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外伝・嘆きの洞窟2

 嘆きの洞窟前でエルダーマイアの兵士達が待っていた。

 既に来ていた周辺国の兵士や冒険者の身元確認や、魔族が紛れていないかを見ているようだ。

 若萌たちも簡単な確認を終えて洞窟前に集合する。


 野営の準備をしている他国の兵団を見て、ネンフィアス帝国兵たちも野営を始めていた。

 どうやら洞窟入り口にテントを作り、何日もかけて洞窟を探索するようだ。

 洞窟自体はかなり巨大な入口をしているため、団体で入っても問題無いらしいのだが、その分大型生物が闊歩しているらしいので油断は禁物らしい。


「そちらはネンフィアスで合っているか?」


「うむ、私は全軍指揮を預かっているロイドという。そちらは?」


「おっと、これは失礼。ノーマンデのギーエンってんだ。うちの隣の国の兵が来てるって聞いたからよ。どんなもんか見に来たのさ」


 ギーエン。その人物についてはセイバーから話を聞いている。

 ノーマンデで唯一レベル400を超えているとか。デスサイズベアを倒せる人材らしく、ここで彼をさらにレベルアップさせようという腹積もりらしい。


 若萌は知っている。自分が何も手を下さなければ、彼はこの洞窟で死ぬということを。

 その話を、彼女は未来のセイバーから既に聞いているのだ。

 なので、あまり話をしないようにと彼の視界から逃れることにする。


「しっかし、女まで兵士にしてんのかよネンフィアスは? しかも三人も居やがる」


「わ、私は違……」


 稀良螺が思わず声を出しかけたが、洞窟に入るまでは秘密なため、矢鵺歌により口を塞がれた。


「嬢ちゃんたち、あんま無茶すんなよ。力仕事ってなぁ、俺らみたいなおっさんに任せてりゃいいんだからな」


「あ、あはは。まぁ、皆さんに守られながらがんばりますよ」


 矢鵺歌が適当に話を切り上げギーエンから距離を取る。

 彼女もあまり話をする気は無いらしい。

 もしかしたら嫌いな部類の人間なのかも。だから今のうちに殺させたのだろうか?


 野営の準備を手伝おうとした若萌は、不意にやってきた一団を見て顔を上げた。

 ルインタの兵団、女性部隊だ。

 女性のみで構成されたルインタ王女の近衛兵団。どうやら今回の戦力底上げに無理矢理に参加させられたようで、不満を口にしながら野営準備を行っている。

 同時にやってきた男性兵士たちがこれ幸いと彼女達の野営を手伝っているのは、これを機に綺麗どころの彼女を手に入れようとしているのだろう。


 果たして彼らの何人が思いを実現に出来ることだろう。

 特にこれから起こる悲劇からの生還を果たした後でのことだ。

 もちろん、自分だって出来る限りは行うが、女神監視下の元である以上最後の奥の手だけは絶対に切ることはできない。


 レベル4000。それだけあっても油断できない。

 だから若萌はディアに頼んだのだ。

 それでもかなり不安はある。


 自分にやれるだろうか? 更なる災厄に突き進まないだろうか?

 いや、やれるはずだ。自分が行うのは時間稼ぎ。アレが現れるまで被害を最小限にするだけの時間を稼げばいいだけなのだ。

 女神のいいようには絶対にさせない。彼女は、その為にここに来たのだから。


 その為の知恵は、その為の力は、全て自分の中にある。

 真名についてだけが不安の種だったが、話を聞いていた通りに行動したおかげか、無事セイバー専用に成った。後の不安は強制解除による真名略奪だが、こればかりは防ぎようが無い。

 せいぜい女神の眼に止まらないように動くしかないだろう。


 大丈夫。

 一人、眼を閉じ胸に手を当て言い聞かせる。

 私ならやれる。私は、そう、私はあの人の娘なのだから。

 全てを救う。救世主の娘なのだから。そして……

 正義の味方、ジャスティスアイゼンは絶対に、悪を討つ。


 決意新たに眼を開く。

 見据えるのは嘆きの洞窟。

 ここが若萌にとっての最難関だ。

 上手い立ち回りを要求されるターニングポイント。


 女神監視下の元、気付かれることなく自分の爪を隠したまま、災厄を乗り越える。

 稀良螺達にすら言えない自分だけの決意。

 握る拳に力を込めて、小さく、一言だけ呟く。


「私、やるから。見ててね……お父さん」


 野営が整い、宴会が始まる。

 景気づけに周囲の他国兵を巻き込み盛大に騒ぐ。

 若萌は未成年という理由で酒だけは断り、稀良螺と二人乱痴気騒ぎを客観的に見ることにした。

 矢鵺歌がなぜか酒をかっくらって裸になろうとしていたが、それを止める以外は完全放置だ。

 おっさんが脱ごうが裸踊りを始めようが、少女二人は白けた眼で見つめただけだった。


「こんなこと言っちゃ悪いんだけど……この世界の人、ちっちゃいですね」


「誰を基準にしてるか知らないけど、あんたも酔ってんの?」


 二人は顔を赤らめる事も無く、さざなみすら立たない海辺のような気持ちで宴会を見続けるのだった。

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