魔王領慰問団13
「オレ、バトネット。ニンゲン、クウ、ガンバル。デモ、ワヘイムスンダ、ガンバレナイ」
バロネットさんである。自分で名前間違えてるけど、こいつの名はバロネット。
植物の魔物だろうか? 本体は丸型のサボテンみたいな体型で巨大な口をがっぱがっぱ開きながら喋っている。手足は根っこというか触手というか。
背丈は俺の腰元くらいか。触手を足と見立てれば俺の方が見上げることになるけど、基本バロネットは立ち上がることなく這うように移動するそうだ。
彼は人間を主食にする事で戦争を楽しんでいた、東では少数派の魔将である。
和平を結んだ事で闘いが集結したためガンバれないと不満気味である。
こいつだけは南の戦場にでも連れて行く方がいいかもしれないな。
バロネットに個別面談で相談することを告げて、俺は次の人物に視線を向ける。
メイクラブさんである。どの辺りがメイクラブなのか説明してほしいんですが、どう見ても巨大なハチだ。黄色い身体に黒と黄色のゼブラ色の腹。どう見てもスズメバチ系の巨大ビーである。
流石に声帯がないようで、羽を震わせて何かを伝えてきているが、付き人の部下が説明してくれなければ会話が成り立たない。というか、そこの付き人よく分かるな。
え? ラオルゥとペリカも分かるの? 魔族と人族の違いか? 俺と矢鵺歌とエルジーでは分からなかった。
基本的な戦い方は人族の尻に針を打ち込み体内に卵を産み落として子を増やしながら時に毒針をつかったり噛みついたりする戦法で戦っていたらしい。メイクラブ恐ろしい。ある意味本当にメイクラブだ。
とりあえず、敵じゃなくて良かった。
「は、初めまして、ハゲテーラと申します」
まるで太陽のようにえへへ。と笑みを浮かべるのは、青色の肌の魔族。
セミロングの髪が風に揺れる様子はなんだか絵になる可愛さだ。
胸が無いのもこの娘の場合は+のステータスだ。妖艶さが全く無く天真爛漫な感じが映えている。
惜しむらくは……名前か。
「こやつも魔将、なのか? 他の魔将と比べるとあまり強さはないようだが?」
ラオルゥの感想に嫌そうな顔をすることなくハゲテーラはコクリと頷く。
「はい、実はつい先日まで副将をしてました。魔将であるハゲルラッシュの娘でありますですよ」
親子揃って不憫な……
「彼女の父は立派な男でした。先の戦争の折り、敵の勇者に戦いを挑み、相討ちとなったのでございます。エルフの勇者は強かった……」
勇者って誰と闘ったんだと思ったらエルフのかよ。
ということは、そのエルフ勇者が居なかったおかげで人族勝利できたんじゃないのか?
魔族、やっちまったな。漁夫の利取られてんじゃないか。
まぁ、俺としてもあの時エルフの勇者が居なくてよかったっちゃよかったよ。襲われてたら今の俺は居なかったかも、あ、いや。死んだフリ出来たから若萌を失っていた。と言った方がいいのか。
ハゲルラッシュに感謝を。
ラガラッツはゴブリンだった。
いや、何言ってんの? と思うかもしれないが、どっからどう見てもゴブリンだ。
緑の身体に鬼みたいな顔。かぎっぱなな鼻になぜか知的な瞳を持っている。
「ギギ、初めまして……ゴブリンメイジの、ラガラッツ、です」
言葉を喋るのはまだ苦手らしいのだが、魔法の詠唱だけはかなり上手いらしい。
魔法の使用に関してはこの魔将達の中では随一だと言われている。
そしてゴブリンにしては達観しているというか、性欲も殆ど無いらしい。
そのせいか、なぜか部下の女性兵からの人気が高いそうだ。
ゴブリンなのに、いや、何も言うまい。
こらそこのナビゲーター。肩を叩くな。どんまい。みたいな顔すんな。ぶん殴るぞ。
ラガラッツの挨拶を終え、代表するようにカルヴァドゥスがお辞儀をする。
「それでは我等は任務に戻ります。和平が結ばれたといえども人間共が何かせぬとも限りませんでな。殆どの兵は暇しておりますが、魔将と一部兵は警護を行っておるのです」
「気にするな。適当に見て回るのと、魔将と個別面談をしたい。時間を調整してくれ」
「了解いたしました。時間調整が済みましたら連絡を向かわせます。それまではしばしごゆるりと」
そういって、カルヴァドゥスが再び礼をすると、魔将達もそれにならい、礼の終わりとともに魔将達が散開していった。
魔将達が居なくなった天幕に、俺達だけが残される。
「さてセイバーよ。これからどうするのだ?」
「とりあえず呼ばれるまでは自由行動だな。ペリカは一応近衛騎士なので俺と一緒に行動して貰う。エルジーと、既に居ないけどあの男は自由行動。矢鵺歌とラオルゥも自由行動だな。俺はとりあえず周辺を見回ってみる」
「ふむ。ではいろいろと見回ってみようかな」
「でしたらご一緒しましょう。河上君たちとは別行動ですよね?」
どうやら俺とペリカ。ラオルゥと矢鵺歌で別行動になるようだ。
行くところは狭い東の陣地内なので何度も顔を合わせそうだけどな。
どうでもいいことですが、バロネットさんも同名の方が【その彼】の方に……自作とはいえ名前被りはどうなのだろう? まぁ、いいか。(^^ゞ




