魔王領慰問団15
「は? 私めを一番最後に?」
「ああ。全員の報告をまとめるのと、その後についてもいろいろと話があるからな。一番時間がかかる」
なるほど。と告げたカルヴァドゥス。少し考え、面接順を確認する。
「では私の面接時間として取っていた最初の時間が最後に回ります。このため約30分程お待ちいただくことになりますがよろしいでしょうか?」
「時間は有余ってる。こちらの都合を押し付けるのだからそのくらいは待つさ」
「了解しました。では今のうちに私は仕事をさせていただきます。30分後ラガラッツから面談をお始め下さい」
そう言ってカルヴァドゥスが退出する。
入れ替わるようにディアがやってきた。
おそらく早めに着いたがカルヴァドゥスが居たので姿を消して見ていたのだろう。
「ふむ。あの将もあまり魔王陛下への忠誠は低そうですな」
「やっぱりディアもそう思うか。ルーフェンからここでは開戦派がそれなりにいるから俺の命令無視して戦をする準備をしてるらしい。他にも何かあるかもだから、どうだ、一緒に聞くか?」
「ふむ。魅力的な御話ですな。しかし今はルトラと調べ物の最中でございます。時間もおしいですので此度は……」
「そうか。残念。まぁいいや。……と、そうだ。サイモンがさ、この前お前の領地に霊樹が降ってきたとか言ってたんだ。この慰問が終わったら一緒に行ってみないか?」
「ほぅ。耳ざといですな。私もあの霊樹とその周辺の異常は感じておりまして。調べ物を終え次第消しに向おうかと思っておったのですよ。魔王陛下が興味をお示しとあらば、ご一緒しましょう。それまでは調べる事もせず楽しみにしておきます」
どうやら、俺が話を振らなかったら霊樹とやらを異物として排除していたようだ。
ディア曰く、自分の庭はアレで黄金比を保っているのだとか。その均衡が破られたことは我慢ならないらしい。
とはいえ、流石に空から霊樹が降ってくるという怪現象、学者肌なディアとしては調べずには居られないらしく、今自領の図書室で同じ症例、あるいは空飛ぶ霊樹について調べている最中らしい。
それに参加させられているルトラはご愁傷様と言う他ないのだが、ディア曰く、昔ルトラに借りを作らせたらしいので、その借りを返して貰っているだけだとか。
ルトラのレベルを上げるのに少し手伝いをしたんだそうだ。
どれ程のレベルを手伝って上げて貰ったのか知らないが、ディアの家にある書物全て調べるとなると、高い借りになった気がする。
「では、こちらに置いておきます」
「助かるよディア」
「何に使うのかわかりませんが、あまり魔将たちをイジメないように」
ディアに窘められた。解せん。
この魔木はただインテリアとして置いとくだけなのに。
指摘されない限りこれがアウグルティースの成れの果てだとかも言うつもりはないぞ?
「おや、どうやらお客様のようで。情報交換はこれくらいで帰ると致しましょう」
ディアとしばらく話をしていると、不意にディアがそんな事を告げて姿を消した。
誰かに見られることなく透明化して立ち去るつもりのようだ。
最初に入って来たのはラオルゥと矢鵺歌。ペリカとエルジーも所用を済ませたようで戻ってきた。
ペリカの奴ずっとトイレ我慢して護衛してたらしい。
流石にトイレくらいはしとけよ。
そして少し遅れ、ラガラッツが室内にやってくる。
内部のメンバーを見てぎょっとしたものの、直ぐに冷静な態度で俺にお辞儀をして対面に座る。
落ち着いて見えるが視線だけは周囲を確認して状況把握のために俺から離れていた。
「個別面談と聞きましたが、はて、何をお聞きになられることか。このような下っ端ゴブリンに言える事がございましたら」
「そう畏まらなくていい。単純に人族との戦いをまだしたいと考えているかどうか、和平に賛成か等のアンケートを取ろうと思ってな。急に決めた以上反論を封殺した形になり不満もあるだろうと思う」
「そんな不満など。滅相もございません。我等は魔王陛下の手であり足であるのですから、自由にお使いくださいませ。一声あれば人族との和平も死兵となって突き進むともご随意に」
「有能なモノを使い潰すような下策はしたくないな。別に賞賛が欲しい訳じゃない。率直な意見を頼みたいラガラッツ。嘘偽りなく、隠す事ない本心を、真名は使わぬ。お前の口から聞かせてほしい」
ただ真摯に言っただけのつもりだった。しかし、ラガラッツは何故か生唾を飲み込み逡巡するように沈黙する。
その視線が向うのは……
「ひ、一つ、よろしいですか?」
「ああ。構わん」
「そちらの魔木、変わった造形ですが、なにやら見覚えのある顔に見えます、何処から……手に入れたモノで?」
「北だな。ディアの領地に人族を引き入れその失態を俺のせいにしてディアに殺させようと画策していたモノの成れの果てだ」
ラガラッツの顔が目に見えて青くなったのは、気のせいだろうか?




