外伝・動き出す悪意
初め、召喚した時は使い潰され消えゆく勇者たちを見るだけのつもりだった。
魔王はレベルが900代。今の勇者たちでは辿りつくのは数年かかる。そもそもエルダーマイア教国で召喚された勇者たちが向えば魔王国は滅ぼせるので、今回の勇者召喚で現れた勇者たちは異世界から来た存在が潰れて行く様を見るだけの、私の暇つぶしでしか無かったのだ。
だが、結果を言えば大悟はルトバニアの勇者に、誠は魔王国の勇者、もとい魔王となり、玲人は一国を牛耳ろうとして失敗し行方をくらませた。
他の面々も誰も落ちぶれてはいない。玲人もどうせ再起を図っているだろう。
困った結果になったものだ。
せっかくロールプレイしてみたというのに、これでは少々面白くない。
私は考える。この状況を変化させる術は何だろうか? 絶望が欲しい。
勇者たちが全力を出して、でも敵わず慟哭しながら息絶える姿を見ていたい。
その為に、私は作ったのだ。この世界を。
目の前に球を作る。
世界各所が見える球。創世の天球儀。
誠だけじゃない、大悟の様子も玲人の様子も、エルダーマイアの勇者たちの様子だって同時に見える。
そろそろ、手を打って行こう。
見学は飽きた。役者は揃った。
手を差し伸べてやろう。まずはこの駒を動かす。
誰が慟哭して逝くか、本当に楽しみだ。
だが、一つ気になる事がある。
チキサニの予知だ。ウェンカムイとは私を差す言葉だろう。悪しき神ではなく女神様なのだがな?
失礼な女だ。だが、面白いのでまだ生かしている。
奴はこの先破滅する運命が待っているのだ、手を下す必要などない。堕ち行く巫女の最後を嗤いながら見守ってやるつもりだ。
まずは嘆きの洞窟にアレを配置しておいてやろう。
想定外の敵を相手にした彼らがどうするか、見物である。
誰か死ぬだろうか? どんな人間ドラマを見せてくれるのだろうか? ああ、想像するだけで気分が高ぶる。
この世界は私の箱庭だ。
この世界は私が自由に出来るゲーム世界だ。
さぁ、楽しませてくれ勇者たち。
その勇気ある行動で、沢山の悲劇を生みだし悪意に呑まれて沈んで行け。
「ふふ、あはは……あははははははっ」
「ふにゃぁっ!? な、何、誰にゃ?」
おっと、折角トイレに個室で人知れず作業していたのに、別の奴が来ていたか。
私は作業を行いながら相手に声を掛ける。
「その声は、マイツミーアかしら?」
「あ、はいですにゃ。少し長引きそうだったのでちょっとトイレに」
「やはりまだ長引きそう?」
「はい。ユクリさんとネンフィアスの皇帝、実力が拮抗してるみたいで……」
「ユクリが遊んでるのね。全く」
ユクリか。魔王の娘のくせに勇者と婚約するなどおこがましい存在だ。だが、スパイスとしては丁度良い。どんな絶望に沈んでいくか今から楽しみで仕方無い。
しかし、ここ最近想定外の事が起こり過ぎな気がするな。
私の想定では誠が刺殺され、若萌が慰み者となり、MEYがエルフに殺され大悟は勇者として使い潰され玲人が国を堕落させ滅ぼす。そんな未来になっていたはずだったのだけど。その為に誠の力を封印してやったのに。まさか死んだ瞬間復活するとは思わなかった。
笑い声を慌てて引っ込めたせいでストレスが溜まったしロールプレイを続けざるをえなくなってしまった。
ロシータも、本来なら玲人の奴隷にされていたはずなのに、いつの間にか脱出してるし。あり得ない。悲劇のヒロインになり損ねたわ。
誰かが、私のシナリオに介入してるみたいね。
名前は分かっている。アンゴルモア。神出鬼没の半身機械の男。
あいつのせいで私のシナリオが滅茶苦茶になってしまった。でも、修正はようやく出来た。
ここから破滅への道筋が始まるのだ。
玲人もそろそろ良い感じに仕上がって来ているし、何処から始めるかを迷ってしまう位である。
ふふ、まずはネンフィアスの暗殺からかしら? 嘆きの洞窟後まで待った方がいいかしら?
今ならユクリに殺されたと出来るけど、それだけになってしまうものね、やはり摘むのはもう少し待った方がいいわ。
折角魔神たちも仕込んだのだから、もっと、そう、もっと世界を巻き込んだ嘆きと破滅を私に見せてっ。
ああ、今から楽しみだわ。
本当に、ええ、本当にっ。
「あのー、随分長く籠ってますけど、大丈夫ですにゃ?」
「え? ああ、そうね」
マイツミーアが心配そうに声を掛けて来たので天球儀を消してトイレを出る。
このトイレや風呂などは地球という世界を参考に作った。私がロールプレイするんだからトイレや風呂は普通に有って貰わないとね?
トイレをしていたと言うように水を流してトイレを後にする。
「それにしても、長かったですにゃー矢鵺歌さん」
「そうかしら? ちょっと考え事をしていたからそのせいかもしれないわ」
「矢鵺歌さんもあんな風に笑うんですにゃー」
「そりゃぁ、私だって面白いことや楽しいことには笑うわよ。ええ。嗤うわ」
クスリと笑い、私はマイツミーアと観客席に戻るのだった。




