ハゲテーラの驚愕
「しっつれーしまーっす」
次にやって来たのはハゲテーラだ。
なぜか照れ笑いを浮かべながら天幕に入ってくると、ちょこちょこっと歩いて椅子の元へ。
なんか緊張しますねーといいながら椅子に座って頭を掻く。
軍人であるならば普通は魔王の声掛けがあるまで椅子には座らないモノだが、彼女はその辺りのことを教わっていないようだ。
エルジーや矢鵺歌、ペリカが驚いた顔をしているのを見て、あれ? 何か変なことしました? みたいな顔をしている。
とくにペリカなどは俺が機嫌を損ねていないか我がことのように心配している。
安心してくれ。俺が何かしらこの娘にすることはないから。
しかし、なんだろうなこの娘。副将していたならこのくらいの事は教わっていそうなものなのだが?
目の前の少女は椅子に腰かけ、両手を股に潜らせるようにして椅子に掌を付け、ソレを支えに前のめりになっている。
目の輝きは興味津々と言ったところだろう。今まで話にしか聞いたことのない魔王を目の前で見れたことでテンションが上がっているようだ。
とりあえず、俺以外の奴に言われる前に窘めとくか。
「あー、とりあえずハゲテーラ」
「はいっ。なんでしょうっ」
「誰かに軍人としての上官との対話みたいなのは習わなかったのか?」
「対話? お父様との対話くらいしかしたことないですけど?」
「そ、そうか……」
どうやら軍人としての育成はされてないようだ。
彼女の態度をしても、俺はただの親戚のおじさんといった様子で対応している。
これでは他の上役の元へ来た際いろいろと弊害があるだろう。
「ちなみにカルヴァドゥスたちから何か言われたりはしてないか、上官と会う時はどうしろ。みたいなことは?」
「いえ? とりあえず失礼の無いように。とぐらいですかね? あの、やっぱり、何か拙かったですか?」
顎に指を当て右上に視線を向けながら答えるハゲテーラ。無知は罪。とでも言うべきか。部下として扱うにはこれは激昂対象だな。
『おそらくだけど、こいつの親父さんが甘やかしてたんだろうな。結構権力ある奴みたいだったし、カルヴァドゥスたちも強く言えなかったんじゃないか? もしくはそいつがちゃんとその辺をやってくれてると信じて疑ってなかったとか』
そうか、ハゲルラッシュだっけか、そいつが居なくなったからこの娘が魔将になっただけ、実力はあるから魔将になったんだろうけど、礼義があるかどうかは別問題か。
となると、いろいろと教え込む必要があるな。
「ペリカ、矢鵺歌と一緒に後で礼儀作法など教えてやってくれ」
「畏まりました」
「私も? 向こうの世界のだけどいいのかな?」
それ程変わらないだろ礼義なんて。ペリカがいるから細かい違いも指摘してくれるだろうし。
「まぁ、その辺りは後でいい。まずは和平についてどう思うかを教えてくれないか? 君は人族との和平に賛成か? それとも徹底抗戦がいいか?」
「人族とですか? うーん。あんまり戦った事も無いのでわかんないです。あ、でもでもお父さんは出来るなら争いのない世の中になってほしいと言ってました。儂が死んだら田舎に帰って過ごしなさいって言ってくれるくらいに平和好きでしたね。私も戦争が終わるならお母さんと家でゆっくりしようかなぁ」
戦争に嫌悪はないが、退役でも問題は無い……か。
「ではもし、戦地を変われるとすれば? 未だ人族と闘っている北や南に移る事もできるし、ここで人族が和平を破って侵入する可能性を鑑みて警戒しておくこともできる。もちろん、退役してお呼びがかかるまでは田舎に居ることも可能だ」
「え? えーっと、うーん? その、今までそう言うの考えたこと無くって、お父さんが無くなったのもつい先日だし、魔将に上がったのも先日なので、そのぉ……」
恥ずかしそうに照れ笑いするハゲテーラ。
「構わんよ。今直ぐに決めろと言う訳じゃない。もちろん時間の制限はあるが数日考えてくれ。これからの身の振り方というものをな」
「わっかりました!」
びしっと敬礼するハゲテーラ。敬礼だけはちゃんと出来るんだな。
そして幾つかの話を聞いたのだが、ハゲテーラはやはり怪しい動きを行うメンバーには入っていないようだ。むしろ何も知らない子供だった。
面接が終わるとペリカに連れられて天幕の奥へ向い、上官への挨拶方法からいろいろと魔将としての心得を教わり始める。
一応、姉の変わりとはいえ魔将として過ごしてたからな、多分下手な魔将よりも魔将の作業に詳しいと思うんだ。ペリカ優秀。
「うぇっ!? 上官が声掛けるまで椅子座っちゃダメだったんですか!?」
驚くハゲテーラ。今更青い顔しても遅いと思うぞ。
途中までは矢鵺歌も口出ししていたのだが、以降はなぜか矢鵺歌までがレクチャーされる側になっていた。ペリカ優秀過ぎだろ。




