バロネットはどうでもいい
次にやってきたのはメイクラブである。
蜂型の生物はブブブと羽音を響かせながら椅子に向って来ると、器用に座った。
座った……でいいのだろうか? 尻尾というか腹の部分を椅子に置いて佇むメイクラブ。これはすわっているのか、ただ椅子の前に立っているのかわからない。だが、一応座っているのだろう。
メイクラブの横にやって来たのは言葉を伝えるために用意された副官さんである。
魔族の彼はこちらに一礼すると、メイクラブに視線を向ける。
羽を震わせたメイクラブに頷き、此度は私めに御用であるとか? 何ようでございましょう。といっています。と翻訳を始める。
「ああ。他の魔将にも聞いてるんだが、この先人族との和平でこの近辺に闘いがなくなるだろう? 兵士の中にはまだ闘い足りないものもいるだろうからな。この先の身の振り方を聞いて回ってるんだ。魔将は特に先に聞いておいた方がいいと思ってな。で、北と南の戦場に向うか、ここに留まり人族の裏切りの可能性を探るか、一度実家に戻るか、お前はどうしたいかと思ってな」
メイクラブは少し戸惑ったように首を振り、副官に羽ばたきで意思を伝える。
どうやらメイクラブは戦場で戦えるならばどこでもいいそうだ。
北か南どちらでもいいそうなので、後でギュンターから指令があると伝えるにとどめる。
メイクラブの気性からして北はあまりお勧めできないかもしれないな。南がどんな感じか見てからの判断になるけど。
「あと、お前に聞いておきたいのは……」
それから幾つかの質問をして、メイクラブを解放した。
どうやら彼は開戦派ではあるものの、戦えるならば別の戦地でもいいという人材だった。魔将というよりは兵士やっといた方がいい気がするな。
まぁいい。こいつは戦場に投入しとけば不満は言わないだろう。
そういう意味で言えば御しやすい存在であるとも言える。
メイクラブを送りだすと、次にやって来たのはバトネット……じゃなかったバロネットである。
アイツ自身がバトネットとか言ってるから間違えそうになる。というかもうバトネットでいい気もするな。
と、思ったのだが、後ろの方で研修を受けているハゲテーラの言によれば、バトネットと呼ぶと怒るらしい。本人はバロネットと発音しているつもりらしいのだ。
正直面倒臭い。
「オレ、キタ」
「バロネットさんのあれ、不敬……ですよね?」
「彼はイイのよ。アレでも敬服の意を見せてるの」
ハゲテーラの指摘をペリカが一言で切り捨てる。どうやらバロネットの種族的にはこれが最上位の敬礼らしい。どう見ても不遜な態度の若者で、上官から最近の若い者は。とか言われてそうな口ぶりだ。
「他の魔将にも聞いてるんだが、この先人族との和平でこの近辺に闘いがなくなるだろう? 兵士の中にはまだ闘い足りないものもいるだろうからな。この先の身の振り方を聞いて回ってるんだ。魔将は特に先に聞いておいた方がいいと思ってな。で、北と南の戦場に向うか、ここに留まり人族の裏切りの可能性を探るか、一度実家に戻るか、お前はどうしたいかと思ってな」
メイクラブの時と殆ど変わらない言葉をなんとか言えた。
バロネットは考える事すらせずに「タタカウ! タタカウ! ミナミノニンゲン、クウ!」と即答。うねうねと触手が蠢くところを見るに、喜んでいると思われる。
こいつもメイクラブ同様戦えればどうでもいいようだ。
「では、もう少し待ってもらうが任地変更で南の方に向かって貰おう」
「セイバー、イイヤツ。オレ、キニイッタ」
なぜかバロネットに気に入られてしまった。現金過ぎるだろ。
『実はバロネット女性だったりしてな。そしてハーレムがまた……』
お前は黙ってろよナビゲーター。
そもそもな話バロネットに性別があるかどうかすら不明だろうが。というか、これで雌とか言われても御免被るぞ。
バロネットは踊るように蠢き、触手の間から何かを取り出す。
「コレ、ヤル」
そして何かを貰ってしまった。
宝石のようなよくわからないもので、黒色に輝きながらもどこか神秘的な石だった。
形がカット済みダイアモンドみたいな形なのはなぜだろう?
「これは凄い。バロネット、これをセイバーになど本当にいいのか?」
「ラオルゥ、オレ、ニゴンナシ。ニンゲンクエル、コレニマサルモノナシ」
そう言って、バロネットは触手を俺の手に絡ませ握手をすると、天幕を出て行った。
「ラオルゥ、これって何だ?」
「魔力結晶だな。魔族にとっては宝石等よりも高価で有用な魔石だ。用途は多岐に渡るぞ」
ラオルゥの話によると、魔法威力の増幅装置として使える他、身体的危機を迎えた時に使えば完全回復する事も出来るし、魔道具に使えば高出力の道具が作れるのだとか。
ディアが喜びそうだな。魔族じゃないから俺にはあまり関係なさそうだし、あとでやるか。




