この中に裏切り者がいる3
「犯人はこの中に居る!」
「な、なんだってーっ!?」
俺の言葉になぜかラオルゥが驚いた表情でノッてくる。皆意味が分からず呆然としている中だったので目立つ目立つ。
「むぅ、昔の勇者はこういう時にはこう言うべきだといっておったのだがのぅ」
「異世界人のノリという奴ですか? しかしラオルゥ、その勇者のお二方は一緒に呆然としているようですが?」
ディアの言葉通り、矢鵺歌も稀良螺も俺を見ながら呆然と……というか、呆れている、だと!?
「ま、まぁいい。とにかくだ。今回の事件に付いて報告しよう」
一つ咳をして、何でもないように話し始める。
今さっきのはなかったことにさせてくれ。
「ゼオラムたち七名の犠牲を出した今回の人族による奇襲作戦は、人族がレベルを上げ、ソレを悟られないようにして、丁度ゼオラム達の交代時間で前線に戦力が集まった時期を見計らっての殲滅戦だった。あのままであれば勢いづいた人族はここに到達し、さらにここを足がかりに魔王城へと攻め寄せたことだろう」
俺の言葉に稀良螺を見たディア。気付いた稀良螺が怖々こくりと頷く。
どうやら本当にそういう作戦だったらしい。
「まぁ、もしもの話は今はいい。今回運良く俺が戦場に向ったからなんとか人族は撃退できたからな。で、だ。この人族の奇襲、どうやら仕組まれていたようだ。あまりにもタイミングがイイのも交代時間が漏れていたかららしい。もしも別の時間であればゼオラムも対応して即座に退くなり、残った魔将で立て籠るなりしてもっと被害を食い止めていただろう。」
「陛下、そりゃ、つまり魔族側から漏れたっつーことか!?」
「ホルステン、口調。陛下。俺が死に掛けたのも仕組まれてたってことですよね。犯人がいるんですね」
ホルステンとケーミヒもようやく今回集められた理由に気付いたようだ。
「ああ、その通り。情報は漏れていた。そして、誰が人族に情報を流したのか、それは……」
すぅっと手を上げ俺はその犯人を指し示す。
「あんただ、レーバス」
そう。人族に直接情報を流してしまったのはレーバスである。
驚いたホルステンとケーミヒがレーバスに視線を向ける。
「レーバス!? どういう事だ!」
「テメェ! 俺を殺すつもりだったのか!」
「お、俺、でも、俺は……」
レーバスに掴みかかろうとしたケーミヒ。
俺は視線を向けて彼女にアイコンタクト。気付いたペリカがケーミヒをレーバスから引き離す。
おい、何しやがる。みたいなことを言ってるが、今は邪魔だケーミヒ。
「落ち付けケーミヒ。確かにレーバスが直接情報を流したことは彼自身から自白を貰っている。人族にスパイに向っていた際、向こうの男に惚れたみたいでな。そいつが知りたいというので教えたそうだ。本人は交代時間程度でこのような事態になるとは分かっていなかったようだ」
「だからって教えていいわけ……」
「ああ。レーバスは罪深いが真犯人じゃない」
「あん? どういうことだ……ですか?」
思わず地が出たらしいケーミヒは、俺がどういう存在か気付いて慌てて言い直した。
「レーバスが、なぜ、そんな事を知っていたか。問題はここだ」
「ソレはどういうことですかにゃご主人様」
俺はいつマイツミーアのご主人になったのだろうか? まぁいいや。何かヤバい勘違いがある気もしなくないけど今は放置だ。
「つまり、本来一魔将であるレーバスがリーダーであるゼオラルと軍全体を管理するシオリア以外知りえないはずの交代時間を知っていたことが問題だ。彼がソレを知り得なければ人族に教えてくれと言われても教えられる訳がなかった。そして、この情報を彼が知ったと言う事は、別に他人に漏らしても問題無い情報だと彼が思っても仕方無いとも思える。機密をレーバスに漏らすこと自体が大問題だからな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ陛下。そりゃつまり、リーダーがレーバスに漏らしたってのか?」
「いや、待てホルステン。ゼオラル隊長が漏らす必要はないだろ。そもそもあれ程機密に煩いあの人がレーバスに漏らす筈が無い」
「んじゃぁ誰が……」
「シオリア。じゃないの?」
戸惑うホルステンにムレーミアが告げる。確認するように彼らの視線が俺に向った。
「ああ。その通りだ」
「俺、シオリア聞いた。最初教えてくれなかった。でも昨日、教えてくれた。俺喜んで教えに向った。大変な事なった」
「なんだよそれ? じゃあ。シオリアの奴が裏切り者?」
ケーミヒは呆然とした顔で呟く。
そう思うだろうな。俺も最初はそう思った。
「シオリア、ここに居ないわね。まさか、逃げた?」
「あの野郎、ゼオラルたちを殺すだけ殺して逃げやがったのか!? クソが。ぶっ殺してやるっ!」
憤るホルステンを放置するとシオリア殺しに行きそうなので、ちゃっちゃとするか。
「落ち付けホルステン。確かに、シオリアはレーバスに情報を教えた犯人だ」
「だったら、落ち着いてられるわけねぇだ……あ、いや、ないでしょう?」
「違うんだホルステン。シオリアは、彼女は真名を奪われ無理矢理情報を流させられただけだ。また真名を操られないよう今は仕事をして貰っている」
俺の言葉に何を言ってるんだ? といった視線を向けるホルステン。
彼を無視し、俺はそいつへと指先を向ける。
「シオリアの真名を奪い、レーバスに機密情報を流した真犯人。ソレは……あんただよムレーミア」
俺は真犯人、ムレーミアを告発した。




