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この中に裏切り者がいる4

「な、なにを……」


 まさか自分が指差されるとは思っていなかった様子のムレーミア。

 驚いた顔で何かを呟くが、誰も聞こえなかった。


「な、何を根拠に私がシオリアの真名を奪ったと言うのですか!」


「ここに、シオリアが纏めていた調書がある。ゼオラルがお前達の中に裏切り者がいると気付いていたらしくてな。秘密裏に調べていたようだ。全員の素行調査書だな」


 タイミング良くディアが差し出してきた羊皮紙の束を彼女に見せながら、一枚の羊皮紙を取る。


「問題はこの日。丁度俺が即位した日の事だ。八人の魔将が中央に向かい、手薄になった戦場をゼオラムが指揮して、誰だっけもう一人の死んだ奴。まぁいい、そいつが防衛に付いていたんだろ。で、だ。シオリアはこの機に唯一調べていなかったムレーミアを調べようとしていたんだ。何しろ戦場にも俺の即位式にも出ていないのは、シオリアとムレーミアだけだからな。そしてシオリアはこれ以降素行調査を行っていない。何故か? それはここで真名を奪われたからだ。うかつにこの書類を書いてしまえば証拠隠滅される恐れがある。だから彼女はこれを隠したままにしておいたらしい」


「だ、だからって、私が真名を奪ったかどうかは、いえ、例え真名を奪ったとしても、私がレーバスに時間を告げるように指示した証拠にはならないでしょっ! 理由、そう、私が魔族を裏切っているという証拠はあるのですか!」


「そんなモノは必要ないさ」


 だって、俺はもっといいモノを持っているから。

 ステータス強制展開。

 ムレーミアのステータスを表示。真名は誰にも奪われていないな。

 真名無効もない。どうやら相手のステータスを強制的に見るスキルだけは持っているらしい。

 俺の強制展開程強力ではなさそうだが。


「ムレーミア・エーデルワイス・ルーダライトに命ずる。俺の質問に隠し事なく嘘偽りなく話せ。お前が魔族を裏切った犯人か?」


「って、セイバーっ。そこまで探偵ノリしといて解決編はズルなのっ!?」


「基本、外道なんじゃないのあの人……」


 こら矢鵺歌と稀良螺。人を外道とは何事か。俺は変な証明が面倒だっただけでさっさと自白をだな……


「わ、私は、くっ。そうよ。私がやったのよ! ああ……なんで、なんで私が真名を操られて……」


 真実を告白しながら青い顔で絶望的な声を出すムレーミア。

 真犯人はこいつで間違いないらしい。他にもまだ黒幕居たらどうしようかと思ったよ。


「なぜ、こんな事をしたんだムレーミア?」


「だって……だってもう、限界だったのよ! 来る日も来る日も怪我人ばっかり。魔将に成れたのにやることは今まで通り傷付いた兵士を治すだけ。治した兵士は戦場に向ってまた怪我して戻ってくる。口を開けば早く治せ。完治を待たずにもう動けるから治療はいらん。俺の腕をくっつけろ。こんな事も出来ないのか。私はこんな事をするために魔王軍に入ったんじゃないのっ!!」


 よくある医療現場で疲れた看護婦みたいにヒステリックに叫ぶムレーミア。気持ちは分からんでもない。

 治すことが仕事とはいえ、治す相手は協力することもなくさっさと治せ。治ったら戦場で無茶してまた怪我をする。まさに自転車操業ってやつだ。俺だったら鬱病発生しそうだ。

 実際、衛生兵の数人はその症状をだしてるんだろうな。それでもムレーミア指示の元頑張っていると思われる。


「嘆願書を送ったの。前魔王ギュンター様時代の時に。私達に休みをくださいと。無理ならばせめて人を送ってくれと。そうしたら、どうなったと思いますか?」


 包み隠さず話さなければならないからだろう。抵抗を諦めたムレーミアは心の内を全て吐き散らすように叫ぶ。


「人材不足で補充はムリですって! だからかわりに兵士を倍補充する? 私達の仕事増やしてどうすんのよっ! ふざけんな魔王っ。殺す気か! ゼオラムもシオリアも、何度もどうにかしてと頼んだのに無視するしっ。もう限界なのよ! だから、思ったの」


 ふっと暗い笑みを浮かべ、既に狂っていたらしいムレーミアは壊れた笑みを浮かべた。


「負傷者が多くて余裕が無いのなら、負傷者が減れば楽になれるじゃない? 負傷を通り越して死んでしまえば担ぎ込まれることも無いのよ。回復してまた戦場に向って負傷することもない。二度と無いの! 数少ない衛生兵の一人をレーバスのスパイと共に送り込んで人族と連絡を取ったわ。向こうではレベルを上げて奇襲作戦を取ろうとしていたところだったから、丁度良かった。あとはタイミングを計るだけ。丁度良い時にシオリアが一人きりになって、私には相手のステータスを見る能力があった。真名を奪った後は私以外が責任を取るようにしてしまえば、私が疑われることも無い。今日のタイミングにしたのは魔王様がここにいらっしゃると知ったからよ。ゼオラムが死んだとしてもなんとかするでしょ。実際なったし。最悪魔王が討たれても。それはそれで良いとすら思ったけれどね」


 もはやなりふり構わず自分の自由時間を作るために上司である魔王すらハメ殺す気だったのか。

 こうなるまでコイツを放置したのはゼオラムの罪だな。

 まぁ、その罰はすでに彼の身に降りかかっている訳だが。

 なんにせよ、このまま罰を与えないという訳にはいかないだろう。


「ディア……」


「では、ムレーミア、レーバス両名を向こう五年魔木化の刑にいたします」


 こうして哀しき犯人の起こした事件は明るみに出た。

 レーバスは魔木化の時の全身の痛みすら快楽にして喜んでいたし、ムレーミアはやっと楽になれると二人揃って罰というよりは苦しみから解放されたような顔をしていたとだけ言っておく。

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