外伝・嘆きの洞窟4
オオマジロとサーベルパンダに対峙する四人の男達。
一人はノーマンデ王国期待の英雄ギーエン。残りはネンフィアス帝国期待の英傑ラスレンティス、フローラモ、オーガン。
全員肉体言語で会話しそうな厳つい男達だ。残念ながら魔法使いはおらず、皆白兵戦特化の男達である。
そうなると、当然ながら力によるごり押しがメインと成るのだが、相手のレベルは502。こちらのレベルはギーエン以外200前後ということで、かなりの差があった。
そのため二体の敵に二人づつ、ではなく、二体纏めて四人で闘うことになる。
ギーエンが自然盾役を行うことになり、その隙を付いた三人が各々敵にダメージを与えて行ったり、もう一体の誘導を行ったりしているのだ。
初めての共同作戦だというのに、四人は普通に連携して見せた。
流石は訓練された兵士とでもいうべきか、肉弾特化の男達は会話すらなくフォローし合いながら行動していく。
この点は若萌には出来ない芸当で、素直に感心してしまう。
致命的な隙だけは若萌が矢を射ることで敵を牽制したが、殆ど自力のみで彼らはサーベルパンダを下し、丸まったオオマジロを集中攻撃で撃破した。
ラスレンティスたちが急激なレベルアップを行い、ギーエンも多少レベルが上がったらしい。
皆で手を叩き合って喜び合う。
「素晴らしい連携でした」
「おうよ。敵対国の兵士ってのが悔しいくらいに良い動きだ」
「ギーエン殿こそ。こちらが何も言わずとも痒いところに手が届く行動力には驚かされましたよ。どうです、ウチに来ませんかな」
「はは。お誘いは嬉しいが俺ァノーマンデッ子なんでな。愛する国捨てて他国に鞍替えしましたなんてぇのはムリな話さ。だが、また国同士の諍いがねぇ闘いでなら一緒してぇな」
「それは残念。だがこちらこそ、共闘できる日があるならば是非に」
フローラモとギーエンが意気投合したように肩を組みながら笑い合う。
おっさん同士の友情があるらしい。
若萌にはどうでもいいので放置して部屋から出る。
「どうですかな、お嬢さん?」
「充分ね。倍のレベル差を物ともしないのには驚きを通り越してあきれたわ」
「はは。俺らの実力はネンフィアス皇帝陛下直伝だからな。兵士たちは皆陛下の辿った道を少なからず辿らされるんだ。恐れを知らぬ勇敢な戦士になるためにな」
「つっても、ギーエン殿が居なけりゃ俺らじゃ力負けしてたけどな」
「違ぇねぇ。はっは」
笑いごとじゃないでしょう。
若干不安を覚えながらも若萌は男達の先頭を歩く。
丁度通路に矢鵺歌たちが出てきたところだった。
「そちらも問題無かったみたいね」
「ええ。矢鵺歌さんの方はどうでした? 彼らはフォローは殆ど必要ありませんでした」
「こちらも問題は無かったわ。稀良螺さんもいましたしね」
バチリ。気のせいだろうか? 稀良螺は二人の視線に火花が散ったような気がして一瞬ゾクリと悪寒を感じた。
もしかして仲が悪いのだろうか? 思いはしたが、悪寒は嘘だったかのように二人普通に話し始めたので、そのまま合流して六十階層を目指す。
この後は六十一層、七十一層で一度ずつ闘い戦力を底上げし、八十から九十層あたりに居るだろうエルダーマイアの兵団に合流するつもりだ。そこで稀良螺と仲間を合わせ、話し合い次第では共闘しながら100層へと向かう。
もしも敵対したとしても若萌と矢鵺歌がいれば問題は無いだろう。
若萌にとってはある意味大問題ではあったが、敵対は行われないことは事前に知っているのでその辺は安心している。
全員で小部屋に入って六十層に居るレベル607の魔物や、七十層のレベル703の魔物を撃破して一日掛けで百階層へと辿りつく。
階層自体は狭いので、5分もあれば下の階層に辿りつく。小部屋に入ると1時間2時間は過ぎるという具合なので、最短500分で最下層に辿りつけるのだ。流石に歩き通すのは疲れるので途中の通路で休憩はするのだが。8時間20分程で辿りつけるため、エルダーマイアは最下層付近に野営準備をして、強行軍を強いているそうだ。
「変な洞窟ね」
「人族のやりやすいように設計されてるのよ。便利でしょ」
「良く知ってますね矢鵺歌さん」
「え? ええ。ロシータに聞いたの」
「ロシータさんに……? 物知りなんですねその方」
ロシータに聞いてるわけ無いだろ。と思わず突っ込みそうになった若萌は咳を一つ付くだけで台詞を飲み込み、キラキラとした尊敬の瞳を向ける稀良螺とたた口ごもり気味に答える矢鵺歌から視線を外す。
何度か戦闘と休息を挟みながらも、一日掛けて98階層にやってきた彼らは、ついにエルダーマイアの駐屯地へと辿りついたのだった。
そして、稀良螺の知り合い三人との邂逅が今、ついに果たされる。




