魔神の庭のエルフ達4
「な、なぁ、大丈夫なのか誠は?」
視界の片隅で、MEYが矢鵺歌に語りかけていた。横にいた女エルフと一緒にエルフ側から俺達側にさりげなく移動している。
エルクスがソレを見てイラッとしているが、俺はお前にイラついてるからな。
さぁて、どうぶっ潰してくれようか?
「大丈夫って、なぜ?」
「いや、だって、誠って弱かったろ?」
おいおいMEYさんいつの話を……ってMEYと別れた時はまだ覚醒すらしてなかったんだっけか。そりゃお荷物にしか思われてないわな。
だけどなMEY。そんな俺は今、魔王様やってんだぜ? 正義の味方のはずなのにな。何してんだろ俺?
「それでは……開始ッ」
長老の言葉と共に戦闘体勢に移行したエルクスが弓を水平に構える。
油断なく俺を見ながら背中の矢筒に手を回し、数本の矢を取り出す。
五本の矢を俺に向けて引き絞り、先制とばかりに一斉射。
凄いな。中心と逃げ場を潰す一撃散弾攻撃だ。
「金剛。ハンドフリーシールド」
せっかく覚えたのに全く使ってなかったスキルを使っておく。
戦闘訓練では使ったモノの、なかなか使う機会が無かったんだ。
まぁ闘い自体してないってのもあるけど。ホントレベルばっか強くなってるせいで自分のレベルがどれ程強力なのか理解できてないんだよな。
手加減しきれるだろうか?
全く動くことなく飛んできた矢を全てシールドで受け止めた俺は右手を動かす。
「ロードセイバー」
正義の味方時代では何度も呼び出した俺専用の剣。
正義力という謎の力次第で強くもなれば紙装甲にもなる諸刃の刃だ。
俺が自分が正義であるという想い次第で強くなり、自分の正義が揺らいでしまえばナマクラ刀相手にしてすら折れ曲がる程の弱さになる。
つまり、俺が自分を正しいと思い続ける限り、俺の剣は鋼よりも何よりも硬く切れ味鋭い剣となる。
「疾ッ!」
移動しながら連続の速射。
確かに当ればかなり痛そうだし、移動しているからこちらが目算を付けにくい。
さらにこちらが移動しようにも矢が邪魔をして動きを阻害する。
実に考えられた攻撃だ。
でも、それは実力が拮抗した相手までだ。
レベル差があり過ぎる存在を相手にした場合、これはあまりにもお粗末な戦法となる。
結果、俺はシールドと金剛で矢を弾きながら突撃。
驚くエルクスの眼前に肉薄すると、セイバーを振るい寸止めを行った。
アブな、後少し勢い付けてたら真空波発生してたんじゃないか今の。
レベルを上げ過ぎるのも考えモノだと思いながらも呆然としているエルクスに刃を突きつける。
「そ、それまで!」
「ば、バカな!? 長老、私はまだやれるっ!」
「今ので実力差すら分からんのか。長老さんよ。こいつが次期長老で本当に大丈夫なのか?」
俺がセイバーを消し去りながら尋ねると、長老は苦い顔で唸る。
血気盛んな若者たちのまとめ役としては良いんだろうけどな、致命的な場面で道を誤るかもしれんぞ。
その辺りはやはり経験の差になるだろうか? 老獪な狸になるにはまだまだ経験不足だな。
「正直、俺が出るまでもなかったな。これなら稀良螺にでも任せればよかった?」
「何で私?」
「いや、この中でレベルが一番低いじゃん。捕虜だからって理由でディアと対戦してないだろ」
ちなみに、俺は4500、矢鵺歌やユクリが4200、マイツミーアが4000でエルジーが1500だっけ? 捕虜になってからレベル上げてない稀良螺だけが800代である。ラオルゥ? アレは俺よりレベル高いだろ。
ほら、稀良螺が一番下じゃん。
「うぅ、レベル900間近で一番下ってどういう事なの……」
泣きそうな稀良螺を矢鵺歌とラオルゥが慰める。
いや、なんでラオルゥまで慰める側に入ってるの?
「クソ、もう一度だ、今度は油断はしないっ!」
エルクス、お前……今の稀良螺の呟きは聞こえてなかったらしい。
エルクスは矢を番え、俺に向けるが、もはや溜息しか出て来ない。
「あー、矢鵺歌。悪いんだけど同じ弓使いとしてアイツ絞って来てくれない?」
「え? メンドイ」
にべもない。
もういいや、放置で。あまりうるさいようなら悪認定しちゃってもいいよね?
『気に入らないから排除ってそれもうお前があ……いや、魔王だったな。失礼』
ナビゲーター、お前何言おうとした? 殴るよ本気で。
ブツクサ言いながらも矢鵺歌が俺に変わって前に出る。どうやらお願いを聞いてくれたようだ。あとで何かプレゼントしておこう。
新しい弓か、矢がいいだろうか? あとは服かな? 若萌にでも相談しよう。
「長老さん、そろそろ話を始めよう」
「う、うむ。だが、先程も言ったように……」
「違う違う。今度は当事者のディアを交えて話し合いしようってことだよ」
さぁ、エルフは生き残る事が出来るのか、ここが正念場だぞ長老さん。
魔神と対話と聞かされ額に脂汗浮かべる長老、ポックリ逝きそうだけど大丈夫か?




