外伝・国王陛下お確かに7
全国家からの疑惑の視線を受け、エルダーマイア猊下はたじろぐ。
まさかひた隠しにしていた虎の子である勇者たちが暴露されるとは思っても居なかったのだろう。
想定外の事でうろたえるエルダーマイア猊下に、ルトバニア王が畳みかけるように言う。
「いや、この報告を聞いた時は驚きましたなぁエルダーマイア猊下。一体どれ程の期間でそのレベルに辿りついたものかと」
「そ、それは、そ、そうだ。召喚した当時から彼らの力が強かったのだ。ほ、ほれ、貴国が召喚したのでこちらで召喚しても問題無かろうと、前回会議の後にだな……」
「いやいや、嘘はいけませんなエルダーマイア猊下。ディアリッチオが言うには貴国の近くに嘆きの洞窟という神話時代からのダンジョンが存在するとか、そこでは深層に向う程に出現する魔物が強くなるそうでレベル1000までの魔物が出現すると聞いたぞ? 他の国に黙って自国の兵だけレベルを上げているとは、随分とまぁ酷い話ではないか? 各国で魔族と闘おうと言いながら、これ程いい場所を黙っているのはどういうことかね?」
「そ、それは……っ」
まさかダンジョンがバレているとは思っていなかったのだろう。
もはやいつ倒れてもおかしくない程に脂汗を垂れ流している。
「いや、別に責めておる訳ではないのだよエルダーマイア猊下。我が国としてはそのような場所があるのならばぜひとも我が国の勇者をレベル上げさせておきたいなと思っただけでな。いやーしかしよしんば貴国が魔族を討伐したとして、次の脅威がエルダーマイアになるなどといった状況にならずに本当に良かったと言うべきか。各国にも、解放していただけますよなぁ? その洞窟」
「ぐぅ……っ」
それが狙いかルトバニア。そんな怒りを込めた眼で睨むエルダーマイア猊下。しかし、旗色は悪過ぎる。もはや頷かねば他国からも睨まれかねない。
兵士のレベルは高いとはいえ、全国が敵対してくればエルダーマイアとしても滅びかねない。なにより、この敵対する全国には魔族領も加わるだろう。ルトバニアならばやりかねない。
ここは涙を飲んで全国の猛者をダンジョンに迎え入れ、全国の平均レベルを引き上げるしかないだろう。
「し、しかし、そのようなこと、よいのか、魔族が聞いておるのじゃが?」
「ふむ? ルインタ女王陛下は心配性ですな。どうだねロバート?」
「問題はありません。エルダーマイアの襲撃を受け、危機感を覚えた陛下が我が軍の実力底上げを行っております。むしろ洞窟でレベル上げをなさっていただいた方が弱い者いじめにならずに済むかと……」
ロバートの言葉に全員が戦慄した。
エルダーマイアの襲撃後に、全魔将の平均が一気に引き上げられているのだ、一体何をどうすればそうなるのか、意味が分からない。
否、むしろ襲撃することなく全国のレベルを引き上げてから一斉に攻めれば魔族を既に撃滅出来ていたのに手が負えなくなってしまったとも言える。
非難めいた視線がエルダーマイアに向けられる。しかしエルダーマイアは苦虫をかみつぶした顔をしながら反撃の一手を繰り出した。
せめて一噛みとばかりにルトバニアの動向に話の方向を向ける。
「わ、我が国の洞窟は皆に開放するということでよかろう。だが、それよりもルトバニアの、そなた戦争の用意をしていると聞き及んでおるが、それは誠か、狙いはコーデクラだと思われるが」
「な、何だと!? 我が国に攻め入る気かルトバニア」
「ほ、ほっほ。な、何を根拠にそのようなことを?」
今度はルトバニア王が冷や汗を流す番だった。一体どこから漏れたのだろう?
ムーランか? いや、むしろ自国に草が潜んでいる可能性の方が高い。
「いやぁ、最初は魔族領に仕掛けるのだと思っておりましたがな、不穏な兵の動きがあると我が国はそなたの国を注目しておったのですよ。するとどうにも魔族領とは仲が良くなっておるようで、交換留学などと称して魔族を貴族院に入れたり他にも自国で好き勝手にさせておるようで。そちらのロバート殿など貴族の娘と買い物をなさっておられるようではないですか。随分と仲の良い事で。そのうえでコーデクラへの出兵準備、まるで魔国の手先にでもなったかのようですな。おや、そういえば現魔王は貴国の国の勇者であるとか? となるとむしろ既に魔国は自国の領土みたいなものではないですかな?」
「ま、魔王は確かに我が国が召喚した勇者だが、独自の路線を取っておるからな。残念ながら我が国の領土になったわけではないのだ」
「では魔王は貴国が隷属させている勇者ではないと言うのか? そちらの勇者のように真名を奪ってではなく?」
「むぅ、これはまいりましたな。彼は確かに真名を他人に渡しておりますが、儂ではありませんぞ? 我が娘と真名交換をしているのだ」
「成る程、あくまで勇者を奴隷にはしていないと……」
エルダーマイア猊下の言葉に頷くが、既に他国からの視線は冷たい。
エルダーマイアを追い詰めダンジョンの使用許可をもぎ取る事は出来たが、まさか自国をここまで追い詰めてこようとは想定外だ。
実際、彼の言葉はほぼ事実なので否定もしずらい。
「しかし、魔王になっている勇者とやらが隷属させられていないという保証はありませんよな?」
「それを証明することは出来ないだろう?」
「そうですなぁ。直接魔王を見ない限り、皆納得など出来ますまい。さて、ルトバニア王よ。貴殿が魔族側に寝返っていないという証明、どうなさいますかな?」
このままではルトバニアが魔族領の一つとして全国家の敵にされかねない。和平は結んであるが魔族領とは別モノで、さらにコーデクラを攻める気配はないと皆に納得させるにはどうすれば……
焦るルトバニア王に手を差し伸べたのは、魔族の男。ロバートであった。
「では、陛下をお呼びいたしますかな?」
会議室に、戦慄が走った。




