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魔王領慰問団18

 ムレーミアのいた天幕を出る。

 彼女に今の職場の不満があるか聞いて見たのだが、慢性的な人手不足だと怒られた。

 見て分かりませんか? とか怒られても困る。俺はまだ就任して日が浅く、皆の現状を確認し始めたところなのである。

 前任者に言ってくれそういうの……あれ? 前任者ってギュンターじゃね?


 ギュンターの奴知ってんのかな? 多分知ってるよな。となると報告だけ挙げときゃ勝手にやってくれるか。

 よし、ならこの件は報告だけにしとこう。

 次はシオリアだな。


 シオリアは自分の天幕で書類整理をしていた。

 俺が入って行くと一瞥だけして書類を片付け始める。

 かなり多い。これはしばらく掛かりそうだ。

 今日中に終わるかどうかすら分からない。


「すいませんが、手を止める暇はありません」


「ソレは書類見ればわかるよ、質問しても問題は?」


「ここでならありません。どうぞ」


 この状況を見るとシオリアの方が上位の役職についてるように見えてしまうな。

 秘書タイプのシオリアはおそらく陳情書などを確認しているんだろう。ここで必要なモノをピックアップして中央騎士団に物資輸送を頼むのだ。


「では、最初に……」


 いつものように怪しい動きをしている人物がいないかと質問する。

 一瞬動きが止まったシオリアだったが、こちらに顔を向けないままに私にはわかりません。と告げて来た。

 流石にここで全ての報告書を見てるのに怪しい部署はなかったのか。などとは聞かない方がイイのだろうな。


 それから幾つかの話を行って見るが、当り障りのことしか言って来ない。

 完全にこちらを信用していないようで、腹の内を出してくれそうにはなかった。

 俺は隣のラオルゥを見る。

 ラオルゥは苦笑しながら「怪しいの」と小声で告げて来る。


 まったくだ。こいつは何か隠してるな。あの動きは前に勤めていた秘密結社のギルドで裏切る直前の怪人の動きだった。

 まるで自分が疑われたことに気付いた時のような、わずかな逡巡。

 あの怪人は裏切った直後に首領により爆殺されていたけれど。


 質問を終えて俺達は天幕から出る。

 エルジーがなにやら難しい顔をしている。

 どうやらシオリアが何かを隠しているのに気付いたようだ。

 さすがはスパイか。人の嘘を見抜くのは得意らしい。


「動くかの?」


「動くだろ多分。ラオルゥよろしく」


「手伝わんぞ? 動く時くらいは教えるが」


「それでいいよ。あとレーバスが夜這いに来た時は絶対に阻止してくれ」


「くっく、了解了解。その時は儂が夜這いを変わってやろう」


 シオリアの天幕を離れた俺達は、馬車で戦線へと向かう。

 シオリアの話ではゼオラム率いる他の魔将たちはしばらく帰ってこないそうなのだ。

 なので俺はマイツミーアを愛でながら直接向う事にしたのである。


「そろそろです陛下」


「あのー。マイツミーアさんは大丈夫なのでしょうか?」


 まさに完全敗北とばかりに仰向けで寝転ぶマイツミーア。

 顎をモフられご満悦の絶対服従ポーズである。

 尻尾がぶんぶんと振られているので本人が望んでこの状態ということを彼女達も理解できてしまっていた。


 もはやマイツミーアは飼い猫になり下がった。ペリカもハゲテーラも魔王に戦慄を覚えるのだった。

 戦闘したいと言っていたマイツミーアは既に居ない。今いるマイツミーアは魔王にモフられることだけを望む立派な雌猫になってしまったのである。

 これが、魔王の実力か。二人は自分の未来でない事を願いつつ馬車から降りる。


 目の前に広がるのは戦場だった。

 今までの北や東では見られなかった血飛沫舞う戦場だ。

 しかも、どう見ても敗戦濃厚である。


 人族に群がられる男が殺す殺すと叫んでいるが、もう彼の方が風前の灯だ。

 他の魔将達も人族の代表と思われる数人により死に体になっている。

 俺は思わず目を擦ろうとしてスーツを擦る。


「どう、なってる?」


「儂の眼には魔族敗北濃厚に見えるの」


「た、大変ですにゃ、あちらの男がゼオラムさんで……死んだっ!?」


 復活したマイツミーアが俺の隣で指差した男が、つい今しがたアイテム化されて死亡。人族にアイテムを回収されている。

 どういうことだ? いや、強制ステータス閲覧!

 俺は即座に人族のステータスを調べる。全員700オーバー!? どうなってんだ!?


「ラオルゥと俺に分かれて全員パーティーを組め。組み終わったら馬車に乗れ。ラオルゥ。悪いが馬車の護衛を頼む!」


 即座に指示を飛ばした俺の目の前で、殺人狂の魔族と思しき存在が討ち滅ぼされた。

 歓声が沸く人族。魔将が討たれ戸惑いを浮かべる魔族軍。このまま放置すれば人族による蹂躙が始まるだろう。

 やるしか……ない。


「魔族軍は一度引け! 俺の後ろに下がり体勢を整えろ! 生き残った魔将共は魔神ラオルゥの元へ集え!」


 俺の叫びがどれ程聞こえただろうか?

 伝令役だろう魔族が同じ言葉を叫び撤退を始める。

 ソレを見ながら押し寄せる人族へと走る。


「ロードセイバーッ!」


 どうなってるのか理解できない。だが、今は、俺は魔族の王なのだ。


「行くぜ、ジャスティス。砕け、セイバー!」


 ならば魔族を守るため、俺が動かない訳にはいかない。例え、人族を殺す事になろうとも。

 それが今の……俺の正義だ。


「必殺! ギルティーバスタ――――ッ!」


 振り切られたセイバーから、人族へ向け、光の奔流が放たれた。

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