魔神の庭のエルフ達7
よろめくように矢鵺歌が歩き出す。
目の前に存在するのは祭壇に飾られたパンツ様だ。
まるで長年求めていた神でも見つけたような顔をしている。傍から見ると普通に引く。
「こ、これ、手にとっても?」
「え? ええ。ただのショーツだし問題無いけど?」
と言いつつMEYは女エルフに視線を向ける。
「な、何よ。好きにしたらいいじゃない」
若干怯えと恨みを孕んだ眼で俺を見ながら女エルフは叩きつけるように言い放つ。
許可が出るや、矢鵺歌はロシータの名が入ったパンティを手に取り目の前で広げる。
「間違い、ないわ。これ、ロシータの……何でここに?」
「さぁ? この前の祭りの時に空から降って来たのよね。それ以外にもかなりのショーツ降ってたわ」
「ってことは、時期的に玲人に捕まった後位か? 脱走時に服だけ脱げたとか?」
「じゃあ、じゃあロシータは……無事? そっか。そっかぁ……ロシータ、生きてるんだ」
生存に確信が持てたのか、パンティを掻き抱き、涙を流しだす矢鵺歌。
意味が分かっていない稀良螺は矢鵺歌の奇行に戸惑っている。
同じ勇者で女性ということから一番気を許していた相手だけに、引くに引けないらしい。
いいんだよ、俺らみたいにパンティ抱きしめて泣くとかナイわぁ。とか思っちゃえば。
「MEY。とりあえず教えてくれてありがとな。矢鵺歌の心持ちが軽くなったらしい」
「あー、うん。なんかよくわかんねぇけどさ。役に立てたならよかった、かな」
頬を掻きながらMEYが言う。本人もよく分かっていない状況のようだけど。とりあえず矢鵺歌に変わって礼を言っておこう。
矢鵺歌が落ち着くのを待って俺達はエルフ村を今度こそ本当に後にするのだった。
御神体を持って帰るのも悪かったので、ロシータのパンティはそのままにしておいた。
MYEに返しておいたのだが、彼女も返されても……といった顔をしていた。
しかし、エルフはパンツを信望する種族なのか。ちょっと、付き合い方考えないとな……
森を後にした俺達は一度ディアの館へと向かい、ディアに一言掛けておく。
しかし、彼はやる事が出来ていたせいで俺の声を聞いていない様子。ルトラがああなったディアリッチオ様は聞く耳もたんぞ? と言っていたのでとりあえずルトラに伝言を頼む。伝言内容はネンフィアスとの和平交渉に向うかという内容だったのだが、これは聞いていたらしく、ディア自身から行かないというお言葉を頂いた。
余程庭いじりが好きらしい。庭の方針が固まるまでは話しかけない方がいいだろう。
ルトラに魔木の移動を伝えておくと、喜んで諸手を挙げていた。
毎日の水やりが無くなるだけでもルトラの負担はかなり減るようだ。
精神的に追い詰められてるなぁルトラ。魔神の威厳どこいった?
ルトラに別れを告げて馬車に乗る。魔王城まではしばらく馬車生活だ。
今のうちにネンフィアスに連れて行く人物を考えるべきなんだけど。
とりあえず若萌と矢鵺歌と稀良螺だろ。あとはマイツミーアだな。
「ネンフィアス帝国に行くのだったか」
「ん? ああ。ディアが行かないってことらしいから瞬間移動できないからな。今ぐらいから向えば丁度良い時期だろ」
「ならば余も行くぞ。まさか妻を置いて行くとか言うまいな?」
「いつ正妻になったんだろうな。まぁ行きたいっつーならまぁいいか。じゃあ魔王城戻って若萌を拾ってから直行だな。エルジーはどうする?」
今まで空気のように存在を消していた人族のスパイに聞いてみる。
こいつはいろいろ機密を握り始めてるからな。ルトバニアからしても手放せない程の優秀なスパイだろう。俺としては引き込んでやりたいが流石に無理か。
おそらく付いて来るんだろうがな。
「ええ、私は共に向います。問題はありますか?」
「いや。問題は無いよ。じゃあ向うのは若萌と矢鵺歌、稀良螺、ユクリ、エルジー、マイツミーアで……」
「それとラオルゥ」
「……」
「それとラオルゥ」
ラオルゥが俺の後頭部から抱き付きながら猛プッシュ。ラオルゥさんも来るんですね。仕方無い。というか、今の面子と変わらなくないか? 若萌が増えるだけのような?
「でも、行くのはいいけどネンフィアスが同行を許可します? 帝国なんですよね?」
「やるだろ。あのおっさんそういうの好きそうだし」
「どうだ、エルジーも一緒に?」
「遠慮しておきます。そちらにはそちらの影が付きますので」
ああ、そうですか。
あくまでエルジーは魔王の監視役なわけか。
まぁいい。とりあえずネンフィアスとの話し合いさえ終わればしばらく暇になるんだ。ギュンターとチェスかなにかしながら時間潰そう。他の国回るまでの余り時間とか結構あるからな。
若萌に時間配分教えて貰わないと。




