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この中に裏切り者がいる1

「……なんの、ようですか?」


 書類の束に埋もれながら、シオリアは顔すら上げずに俺に質問して来た。

 やってきた人数は三人。よってこの本営に存在するのは四人だけになる。

 いや、シオリア、他の奴に手伝わせろよ。少しくらい回してもいい書類とかあるだろ。


 一人で大量の書類と格闘する彼女はどう見ても忙殺といった様子で、ゼオラムが死んだ事で割りを食っているように見える。

 おかしいな。こいつが人族に情報売って何かしらの旨味があると思ったんだけど、なんか凄く迷惑そうだ。何しろゼオラム達がやる予定だった仕事全てが彼女一人に向っているみたいだからな。


「大変そうだな」


「報告聞きました。ゼオラム以下七名程の魔将が死んだとか」


「ああ。その件でお前に聞きたい事が出来た」


「それは……」


 ようやく手を止めたシオリアはメガネを直し、俺に視線を向けた。


「私が交代の時間を人族に教えた。とでも聞きたいのですか?」


 自分から言ってくるとは予想外だ。


「残念ですがそれはムリだと言っておきます」


「無理?」


「私は忙しいのです。ゼオラムは全権指揮を任されていますが殆ど戦場で、こちらの書類仕事を全て私に回してますから。まぁ、それでも他の魔将が暇な時に手伝ってくれてましたからまだマシでした。まさかその魔将がほぼ死亡されるとは思ってもいなかったのでこの仕事量です」


 はぁっと息を吐いて俺を睨む。


「そもそも人族とどうやって連絡を取ると言うのですか。私を怪しんでいる暇があるなら真犯人に繋がる証言でも探してください」


 むぅ、これはとぼけられているのだろうか? それとも本当にコイツじゃない?

 俺が腕を組んで考え込むと、ディアがシオリアと会話を始めた。


「ふむ。ではお聞きしてもよろしいか」


「はい。何でございましょう」


「君以外に交代時間を知っていた存在は?」


「ゼオラムですね。彼が決めていましたから。後は……」


 少し考え、シオリアは想定外の人物の名を口にした。

 なぜそいつの名がでるのか意味が分からない。

 そいつが聞く必要がなぜあるんだ?


「理由ですか。簡単ですよ。人族領にスパイに行くためにその辺りを知りたいと言っていたので。何故必要なのかは分かりませんでしたが、一応伝えておきました。まさかこんな事になるとは思いませんでしたが」


「ふむ? 結局どういうことだ?」


「ラオルゥは深く考えずともよい。ということですよ。陛下、向かいましょう」


「そうだな……まだ何か隠してそうだが、とりあえず奴の元へ向うか。行く気しねぇが」


 そして俺達は、新たな犯人候補のいる戦場へと向かうのだった。

 戦場では丁度ホルステンとケーミヒがレーバスと交代したところだった。

 敵の姿は見えない。しばらくは安全そうだ。


「あれ? 魔王陛下、何故ここに?」


「たった三名でこのような場所に来てはなりません。お早く天幕へ……」


 驚くホルステンとケーミヒを手で制して、俺は帰り支度を始めていたレーバスへと向かう。


「ん? 陛下、俺とヤる気になった?」


「ヤらねぇよ。それよりレーバス。正直に答えろ。お前が、人族をここに引き入れた犯人か」


 そう。シオリアが上げた人物の名。それはレーバス。

 人族領に部下がいる、ウチの斥候班の総括である。


「……なにを、根拠に」


 不意に、空気が変わった気がした。

 これは、もしかしてビンゴなのだろうか?


「シオリアが言うには人員交代の時間を知っていたのがシオリアかお前しかいないと聞いたからな」


「なら、シオリアの可能性、ある」


「そうだな。だが彼女にはメリットが無い」


「俺、にも、無いダロ」


「……本当に?」


 俺は、確信した何かを求めるように疑問を口にしながらレーバスに近づいて行く。

 一歩、臆したように足を後退させるレーバス。


「もう一度言う。正直に答えろ。本当に、お前にも無いか?」


「う……ググ。ある、俺ある。人族の男、イイモノ持ってた。俺愛する言ってくれた!」


 うわぁ。なんだそのツワモノは。ド変態じゃねぇか。


「俺、そいつの求めてたモノ、シオリア聞いた。シオリア初め教えてくれなかった。でも昨日何故か教えてくれた。俺、即座に教えに行った。そしたら皆死んだ。俺が、悪いのか?」


 ……んん?

 あれ、ちょっと想像してたのと違う感じになってないか?

 俺はディアに視線を向ける。


「ふむ。どうやらこやつは利用されただけのようですな。問題は、初めは教えなかったはずのシオリアがなぜ掌を返して昨日教えたのか、ですな」


 あの野郎。もしかして俺を騙す気だったのか? それともバレないとでも思ったか?

 一体何を考えている?


「ネネリム死んだ。ゼオラム死んだ。俺の愛人皆死んだ。どうしてこうなった?」


 ちょっと待て。ゼオラムさんと出来てたのかレーバス。こいつ、どんだけ変態なのにモテてるんだよ!?


「俺、どうしたらいい? 陛下の奴隷になればいい? 享楽なら喜んで受ける」


「罰を喜んでどうする。とりあえずお前の処遇については後回しだ。まずはスパイに付いて本格的に調べる。またシオリアに聞かなきゃならないな」


 どうなってんだ。と溜息吐きながら、俺はシオリアの居る本営へと戻るのだった。

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