは気付いていなかったようだ。

 稀良螺は気付いてしまい複雑な顔をしていたが。


「ってことは、やはり桜井さんは操られたままか」


「操られたというか……あのね、二人とも、確かに真名は奪われたんだけど私は……」


「言い訳になるから無駄だと思うわよ。一応、伝えておくと、魔王が出した命令は魔族や自分たちに攻撃をしないこと。だけよ。あとは魔王以外からの真名命令を聞かないようにするってことくらい。彼女、襲われた訳じゃないから身体は清いままよ」


「ちょ、若萌さんっ!?」


 赤面する稀良螺を無視して若萌は兵士達を見る。


「ねぇ、報告じゃもう一人居たはずだけど、どうしたの?」


「え? あ、ああ。光子のことか」


「それについては、その、俺達は何も出来ないんだ」


 疑問符付けた若萌と口ごもる琢磨と十三。


「俺らは、真名を握られてるんだ。猊下に」


「え?」


「光子は猊下が側に侍らしてる。一応何もされてはいないと言ってるけど、真名を握られてるからそう言えと言われているのかもしれないし、俺たちじゃ奪還も出来ないし……」


「ちょ、ちょっと待って。それって、勇者を真名で縛ってるのエルダーマイアは!?」


 稀良螺の声が予想より大きく、兵士達が一斉に視線を向けて来る。

 焦った稀良螺は思わず口ごもり、うっと呻きを上げた。


「残念だがそんなところだ。お前が真名を奪われ魔王軍に連れていかれて直ぐだ」


「俺らの真名は神官共に奪われ、そのまま猊下が自分以外の命令を聞かないように告げて来て、エルダーマイアを裏切るなと命令されたんだ。光子はその時猊下が自分の身を守るようにといいだして、側近に。その後は会ってない」


「なんてこと……」


 きっと、稀良螺も魔王に出会ってなければ光子と同じ結果になっていただろう。

 と言っても本当に護衛だけの可能性だってある訳だが、男性に真名を握られているというのは女性にとっては余り良い気分ではないだろう。

 余程信頼できる存在でなければだが。


 その点、若萌は安心している。何しろ相手は母が好きになった相手なのだから。

 といっても、少々危ない場面が待っていることは理解しているつもりだ。父からそれについてはしっかりと聞いているので対策は万全であった。

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