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外伝・国王陛下お確かに3

「かの勇者たちのレベルですが、全員……800を超えていたそうです」


「ばかなっ!?」


 報告中の男が言い淀むようにしながらも言いきった事実に、思わず国王は叫んでいた。

 なぜならば、勇者大悟のレベルはまだ50にも到達していないのである。残り750以上の差が出来ている。

 そもそもどうやってそのレベルにあげたのか、それ程のレベルを持つ勇者を生み出せる土壌が存在するという事でもある。そんな国があるのならば、あまりにも脅威だ。


「どの国だ!」


「エルジーの報告によれば、かの軍の鎧にあった紋章から、エルダーマイア教国ではないかと」


「教国……か。あの狸めが」


 吐き捨てるように告げる国王を尻目に、宰相が続きを促す。


「彼らの兵士は全てが700レベルを超えていたといいます」


「兵士も、だと!?」


「魔王軍南方前線基地の交代時間に奇襲を行い魔将七名を撃破、魔王軍に多大なダメージを齎しました」


「なんだと!? いや、しかし魔王のレベルもギュンターは999だったはず。ならば魔将といえども700レベルの兵士が軍団で襲えば倒せるか。しかし……いや、待て。ならば、勇者の軍は魔王城まで攻め寄せたのか!?」


 興奮して来たのか思わず腰を浮かせて前のめりになる国王。

 ソレを見た報告者は慌てて被りを振った。


「いえ、運がいいと言うべきか、彼らにとっては運が悪いと言うべきか。丁度魔王の慰問時期でしたため、事態に直面した魔王ジャスティスセイバーにより軍団に少なくない打撃が与えられました。おそらく一撃で数百名は虐殺されたと思われます。その後撤退していた魔王軍が遺体に群がりアイテム化していたそうなので教国の兵の損害も馬鹿にならないのではないかと」


「そ、そうか。魔王を撃退できたならば、と思ったがそううまくも行かんか」


 身を乗り出していた国王は溜息と共に椅子に深々と座り直す。


「魔王の出現に軍団から勇者が四人出てきたそうです。分かっている限りではリーダーの桜井稀良螺。斎藤琢磨。伊丹。魔法使い姿の女の四人です」


「二人は真名が分かっているのか。いや、でも教国のことだ既に真名を奪って……」


「魔王は闘う直前リーダー格である桜井稀良螺の真名を奪い彼女を操り同士討ち。他三名を撤退に追い込みました。桜井稀良螺は今魔王領で捕虜として扱われております」


 真名で縛ることすらしていなかったらしい。教国に思わず阿呆か。と怒鳴りつけたくなった国王は天を仰いだ。

 儂であれば即座に真名を奪い死兵として使っていた。確実に魔王を殺すか殺されるまで闘うかの二つに一つを命令していただろう。だが、今回の召喚では宮廷魔術師がどうしてもというので奴に任せてしまった。そのせいで貴重な勇者が五人も手元から離れてしまった。

 国王にとっては失態であったが、教国でも同じような考えの奴がいたのかもしれない。どうせならば国家間会議で議題にして笑ってやろう。自分の失態はいじられたくないが、他人の失態となれば別だ。ちょうどいいストレス発散にもなるだろう。


「それと、この闘いで危機感を覚えた魔王は兵士のレベルを底上げする事にしたようです」


「底上げ? そんなにすぐにできるものか?」


「元魔王ルトラを真名でしばり、兵士達に撃破、死ぬ寸前まで追い込み負けを認めさせることで南の魔王軍はほぼレベル1500まで上がってしまいました」


「せ、1500……」


 思わず宰相がぶほっと噴いた。

 国王も眼を見開き、目玉が飛び出しそうなほどに驚きを浮かべる。

 二人して陸揚げされた魚のように口を動かす様子に、報告に来た男は笑いを堪えるのに必死だった。間違っても自分も噴き出せば首が飛ばされる。


「ま、間違いではないのか?」


「魔王ジャスティスセイバーとパーティーを組んでいたエルジーのレベルも1500に到達しておりました。おそらくですが、今の人類最強はエルジーになっている事でしょう」


 まさかの影の人物が人類最強になってしまったらしい。思わずアホか。と叫びたくなった国王は再び天を見上げた。

 しかし天井しか見えなかった。

 今回の魔王はやる事が予想外過ぎる。


 ここまではしないだろうと勝手に思っていた事を平気で行ってくるのだ。今までの常識が通じない。非道な事でも平然と悪を倒すためだからとやってくるのだろう。

 それこそ、悪逆を倒すためならば仲間に爆弾でも巻きつけ特攻すらしかねない。


「報告は……以上です」


「そう……か」


 若干ふけ込んだ気がする国王はそれだけ答えると報告に来た男を退出させる。


「……聞いたか宰相」


「ええ。まったくもって想定外。いえ、むしろ、河上誠の力を見誤っておりましたな。我が国の失態はアレを早期に切り捨てる決断をした事でしょう」


「いや、アレは国内に留めたところで扱い切れるものではなかった。むしろ、ひっかきまわしてくれている今はまだマシやもしれん。基本、魔国とは協力関係を持ったままで行くぞ。体勢の整っていない今敵対しても潰されるだけだ。奴に悪認定されぬように動け」


「分かっておりますとも」


「まずは、次の定例会議で糾弾準備をせねばな。あと大悟を呼べ。次の会議に連れて行くため礼義作法を教え込まねばならん。教国のレベル上げに便乗してやろう。勇者を派遣して大悟のレベルを底上げするぞ」


 国王の考えに宰相は頷く。倒すのはなかなか骨の折れる場所だと思っていた魔国は、思った以上に凶悪だった。それがわかっただけでも進歩だと、二人は噛みしめるように納得するのだった。

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