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外伝・国王陛下お確かに1

「どういうつもりなんだシシルシ殿は!」


 玉座の間で、貴族院一日目についての報告を聞いた国王は魔族の代表を呼び出していた。

 呼び出されて来たのは執事として人族領に来ていたロバートだ。インキュバスの彼は謁見の間にやってくると行儀よく礼を行う。

 すると国王の激が飛んできた。唾を飛ばす国王陛下に、ロバートはどこ吹く風といった様子で国王の話を聞き続ける。


「どういうとは、いかがなことでありましょう?」


「いかが、だと!? 貴族院で寮に入って直ぐ大問題を起こしたのだぞ! 騎士の息子を10人も再起不能にしたというじゃないか! どうなっている!?」


「ふむ。情報が早いですな」


「当然だ。シシルシ殿は監視させて貰っている。彼女の起こした行動は逐一儂に届く!」


「ですが事実が曲解されておりますな」


「なんだと?」


 ふぅっと分かっておりませんなと諭すような息を吐き、ロバートは国王へと視線を向けた。


「こちらに来ている報告によりますれば、シシルシ様に子爵の倅がいちゃもんとやらをつけたそうではありませんか。しかもシシルシ様を人気のない場所に連れ込み10人もの男で囲み襲いかかったとか。これがフェレでありますればそのまま襲われていたでしょう。魔神であるシシルシ様だったからこそ撃退できたというだけであります。逆にこちらが怒っていいですよね国王陛下。国賓であるシシルシ様に護衛が付かないばかりか襲われるというのは、貴国の方こそ大問題ではございませんか?」


「むぐぅ……」


 言われてみれば確かにその通りだ。

 魔族だから死んでも良いと思ってはいたが、それは違う。シシルシはあくまで外国からやって来た外交官の長。これが国外で襲われたとなれば、ルトバニアの護衛力不足としかいいようがなく、さらに治安の悪い国であることを相手に知らせてしまっているのだ。

 もしもこの事を他国で吹聴されてしまえば、国家間会議で槍玉にあげられてしまうだろう。


 今はまだ、ルトバニアのみと外交を始めている魔族領だが、他の国に向った際に引き合いに出されてしまえばこの国の首を絞める結果になりかねない。

 国王は怒りが急激に消えるのに気付いた。代わりに焦燥感が生まれる。このままだと非情にマズい。早急にシシルシに護衛をつけるか、トリアットという子爵の倅を処罰するか選ばねば、さらに醜態を晒しかねない。


「ああ。それと、この話は魔王陛下から詳細を聞かされて知りましたため、シシルシ様が体験なさった事の事実は保障しておきます。嘘偽りはございません」


 既に魔王も知っている事柄だと聞かされさらに顔を青くする国王。

 問い詰めるつもりが追い詰められているのは自分であった。

 なぜこうなった? 自身を問い詰めてみるが答えは出ない。


「幸いにもシシルシ様からはオハナ摘み楽しかったとだけお声をいただいておりますので咎めることはございませんが、今後もこのようなことが続くようですと貴国との和平も少々考えねばなりません」


 それはつまり、和平打ち切りと共にこの国に魔族が押し寄せると言われているも同意であった。

 未だ魔族への対抗策もなく、勇者は姫と遊び呆けている状態。ここで魔族に攻められればルトバニアといえどもムーラン国の後を追う事になるだろう。

 さすがにそれは回避せねばならない。


「では、私めはこれで。貴婦人のお相手をなさねばなりませんので」


 国王相手にしては失礼なモノ言いを行い去って行くロバート。

 国王が頭を抱える様子を見ながら、宰相は彼に近づいた。


「やられましたな」


「何も言えんかった。確かに、相手を魔族と見下していたのは失態だ。よく考えればわかっただろうに、シシルシは国賓なのだ。厄介払いするのはいいが護衛を付けて面倒事から守っておかねばならんか……」


「相手が相手ですからね……面倒ですが適当な女性兵を選んでおきましょう」


「スマンが頼む。あと他の魔族のメンバーの方にも護衛兵を配属させておいてくれ」


「それは……想定しておりませんでした。面倒ですが手配しましょう。まったく、なぜこんなことに……」


「魔王領に向った葦共に何か起こさせるか?」


「無理でございましょう。彼らに魔神が居る限り察知されて事前に止められます」


 宰相の言葉を聞いて、国王は玉座に深く背持たれる。

 

「ままならぬものだな。本来は向こうの情報を引き抜くだけの交換留学だったはずだ」


「蓋を開けて見れば魔族領の一人勝ちでしたな。まったく」


 国王と宰相は同時に息を吐く。

 最近二人揃って溜息を吐く事が増えた気がする。

 魔族とは未だに戦争を続けるべきだったのだろうか?


 未だに答えは出ない。

 魔族と和平を結ぶのもまだ手探り状態なのだ。いつ裏切るとしても、今しばらくは下手に手を切るわけにはいかない。

 まずは後顧の憂いを断ってからだ。

 同じ人族の敵対国に思いを馳せ、国王は気合いを新たに立ち上がった。

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