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ルーフェンが怪し過ぎる

 案の定、ミクラトルァは好戦的な魔族だった。

 南の戦場を紹介すると、二つ返事で受け入れ、後の話は上機嫌で進んだ。

 ミクラトルァは単純な戦闘バカだな。


 バロネットとの会話並みに簡単に終わった上に奏上品として魔力結晶をもう一つ貰ってしまった。

 このブラックダイヤみたいな感じがなんかもう指輪にして婚約者に送れって言われてるみたいだ。

 ユクリにでも送っておくべきだろうか? でもそうするとラオルゥが煩いだろうな。

 となると二人分になる訳だが、ソレを行うと今度はシシルシが欲しがりそうだ。

 

 こうなるともう一つ欲しいところだな。まぁ、無理か。

 仕方無いのでディアに二つとも渡して何か良い使い道を探して貰おう。

 そんな事を思いながら次の魔将を待っていると、礼儀正しくやって来た男が俺に前にやってくる。

 座るよう促すまで立ったままだったので、座って貰い、俺は正面から笑顔のルーフェンを出迎えた。


「やぁルーフェン」


「此度はお呼びいただきありがとうございます。なんなりとお聞きください魔王陛下」


「じゃあまず、任地についてだが、北、南、東、あるいは休役のどれがいい?」


「他の方に聞いた事を随分はしょりましたね。ふふ、でも構いません。私はここ、東の任務に就かせていただきます。責任を持って人族を見定めましょう」


 にこにこと眼を細めながら言うルーフェン。普通に答えただけのはずなのだが、なぜかルーフェンが口にすると怪しさが爆発している。

 俺は本意を見定めようとじぃっと見つめるが、ルーフェンの本音が全く見えない。

 これ程怪しい人物もなかなか居ないな。

 怪しい考えを持っていても気付かれないという訳ではなく、普段の動きがとても怪しく思えてしまう類の人物だ。

 ルーフェンの場合はどんな行動をしても怪しくて勘ぐってしまう。


「ところで魔王陛下、そちらの魔木ですが……」


「ああ、これがどうした?」


「アウグルティース殿の顔に見えます。もしやと思いましたが……」


「ああ。北で俺を嵌めようとしてな。ディアの私有地に人族を引き入れ、ソレを俺のせいにしようとしていたんだ。ディアに発覚してこうなった。毎日水をやらないと枯れるらしい」


「は……」


 思わず目を見開くルーフェン。

 一瞬覗いた素の表情は、無垢な少年に見えた。

 だが、刹那の時間で見開かれた眼は狂気に彩られる。


「ふは、あは、あははははははははははははははははっ」


「ど、どうしたルーフェン?」


「素晴らしい。素晴らしいですよ魔王陛下。ディアリッチオ様をそのような親しき呼び名で呼んでいる事もそうですが、魔木に変えられたアウグルティースに恐怖を感じることなくソレを我等に見せつけることで我等の動揺を引きだし自分に後ろめたい存在を探そうとしていらっしゃる。いい。実に良い。ベネーラコーストッ。今日ほど生きてきた事を幸運と思えた事は無い。魔王陛下、ああ。素晴らしいです魔王陛下っ」


 ルーフェンが狂った。

 いや、既に狂っていた本性が出てきたと言うべきか。

 ねぇ、誰か変わってくれない。コイツとの会話、無事に終わる気がしません。


「くく、失礼、思わず取りみだしてしまいました」


「あ、ああ。構わないが、ベネーラなんとかって、なんだ?」


「は? ああ、いえ、失礼。我が領地の言葉で大変素晴らしいという意味合いであります。覚える必要もございませんので聞き流していただきたいと思います」


 なんでもないのか。思わず出ちゃった母国語って奴だな。

 外人さんとかが驚いた時にマイガーとかジーザスとかいうのと同じらしい。


「そういえば、怪しい動きをしているモノが居るのでは? その目星は付きましたか?」


 しいて言えばお前が怪しい。とは流石に言えないよな。


「今のところはないな。バロネットとメイクラブ、ミクラトルァ、マイツミーアは闘いの場を与えておけば文句は無さそうだ。南の戦地に引き抜くことにした」


「となると残るは四人、ですか?」


「いや、ラガラッツは翻意なし、ハゲテーラはそもそも怪しい動きを行える下地も無かった。カルヴァドゥスとはこの後話すが、今のところ怪しい動きを見せているモノはいない」


「私以外は……ですね」


 くっくと笑みを浮かべるルーフェン。大胆不敵に自分が怪しいと宣言するとは、本当に怪しい奴だ。


「さて、自覚があるなら聞かせてくれるかルーフェン。お前は何を企んでいる?」


「心外でございます魔王陛下。私は何も企んでおりません」


 本当に心外ですよ。と溜息混じりに否定して、即座に笑みを浮かべた怪しい顔で俺を見る。


「私は待っているだけでございます。魔王陛下が真に魔王として覚醒するのを」


「俺が、魔王として覚醒?」


「今はまだ。人族との和平を望み、まだ修復可能だと思っておられましょう。だからこそ、人族との融和が不可能だと気付いた時、きっとギュンター様以上の魔王が誕生するでしょう。私には分かるのです。ですから、その時がいつ来てもいいように、いつでも呼応し我が全てを魔王陛下に捧げられるよう、下準備をしているところにございます。翻意はありません。同士を集い、武具を集め、来る号令をただ待っている。それだけにございます」


 そう言って胸に手を当て一礼するルーフェン。空寒い微笑みはどうみても悪魔のそれであった。

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