全国王会議5
数時間後。いくつもの題材を話し合っていただけなのに随分と時間を掛けたようだ。
会議が終わり、途中から一言も喋らなくなっていたエルダーマイア猊下が足早に去って行く。
その表情はまるで般若のようだった。
内心ハラワタ煮えくり返ってるんだろうな。可哀想に。主に俺のせいではあるが。
一応、これからの俺の仕事は今回の話を向こうで聞いていたギュンターたちと相談し、ネンフィアスとの和平交渉やら、他の国との和平交渉を始める。ああ、その前にディアとディアの森の木を調査しないとな。
幸いネンフィアス皇帝との交渉は一週間後。ならその間にディアと一緒に行ってみるか。
そんな事を考えている俺の近くを、各王族が足早に去って行く。
皆、チラチラと俺を見て来るが、ロバートとディアがにこやかに笑みを返すとそそくさと去って行くのである。
「誠、ちょっと良いか?」
「ん? ああ、大悟か。どうした?」
「どうした? じゃないよ。お前ルトラの後始末ルトバニアに押し付けただろ! あれから大変だったんだからな!」
「あー、それはシシルシから聞いてるよ。頑張ったな大悟」
「頑張ったな。じゃないだろ! やるだけやって逃げるとか……」
「そう言われてもな。魔族がムーランの復興手伝う訳にはいかないだろ。俺達が出来るのはアレ以上被害を出さないようにさっさと魔族領に引っ込む事だけだ」
「そりゃそうかもだけど……」
「まぁ、なんだ。ソルティアラ姫とのにゃんにゃん時間奪って悪かった」
「ちょ、ちがっ。そう言う意味じゃなくて……っ」
うろたえる大悟を放置して逃げ……ディアに転移魔法を使って魔王城に向おうとした俺に、少女が近づいて来た。
レシパチコタンだっけか? 彼女の国だけ国って名前じゃないんだよな。コタンってなんだっけ? どっかで聞いたことあるんだよなぁ。確か町か村って意味だった気が。
「魔王よ。我が巫女様がお前に話があるらしい」
「俺に話?」
俺が視線を向けると、少女が前に出て口を開く。
無口な少女かと思っていたが違ったらしい。多分喋るなと後ろの男に言われていたんだろう。
「モシレチク・コタネチクチク・モシロアシタ・コタノアシタ来る。気を付けて」
もしれ……はい? なんだその良く分からん名前の奴は。そいつが来たからなんだっていうんだ?
「失礼。我が国でモシレチク・コタネチクチク・モシロアシタ・コタノアシタとは英雄に倒された邪神の一人なのだ。多くの神々を捕えた悪神であるとされているのだが、最近この話ばかりでな。絶対に魔王に告げるのだと今回の会議に無理に同行してきたのだ」
ってことは、俺がこの会議に来ると初めから知ってたってことか?
「あー。気を付けるのはいいんだが、具体的になにをどうすりゃいい?」
「オキキルムイ来る。それまで待つ。モシレチク・コタネチクチク・モシロアシタ・コタノアシタはオキキルムイにしか倒せない」
なんだそりゃ? とりあえずそのオキキなんとかが来るまで防衛に回れってことか?
「モシレチク・コタネチクチク・モシロアシタ・コタノアシタはウェンカムイの遣わす悪。英雄の皮を被った悪意。でも誰も敵わない。魔王も。魔神も」
「ふむ。その話ですと私でも敵わぬ存在と? となると創造神でもこられるのでしょうかな」
くっくと笑うディア。絶対に楽しんでるなコイツ。面白い事をいう奴だとでも認識されたんだろう。この娘、苦労しそうだ。
「だから、待てと?」
「待つしかない。でもただ待つだけじゃだめ。出来ることはやりきる。貴方がやることは一つだけ。諦めないこと」
まぁ、諦めないことくらいはできるよな。何しろ俺は正義の味方だ。正義は諦めずに立ち上がり続け最後に悪に勝てばいい。
「了解。肝に銘じておくさ」
「貴方次第で世界が変わる。だから……がんばって」
少女はそれだけ告げると用事は済んだとばかりに去って行く。
「ウェプチ、オソマ行きたい」
「そういう事は言うなと言っているだろう。はしたない。ほら、こっちだ急げ」
ウェプチと呼ばれたおっさんに連れられて去って行く女の子。あ、名前聞くの忘れたな。
ステータス強制展開……おお、チキサニちゃんか。
一瞬だけ見えた名前を確認している間にチキサニとウェプチは去ってしまった。
「さて、そろそろ戻るか」
俺とディアは未だに座ったままのルトバニア王に暇を告げる。
なんでさっさと移動しないのかと思ったが、ああ、胃が痛くて立てないのか。ロバート。悪いんだけど王様よろしく。あ、別に御姫様抱っことかしなくていいからな。
王様の護衛はロバートと大悟に任せ、俺は魔王城へと帰還した。
戻った魔王城では既にギュンターと若萌により会議室が使用可能にされており、主要人物が集まっていた。
さぁ、次は魔王国会議を始めようか。




