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外伝・今日のシシルシさん19

 本日、フェレと共にシシルシは街に繰り出していた。

 お供にミンファとドーラ、ハルツェを従え、シシルシは楽しげにあっちへ行ったりこっちへ行ったりと忙しない。

 ミンファとドーラが人攫いに会わないかと気が気でないのだが、フェレ曰く、むしろ連れ去って貰った方がいいぐらいだとか。


 王族を攻める口実が手に入るので治安が悪いことが露呈してくれる方が彼女たちには都合がいいのだ。といっても、トリアットの件で過敏になった護衛部隊が影からシシルシたちを見守っているせいで危険人物がシシルシに近づいて来る可能性は限りなく低い。


 それでも寄ってくる時は寄ってくるのだが、そういう輩は危機察知能力が高いのでシシルシにちょっかい掛けようとすらしない。

 自分から死地に飛び込もうとしないから生き延びている猛者なのだから当然だろう。

 余程運良く近づいた阿呆ならばシシルシに攻撃や拉致など出来る可能性はあるがそれはむしろ運が無いというか、不運方向にメーターが振り切れた危険人物だろう。

 何しろ触れたが最後、魔神の怒りが向けられるのだから。


 屋台で串を買ったシシルシは、口元が汚れるのも構わずぱくつき、美味しいと笑顔を振りまく。

 ドーラが無言で口元を拭っているが、あのハンカチーフは高級ハンカチではなかっただろうか?

 ハルツェは徐々に従者化し始めているドーラとミンファに戦慄を覚える。

 二人ともシシルシが何かするたびにもー。と言いながらシシルシの世話を焼いているのだ。


 まるで手のかかる妹と買い物に来た姉のような振る舞いだが、見方を返ると手のかかる主に甲斐甲斐しく世話する従者に見えてくる。

 ハルツェはなんとかしないと。と思いつつも何も出来ない自分が歯がゆかった。

 かといって何かしら行動を起こしてシシルシに眼を付けられる訳にも行かない。

 そうすれば排除されるのは自分なのだから。


 最近、意味もなく胃に鈍痛が走るようになった。

 ハルツェは首を捻りながらも胃に定期的に走る痛みを感じて胸元を押さえる。

 どうにもストレスからくるもののようなのだが、その原因であるシシルシに指摘されてしまっているのが皮肉であった。


「ハルちゃんまた痛いの?」


「は、はい……」


「大変だねぇ。あんまり無理はしないでね?」


「は、はい。わかってますの」


 無理はするなと言うがシシルシが側にいる事が悪化の原因である。

 フェレはそれを察しているようで苦笑いしているが、どうでもいいことなので心配する様子は見せていない。

 ハルツェの孤軍奮闘なのである。


「そういえば、武闘大会がもうすぐ始まるよね。私達には関係ないけどシシーは見に行くの?」


「あー、赤いおぢちゃんから話は聞いたけど、どうしよっかなぁ。全国から来るんだよね?」


「強い人一杯来るみたいね。治安が悪くなるから貴族院の子は参加したり見に行っちゃいけないんだけど、シシーは交換留学生だからどうなんだろうね?」


「私は見たい……」


 むーんと唸るミンファにぼそりと呟くドーラ。

 ハルツェは平和な日々であればそれで構わないと思うのだが、シシルシが大会に向ってくれれば数日の平和な時間が訪れる。ハルツェにとってはシシルシが大会に行ってくれた方が心労が溜まらないのだ。


「そだねー。まぁ、もうちょっと赤いおぢちゃんたちと話し合った後だねー。近いといっても向こうは嘆きの洞窟攻略が先みたいだし。ふふ。でもちょっと暇つぶしにはなりそうなんだよねー。見に行っちゃおっかなぁ」


 そう言って三人娘に振り向いた瞬間だった。背後から迫る貴族風の女が布袋をシシルシに被せた。


「へ?」


 ミンファの間抜けな声が漏れた時には、袋に突っ込まれて掻っ攫われるシシルシ。

 フェレも想定外のことに大口開けて魅入ってしまっていた。

 慌てたのは王族から護衛を任されていた影のメンバーである。


 シシルシの護衛を影から行っていたのだが、それを掻い潜って女がシシルシに近づき、拉致してしまったのだ。

 あまりに一般人のように動き、颯爽と去ってしまったので反応が遅れたのである。

 彼らが動き出した時にはもうシシルシを拉致した女の姿は見えなくなっていた。


「ちょ、シシー!?」


「ど、どうしよう……」


 慌てふためくミンファとドーラ。そんな二人を見ながら、ああ、哀れな犠牲者がまた増えるんだ。荒涼とした瞳で空を見上げるハルツェは、何かサトリを開いた境地に達し始めていた。

 見上げた空はとてつもなく澄んだ空色をしていた。

 少しだけ、胃の負担が無くなった気がした。


「うーん。これは助けに向った方がいいのかしら?」


 全く心配していないのはフェレだけで、彼女は寮に帰って寝るか助けに向うかの究極の二択に迷っているのだった。

 寝に向えばオハナ摘みの刑が執行される危険もあるし、助けに向えば拉致された時何もしなかったことを怒られオハナ摘みの刑が執行される可能性がある。


「どうせ刑になるなら寝てようかしら」


 彼女の呟きは、風に流れて誰にも聞こえなかった。

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