森の中の大きな木
「シシルシの奴やりたい放題だなぁ」
ディアに念話をつなげて貰って報告を受けた俺は感慨深げに声を漏らす。
いや、別に深い意味はないんだが、シシルシの奴向こうで人族の眷族作るつもりらしい。
貴族院で数十人規模の付き人と共に行進しだしたそうだ。
あと、本音で話せる奴が一人出来たんだと。そいつが青い顔してるのが楽しいとか語ってやがった。ハルツェさんだっけか? ご愁傷様でございます。
とりあえず俺に言える事があるとすれば、あんまり考え過ぎるとストレスで鬱になるから気を付けてってことくらいかな。
ただいま、俺達はディアの森入口に来ていた。
一緒に来ているのは、ディア、ラオルゥ、ユクリ、矢鵺歌、稀良螺、マイツミーア、エルジーである。
護衛として来るはずだったペリカはハゲテーラとムイムイに魔将としての立ち振る舞いを教えると共に、スクアーレにより魔王近衛兵としての心得を三人揃って教わることになったらしい。
え? ルトラ? あいつは魔木化した奴等のお世話係だよ。今ディアの屋敷を借りて水やりしてるはずだ。サボったら魔木化した奴らが死ぬので丸わかり、そしらたディアさん自ら魔木化させますよ。といっているのでサボることはないだろう。
うっかり忘れてるってことはあるかもだけど、そん時は自業自得ってことで。
「ふーむ。ディアリッチオ様。余はあまり森の素晴らしさというものはわからんのだが、なぜかこの森は神秘な気配が漂っているように感じるぞ?」
「おや、分かりますか。ふふ。貴女は見込みがありますねユクリティアッド殿」
ユクリが森を見て感想を漏らすとディアが嬉しげに鼻を鳴らす。
おお、珍しく上機嫌だな。
「あのー、気のせいですかにゃ、あそこにある木、どっかで見たことあるようにゃ……」
一際突出している巨大な木を見たマイツミーアが小首を傾げる。
そんなマイツミーアの肩に手を回してモフってるのは俺です。
傍から見たら衆目の面前で女の子撫で回してるようにしか見せませんが、俺がやってるのは撫でてるのではなくモフってるのできっとセーフ。
「あの、矢鵺歌さん、アレ、放っといていいんですか?」
「ド変態には近寄らない方がいいわ。孕んでも知らないわよ」
オイコラ、どういう意味だ。
「むぅぅ、なんということか。儂のライバルはユクリかと思っておったが、ここにも伏兵が」
「余もこれはちょっと面白くない。面白くは無いのだが、マイツミーアの毛触りが良いのは確かなのがまた悔しい。ああ、この毛触り癒されよるわ」
くやしぃっと歩み寄って来たユクリだったが、マイツミーアの毛を触った瞬間モフラー仲間と化してしまった。このゴワゴワではなくネットネトでもない丁度いいふわっふわ感がいいんだよ。できるなら抱きしめたまま眠りたいくらいだ。それをやると色々な意味で大問題になるけどな。
「マイツミーアよ」
「ふにゃぁ!? な、なんですにゃラオルゥ様」
「モテモテだの」
「えええ!? これってそういうことじゃないと思いますにゃ!?」
俺、ユクリ、ついでにラオルゥにモフられながら森に入るマイツミーア。もう慣れたのか諦めた表情で歩いている。
ただ、尻尾が左右にぶんぶんと振れているので、嫌がってはいないようだ。
お主も好きよのぅ。とでも言っておくべきだろうか?
『くぅ、モフれんのが悔しい』
ナビゲーターのくせにマイツミーアに興味覚えんな。武藤なんぞドラゴンの肌でも触ってやがれ。
「魔王陛下。この森には多種多様な魔物が存在します、我々のレベル帯であれば問題は無いとは思いますが、お気を付けください」
「ああ。どんな魔物が出てくるか楽しみだ」
と、言ったそばから出現する魔物。悔しいがマイツミーアから離れる。
敵は……なんだコイツ?
「ふむ。パイソン系か」
パイソンってあれだろ。牛とかバッファローの仲間だろ? いや、おかしいだろ。コイツクワガタみたいな湾曲した角と額から突き出た角持ってるぞ、三つの角で突撃した相手を串刺しとかしてきそうだぞ。
こっち見て後ろ足でたしーんたしーんと地面蹴ってるぞ!?
「レベルは230くらいですね。大した魔物ではありません」
容姿はどう見ても大した存在だけどな。レベルという概念の意味不明さが浮き彫りになる感じだ。
せっかくなので矢鵺歌と稀良螺に連携して貰いながら撃破して貰った。
他にもフラッシュホースやらシルバーカブトやらドリルモーグなど雑多な魔物が出現する。
が、矢鵺歌と稀良螺だけで充分対処できる。
「レベル差って凄いわね」
「全然相手にならない。こんなに弱いと感じてもレベルは400くらいなんですよね。最初のレベル1状態だったら逆に相手からこんなふうに思われるのかな?」
稀良螺は自身の強さを今更ながら再確認したようで首を傾げていた。
一応、レベル800越えだから最高で半分のレベルの敵と闘う訳だけど、ステータス的に二倍の攻撃を受ける魔物が稀良螺に対抗できるわけもない。
そんな自分に戸惑いを覚える稀良螺が矢鵺歌との連携になれる頃、ついに大きな木が間近に見える広場へと辿りついた。
そこで、俺達は予想外の存在たちと邂逅を果たすのだった。




