魔法スキル
「んじゃ、始めましょうか」
次の日、大悟たちがパーティーを組んで遠くに向ったのを見送り、俺達は三人で集まっていた。
MEYは今回本当に参加する気はなく漁夫の利を手に入れるつもりらしい。
今日もネイルアートに精を出している。
「レベルは私と同じなのよねMEYさん」
「んー? そうだけどぉ」
「スキルの変動はどうです?」
「多分一緒じゃねー? 槍スキルがストライクスピア、二連撃、スタッシュハウンゼンの三つ増えたのとー、ラ・ギ、ラ・ギア、バム・ドの魔法覚えてるっぽい」
ストライクスピアは突きを行うスキル。通常の攻撃より1・2倍のダメージが入るらしい。
二連撃は二回連続で攻撃が当るスキル。これは攻撃力が0・8倍になる代わりに二回攻撃になるスキルだそうだ。
正直実際に闘う時はこのスキル必要無い気がする。ターン制のゲームなら確かに重宝するんだろうけどさ。
スタッシュハウンゼン? とかいうのは一度タメを作って衝撃波を突き出す槍技の中距離技だそうだ。実際に使って見せてくれたが、これやると疲れるとかいって一回しか見せてくれなかった。
魔法は火炎系の初期魔法と二段階目の魔法。広範囲の初期魔法を覚えたらしい。
レベルが上がるだけでスキルを覚えるというのも不思議な感じだが。ゲームだと普通なんだよなぁ。
まるでこの世界が日本のゲームを真似たみたいだ。
「槍術は上がってないのね。実際に使わないといけないみたい」
「べっつに使う必要ねぇしぃ。お、枝毛」
ネイルアートを終えると髪の毛を弄りだしたMEY。
俺達は彼女を放っておいて兵士達に任せ、森の中へと入り込む。
ここもまた別の門から来た場所で、東門にある森となる。
兵士の話では結構危険な魔物もいるので森には入らないように。とのことだけど、このレベルならなんとかなりそうなことも言っていたので、若萌と相談して入ることにしたのだ。
「結構きつくなってきた」
「スキルを使えば楽になるわよ?」
ポイズンスネイクにビ・ハという光魔法を放った若萌は、眩しさにのたうつ蛇に一刺ししてトドメを刺しながら告げる。
確かにその通りなのだが、俺の覚えているスキルは全く変化していない。
使えそうなスキルは強制ステータス閲覧とモンスターテイムだけだ。
望んでいたモンスターテイムは手に入ったが、何故手に入ったのかよくわからないし、一匹手に入れたみたいだけどどんな魔物かすら全く分からない。
俺は一体このスキルをどこで手に入れて何をテイムしたのだろうか?
まぁいい。ステータス閲覧で相手の大まかな強さを知るだけでも闘いに幅が出る。
魔法については若萌任せになるけどこれは仕方無いだろう。
共闘を持ちかけてきたのは若萌なのだ、嫌なら勝手に離れて行くだろう。
とにかく、早くレベルを上げて魔王を倒して、異世界から戻る手段でも探すか。
探したところで俺に戻る居場所なんてないのだが……
いや、まぁ所属することにした新しい組織で頑張るか。
まだ在籍出来ていればだけどな。
「あら? 回復魔法だわ」
「ん? 回復魔法?」
「ええ。今の敵を倒したことでレベルが20になったのよ。それで回復魔法のヒールを覚えたみたい」
今更ヒールか。ゲームなら5レベルも行かないうちに主人公キャラが覚えるもんじゃないのか?
まぁ、覚えられただけマシか。
光寄りの若萌ならもっと高位の回復魔法もそのうち覚えることだろう。
「回復魔法……か。皮肉なモノね」
「ん?」
「なんでもないわ。それより、そろそろもう少し奥に行ってみる?」
「そうだな。この辺りならレベルも上がりにくくなってきたし、奥に向ってみるか」
二人して森の奥へと向う。
パーティー編成が解除されないぎりぎり辺りにやってきた時だった。
二人揃って嫌な予感を覚え、どちらからともなく武器を構える。
「グアァオォォォォォッ!!」
王者の轟きが起こった。
ビリビリと森が振動する。
来る。今までとは毛色が違う魔物が来る。
うっすらと滲んだ汗に気付いた若萌が武器を握り直す。
茂みが掻き分けられ、巨大な赤茶けた生物が現れた。
熊だ。赤茶色の熊が来た。
胸元に月のような白い毛を持つそいつの名は、エクスプベア。
鋭い鉤爪に引っ掻かれた場所が爆発するという意味不明な能力を持つ熊だ。
強さは日本に居る熊と大差ないらしい。知るか。
熊ってだけで凶悪すぎるわ。
「チッ、これは出し惜しみしてる場合じゃないわね」
「なんだよ、必殺技でも持ってんのか!?」
「遠距離でフォローするわ。骨は拾うから好きに動いて。あと射線には入らないで」
よくわからなかったが、それだけ言うと若萌が木を昇りだす。
俺は囮役をさせられるらしい。
巨大なエクスプベアが立ち上がり、両手を振りあげる。
威嚇ポーズに思わず腰が引けそうになる。
落ち付け、たかが熊だ。ただの熊だ。爪に当ると身体が弾け飛ぶだけの熊だっ。
エクスプベアとの死闘が、幕を開けようとしていた。




