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200話突破記念・ルトラの成り上がり

 ルトラッテ・ミンクティク・ポーライの居た時代では、魔王が猛威を奮っていた。

 暴虐の限りを尽くす魔王は人族ばかりか魔族をも消し去らんと、馬車馬のように働かせており、ルトラもまた、すり潰される魔族の両親により生まれた奴隷身分の少年だった。


 幼い頃に父が重労働で過労死し、母はルトラを育てきれずに捨てた。

 ルトラは孤児として街中での生活を強いられ、各地を転々としながら魔族の回収部隊から逃げる日々を送っていた。

 この頃、回収部隊という名の、強制労働に使う人足を確保する部隊が各地を回っており、孤児や浮浪者を攫っては鉱山などで働かせるという制度があった。

 時の魔王が推奨し、人間を駆逐するために魔族たちは使い潰される部品であったのだ。


 数年。場所を変え、街を変え、やがて彼は辿りついた。

 回収部隊も絶対に来ないとされる街。

 絶対的支配者が存在し、魔王すらも恐れる神殺しの屋敷がある街だ。

 魔神、ディアリッチオ。その屋敷を前に、ルトラは生唾を飲み込んだ。


 彼はずっと路上生活を行っていたが、この日ばかりは泉を使って汚れを落とし、身なりを綺麗にしていた。

 考えにはあったのだ。だが、今までは向う勇気が無かった。

 だけど、今日、偶然見つけてしまったのだ。路上に全裸で横たわる母を。壊れた彼女を見てついに決意した。


 一人、屋敷の扉をくぐる。

 入る時は自由に入れる。しかし、ディアリッチオの屋敷から出る事が出来た者は居ない。

 ディアリッチオの怒りを受け、消滅したからだ。

 そんな噂が街中で良く聞かれた。

 露店でかっぱらいを行い捕まると、店員から良く聞かされたものだ。次やったら魔神の屋敷に放り込むぞ。と実際には何度も捕まって解放されていたが。


 そんな危険地帯に、ルトラは一人、侵入する。

 広いエントランスを潜り、幾つかの部屋を見て回ると、書籍が沢山存在する部屋にそいつを発見した。

 紳士服の初老の男。普通の魔族と言われれば納得できなくはない。だが、ルトラは直ぐに理解した。


「でぃ、ディアリッチオ様で、いらっしゃいますか!」


 詰まらず言えたのは奇跡かもしれない。

 ルトラは緊張する身体に力を入れる。

 ここで怖気づいては終わってしまう。

 自分以外の声が聞こえたためだろう。調べ物をしていたディアリッチオが顔を上げる。


「おや、孤児ではありませんか、私に何か?」


「お願いします。俺に……俺に魔王を討てる力をくださいッ」


「……ん? 魔王を? 君がかな?」


 面白い事を言う。そんな顔をしていた。

 決意を持ってディアリッチオを見る。

 眼を逸らせるつもりはないルトラに、ふむっと顎に手をやり考えるディアリッチオ。


「そうですね。暇ですし少し手伝ってあげましょう」


 そしてルトラは限界を越えた。

 当時の魔王のレベルは1800。ルトラのレベルは1900。充分過ぎる程に強くなっていた。

 ルトラは憤る魔王を屠り、実力で魔王の座に座る。

 魔神達に挨拶を行い、玉座に座ったはイイのだが、馬車馬のように働かせる魔族を止めたことで人族が魔族領に侵入を開始し、さらには魔族から今までと違う方針に戸惑いと罵声が掛けられる。


 魔王の側近たちはこぞってルトラを影で罵倒し、王は玉座にいるもの、と自分たちで政治を行い始める。

 完全な御荷物として、象徴化させられ始めたルトラは焦る。

 自分に対し舐めた態度を取る魔族たちは彼が何をしようとも取り合わず、魔王が倒されては大変だと玉座に座らせるだけにしようとするのだ。


 当然、切れた。

 魔族も人族も纏めて消し飛ばし、己が力で暴虐の限りを尽くす。

 魔神、ルトラの誕生だった。


 当時の魔族と人族は魔王ルトラを危険視し、共同で魔神封印を行う。

 それでも多数の犠牲者を出し、魔神ルトラは東の大地に封印されるのだった。

 そして、魔王として選ばれたのはルトラ封印を指揮した魔族の若き英雄。しかし、あまりにレベルが弱かったために淘汰され、それからしばらく無数の王が誕生しては消えて行くを繰り返した。


 その間、人族は魔族との融和を行おうとしたのだが、次々に変わる魔王たちは融和と敵対を繰り返したため、人族は魔族との交渉を諦め、敵性分子として戦争を行うに至った。

 良くも悪くもルトラは魔族の転換期を作りだし、魔王ギュンターが生まれるまで、魔族は混乱期へと突入するのだった。


 また、今回のルトラ封印で人族魔族の1000を超えるレベル持ちが軒並み殺されたため全国の平均レベルがまた下がったのはルトラのせいである。

 結局ルトラからギュンターに移るまではレベル500から800の魔王達がごろごろと生まれることになったのだが、それでも魔族が駆逐されなかったのは人族のレベルがそれ以下に下がっていたからに他ならない。

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