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外伝・今日のシシルシさん20

「奥様、拉致完了しました」


「あらあら、まぁまぁ。やってしまったのねサライサ」


 とある貴族邸の一室に、麻袋を降ろした女が傅く。

 目の前には40代程の女性が一人。

 華美な装飾の服を着た柔和な笑顔の女性だった。


「確かに魔族の可愛らしい三つ目の少女を連れて来なさいとは言いましたが、こんな事をするとはおもっておりませんでしたわよ」


 丁寧に袋を取り外すと、困った顔のシシルシが現れた。

 シシルシは周囲を見回し、見覚えのない場所に来た事を察する。


「んー? 人攫いかと思ったけど、扱いがおかしい気がする?」


「御免なさいね。図書館でお見かけしたのでぜひとも我が家に来ていただきたいと思っておよびしましたのよ。まさか従者が拉致まがいの方法で連れていらっしゃるとは思っておりませんでしたの」


「シシーに家に来て貰いたかったの? なんでー?」


「それはもう可愛らしいお方だったもので抱きしめ……ゲフン。ぜひともお知り合いに成りたいと思いまして、ああサライサ、お茶と茶菓子の用意を」


「はっ」


 街娘の恰好をしたサライサは返事をするとともに颯爽と部屋を後にする。

 しばらく所在無げに佇むシシルシをいろんな場所に移動しながら前後左右余すところなく見つめる女性に戸惑っていると、サライサが戻ってくる。


「奥様、テラスの準備が整いました」


「そう、では参りましょう三つ目のお嬢さん」


 なぜかシシルシの手を取って歩き出す女性。謎の身の危険を感じつつも恐る恐る付いて行くシシルシ。

 どうでもいいことだがサライサの服装がメイド服に変わっている。

 男っぽい短髪ぼさぼさなせいだろうか、ぜんぜん似合ってない。


 中庭にやってくると、白いテーブルに椅子が二脚。

 奥様と呼ばれた女が椅子に座ったので、対面の椅子に座ろうとしたシシルシだが、なぜか女性に拉致されて彼女の膝に座らされる。

 どうやら本気で抱きしめることが目的だったようだ。化粧臭い。


「えーっと、それでー、シシーはなんでここに連れて来られたのかなー?」


「ぜひともお友達に成りたかったのです。多少無理矢理な気はしますが、どうぞ、美味しいですわよ?」


 確かに、茶受け用のクッキーも紅茶と思しきものも美味しい。しかし、人に抱きつかれたまま食べるのは落ち着かない。

 これがシシルシに悪意を持った誰かによる拉致であればさっさと始末すればいいのだが、彼女だたちに悪意が無い上に、どうも上流貴族の物腰が、シシルシが強硬手段で脱出する気をなくさせていた。


「ふふ。娘が小さいころを思い出しますわ」


「娘さん?」


「ええ。小さい頃はこうして膝に乗せて一緒に食事をしてましたの。流石に時が経ち過ぎて今は大き過ぎて膝に乗せられませんけど。それに何処を間違えたのかとても生意気に育ってしまって」


 きっと精神的に大きくなった後もしばらくこういう構い方をされたのだろう。

 そりゃあ嫌がると思う。マザコンにはならなかったようだ。


「お母様ただいま帰りましたわ……って。シシー!?」


 不意に、聞き覚えのある声が聞こえた。

 視線を向けると、どこかで見た令嬢がそこにいた。


「あれあれー? メルちゃん?」


 メルクリウ・カストレット。カストレット家の御令嬢がそこにいた。

 シシルシはメルと母親と思しき存在を見比べる。

 なぜか妙に納得してしまった。


 どうやらメルの可愛いモノ好きはこの母のせいでもあるんだろう。

 構われ過ぎた彼女はマザーコンプレックスは発症しなかった代わりに母と同じ可愛いモノ好きになってしまったようだ。

 つかつかと歩み寄って来たメルはシシルシを母親から取り上げると、開いていた椅子に座って自分の膝にシシルシを乗せた。


「大丈夫でしたかシシー。お母様の可愛いモノ好きのせいでご迷惑おかけしておりませんか?」


「んーん。連れて来られた時はびっくりしたけど大丈夫だよー」


「御免なさいね。母は思いついたら強引なのです。シシー、お母様は嫌いになっても私は嫌いにならないでくださいね?」


 などと言いながらシシルシの頭を撫でまわし、髪の毛を梳かす振りをして匂いを嗅いでいる。

 ああ、お母様の化粧臭さが移ってるとか、なんか聞かない方が良さそうな事を呟いている。

 しかし、この母にしてこの娘ありというべきだろうか?


 伯爵家って変なのばっかりなのかしら? シシルシは天を仰ぎながらどうでもいい事を思う。

 その後母と娘の間で何度かシシルシが膝の上を行き来する事になったのだが、誰も指摘する存在はおらず、王国からの影兵が彼女の足跡を辿ってここに迎えに来るまで、シシルシはただただ彼女たちとお茶会を楽しむのだった。

 シシルシ以外が物凄く楽しんだのだけは確かだが、シシルシが楽しめたかどうかは彼女は頑なに誰にも言わなかった。

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