トラップモンスター2
――なんだ、儂に失敗がないか? 変なことを聞いて回っているな河上よ――
不意にフラッシュバックしたのは、秘密結社に向う前、クラスメイトの一人一人に失敗談とそれをどう克服したかを聞いた時だった。
とある女生徒に聞いた時、にっちゃうどうこうの話を聞いたのを思い出した。
――そうだな、ああ、二度目の異世界に行った時のことなのだが、その世界ににっちゃうというよわっちぃ魔物がおってな。他の五人のクラスメイトと勇者とその仲間になって魔王退治~みたいなのをしておったのだが、にっちゃうが可愛くてな。黄色い毛のにっちゃうを見付けて持ち上げたのだ。無害で可愛らしい魔物だったから捕獲できた嬉しさで皆に見せたくてな。報告しに行ったら――
そう言えば、俺は参加しなかったがクラスメイトたちは何度か異世界に行ったんだっけ、俺でも二回、いやここで三回目になるのか。あ、いや、クラスメイトに連れられてもう一つの異世界にも行ったから四回目になるのか。結構波乱万丈な人生送ってるな自分。
とりあえず俺のクラスメイト達はなぜか異世界に飛ばされたり向うことが多かった。
その中の一人は今の俺と同じような勇者魔王の世界に行ったらしい。
にっちゃうもいたらしいからこの世界なのかもしれない。
いや、でもあの世界では魔王が討伐されて平和になったんだったっけ? じゃあ別の世界か。
まぁいい。それより問題はこの後だ。あのクラスメイトは、確かこう言ったはずだ。
――腕が吹き飛んだ。ん? ああ、回復魔法があったので問題無かったが、その油断で勇者を殺してしまってな。勇者は召喚の間に飛ばされて生き返ったからいいが。ああ、そうそう。魔王倒すまで勇者は死なんらしいぞ――
向こうの世界では勇者は死なないらしいが、こっちはどうなんだろうか?
試す気にはならないな。
それより問題は、黄色いにっちゃうだ。あれは普通のにっちゃうとは違うらしい。
そう、その名前はにっちゃう・つう゛ぁい。
弾丸特攻を持つ黄色い悪夢。
認識した瞬間、俺は走りだしていた。
雑魚モンスターだと判断して槍を構えたMEYが攻撃を繰り出す。
その瞬間。敵と認識した黄色いにっちゃうが愚か者め。とばかりにぎゅっと身体を縮める。
「MEYっ!」
ぎりぎり間に合いMEYを横から掻っ攫うように飛び込んだ俺の足元を物凄い衝撃波が襲って来た。方向が変えられ、俺の身体が横から地面に落下する。MEYをなんとか身体で守りながら二転。三転。MEYが小柄で助かった。これが若萌だったら多分地面にこすれて彼女にダメージが行っていただろう。
髪が汚れたのはどうしようもないが、致命的なダメージからは逃げ切れたらしい。
どうなった? と俺は目を開く。
うっ、これはちょっとマズいか。
マウントポジションでMEYに圧し掛かっていたので慌てて飛び退く。
「何すんのよまこっちぃっ、折角にっちゃうでスキル上げを……は?」
もーっと俺に不満をぶつけながら上半身を起こしたMEY。直ぐ横の惨状が目に入り、思わず呆然と見入る。
森の中だったはずだが、ある一点から真っ直ぐに茶色く耕されたように土が盛り上がって見える。
視線をずらせば一直線の線を描くように木々が薙ぎ倒され、ブチ抜かれ、丁度俺達の方へと向かっていたらしい黒い熊が胴体をブチ抜かれてゆっくりと倒れるところだった。
その熊の背後に、黄色い毛玉がいた。
「え? 何、どうなったの?」
MEYの言葉で我に返った矢鵺歌と若萌が俺達の元に駆け寄って来た。
未だに呆然としているMEYを二人で立ち上がらせ、無理矢理引きずって逃走する。
取り残されるのもアレなので俺は慌てて三人の後を追った。
「あ、焦りました」
「予想外だったわ。あれはたぶんにっちゃう・つう゛ぁい。にっちゃうの亜種よ。攻撃手段は普通のにっちゃうに特攻が加わっただけなんだけど、ミスリルゴーレムやアダマンタイトゴーレムも貫くらしいわ」
「はぁ!? 聞いてないし! そんな危険生物いるなら先言えよっ!?」
「今思い出したのよ。昔母さんの知り合いに教えて貰っただけだったし。誠が気付かなかったらMEYさん死んでたわよ」
「ヤベェじゃん!? うわ、今更だけど震え止まんない」
森の一角で態勢を整える俺達。
衝撃的な敵の出現に俺達は改めて魔物の危険さと死の恐怖を思い出した心境だ。
しかし、レベル上げは継続する事にしたらしい。
どうでもいいが、若萌が聞いたにっちゃうの話、俺が聞いた話と同一人物の話じゃないだろうな。
まぁ、どうでもいいか。この世界以外の事は俺にはもうどうでもいいことだ。
せいぜい豆知識程度に使わせて貰おう。
そういや、あのつう゛ぁいの洗礼受けたクラスメイト、その後黒いにっちゃうを彼氏からペットに貰ったとか嬉しそうに語ってやがったな。なにしてんだクソ怪人は。リア充爆死しちまえ。




