ネンフィアス帝国にいってみた5
「で、結局許可降りたのね」
呆れた顔で馬車の前に佇むのは本日からネンフィアスの兵士と共に遠征を行う若萌さんである。
同じく矢鵺歌と稀良螺も馬車に乗り込み武具の整備を始めている。
ネンフィアス皇帝陛下は善は急げと早速兵団をくみ上げ遠征準備、次の日にはこうしてエルダーマイア遠征軍を用意したのである。
流石に皇帝自身が出張ってくる事は無かったが、軍団の士気はかつて無いほどに高い。
これもマイツミーアにボロ負けした自分たちが嘆きの洞窟で強化されると聞かされたためだ。
次は負けないと気勢をあげていた。
彼らに途中まで同行するのはこの軍隊が魔王領を横断するからである。
別に何かするか疑惑があるというわけでなく、魔族のアホな奴らが襲いかかって来ないように見張るためだ。
若萌が馬車を操り、俺は馬車内で過ごす。
魔王、女好きだなぁ。とか兵士達から聞こえるが、違うんだよ。ただ馬車の手綱も握れない役立たずなだけですよ。
まぁ、扉が閉じれば内部を見ることは出来ないしな。変な考え抱くのは仕方無いだろ。
「セイバー、マイツミーアの嬌声押さえて、兵士達がガン見してるわ」
「は? 嬌声って、ただモフってるだけだぞ。そんな声……」
「出ておったな」
「うむ。出てた」
「恥ずかしいほどの声でしたね」
女性陣から口々に言われる。待ってくれ、誤解だ。兵士どもは勘違いしてるんだ。というかマイツミーアなんでそんな事後みたいな顔してるんだ?
「それにしても、嘆きの洞窟かぁ……戻れるんですね私……」
稀良螺は信じられないといった面持ちで告げる。
もともとエルダーマイア側の勇者だからな。魔王軍に捕まって慰みモノにされる未来でも抱いていたのだろうか?
俺はそういう趣味は無いのだ。いや、だって正義の味方な訳だし……そういうことは悪だろ?
「あ、セイバー、魔族が来てるわ。十人ぐらいの男達ね」
「この行軍に近づいて来るのか。度胸あるな」
俺はユクリと共に外にでる。
なぜかユクリが付いて来たいというので一緒に降りたのだ。
馬車から降りてやってくる十人の男達を見る。
皆、魔族のようで、青い肌の男や赤い肌の巨漢。緑のオーガなどがいる。
「何か用か?」
「へへ、人間共が大挙してるから見に来たのさ。全滅させようかと思ってなぁ。俺らの力を見せつけもう一度魔王軍に取り立てて貰うのさ!」
代表して青い肌の男が告げる。長髪にM男君カットなので見た目がイラッと来るのだが、我慢すべきだろうか?
「あー、セイバーや。軍は各地からいつでも志願兵を募っておってな。己の実力をそこで見せれば兵士になれるのだ。ただ、兵士にすらなれない雑魚もいるのでそういうのをそいつの村に叩き返す事はあるがな」
「ふむ。つまりこいつらは叩き返されたけど自分強いと勘違いしてるアホか」
「なっ。誰がアホだ!」
「こいつ、嘗めた口聞いてくれンじゃねーかよ! ぶっ殺そうぜ」
あ、ユクリさんが額に手を当て溜息吐いてるよ。
「俺らの実力見せてやんぜー。人族兵など蹴散らしぷらぁっ」
あ、しまった。突然走り寄ってきたから思わず顔面殴ってしまった。
鼻血噴いて倒れる男に戦慄する男達。
「ふむ、丁度良い。セイバー殿、これは倒して構いませんか?」
「え? あ、ああ」
後ろから掛かった声に頷くと、ネンフィアスの兵士五人が代表するようにやってくる。
あーっと誰だっけ、ラスレンなんとかとかいう、確かネンフィアス皇帝に名前呼ばれていた五人だ。
俺が何かを言うより先に、近寄って来ていた魔族を相手に勝手に闘いだした。
やべぇ、人族無駄に強ぇ。
瞬く前に鎮圧された魔族の男達はとりあえず命だけは取られなかったようだ。
良かったな。俺だったらまず殺してたわ。
兵士達は行軍を再開し、俺も馬車に乗り込み去って行く。
後には男達だけが折り重なるように倒れているだけだった。
ああ無残。荒野に男達が倒れ、風が彼らの頬を弄って行くのを見ると、空しさだけが募ってくな。
けど、結局何だったんだ今のは?
「ふむ。魔族といえどもピンキリのようですな。余り経験には成らなかったようで」
兵士たちは落胆にも似た顔で話し合っている。
こいつら無駄に強いからなぁ。俺達も油断したらあの男達みたいな結果が待ってるかもしれないな。日々精進しないと、悪に屈する日が来てしまうかもしれない。
「ところで魔王陛下、このまま行軍するのはイイですが、エルダーマイアまでどれ程かかりそうですかな?」
「んー、このペースだと三日はかかるかな?」
「途中町は?」
「いや、無いな。一日半ぐらい行った場所に魔王城があるからその城下町に泊れるけど……」
「では今しばらく歩いた後に野営の準備を行いましょう。フローラモ、野営を行う地はお前に任せる」
「了解ですラスレンティス隊長」
というわけで、兵士たちと野営する事になりました。




