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外伝・いつかのシシルシさん5

 その日、なぜか村中が落ち着かない雰囲気に包まれていた。

 何か抗いがたい危険が迫っている。そんな感覚。

 いつも通りの日常が展開されながらも、どこか変な空気が漂っている。


 門番の男も、そわそわしながら本日の職務を行っていた。

 遠方から、誰かが近づいて来るのを見付け、警戒感を露わにする。

 だが、それが見知った少女である事に気づき、安堵を浮かべた。


「なんだお前、生きてたのかよ」


「ん……? シシーは元気だよ? どういう意味?」


 その少女、シシルシが生きていた事に驚きつつも門番は溜息を吐く。


「そりゃ一年以上見掛けなけりゃ死んだと思うに決まってんだろ。で、何しに来たんだ?」


「何、って? 家に帰りに? あとお墓に埋めたいのこのアイテム」


 と、大事そうに門番に見せたのは、一振りの大剣だった。

 彼を象徴するモノを考えた結果。これが一番だと思ったのだ。

 身に付けていた他のアイテムは自身で持っておくつもりだ。


 しかし、門番はシシルシの言葉を聞いて頭を掻いた。

 あっちゃーっと言葉を吐きながら虚空を見上げる。

 その行動に、何かを察したシシルシは剣をしまった。


「何か、マズいの?」


「いや、お前が居なくなったから死んだと思われてな、その……家は無い。墓も……」


 刹那、物凄い衝撃が来た。

 門番はもんどりうって転がり、気付いた時には地面に伏していた。

 シシルシに押し飛ばされたのだと気付いた時には、すでにシシルシが村に入ったところだった。


 嫌な予感がひしひしとして来る。何かヤバい。

 自分が何か言ってはいけない言葉を言ってしまった気がして心臓がヤバいくらいに音を鳴らしている。

 ここから、逃げなければ死ぬ。何故かはわからないがそう思った。

 だから、彼は門番の役目を放棄して咄嗟に村から距離を取る。森に隠れるよう逃げ込んだ瞬間だった。絶叫が、轟いた。




 村に入り込んだシシルシは、一直線に自分の家へと辿りつく。

 父と母が作った家は、しかし既にそこになかった。

 藁葺屋根の小さな家は、村長の屋敷に吸収されるようにして馬小屋になっていた。


「なんだ……これ?」


「シシルシか?」


 呆然と馬小屋を見つめるシシルシに、村長宅から現れた初老の男が声を掛ける。

 見覚えのある人物に、シシルシはゆっくりと顔を向ける。


「シシーの……家は?」


「お前さん、一年もおらんかっただろう。三眼族狩りにやられたと思って家は有効活用させてもらったよ。どうせこの一年生きておったなら新しい家もあるのだろう。そちらに住めばよかろう」


「ふざ……けるなっ。なんだそれはっ、ここはシシーの母さんと父さんの家だぞっ!?」


「ふざけるな? タダ飯喰らいの分際でほざくなガキがっ! 村の皆が働いておるのにただ喰うだけのくせに一著前に家を所望かっ。さっさと出て行け!」


 自分が疎まれていた事くらいは、分かっていた。

 事実、あの男に出会う前はシシルシはか弱いただの三眼族。狩られるだけの立場で、皆の役に立つ事すら出来ないまさにタダ飯喰らいだ。

 だが、子供相手にソレを言うのは大人としてどうなのか。

 突然の逆ギレに開いた口の塞がらないシシルシは、それでもなんとか気持ちを落ち付け、もう一つの目的の場所を聞く。


 家が無いのは、仕方無い。まだ許せる。

 第一そうなっても大丈夫なようにレベリングして貰ったのだ。

 今のシシルシならばたった一人でも生きていける。


「墓……父さんと母さんに、お参りしたい」


 せめてとばかりに共同墓地の場所を聞こうとした。

 だが、それは聞くべきじゃなかった。

 知らずにいれば、シシルシが絶望を覚えることなど、無かったのだから……


「墓? ああ。キッシェルの奴が最近結婚してな。家が無かったから墓地を撤去してそこに建てたのだよ。出てきたアイテムは奴の家を建設する金に変えたよ。昔の御先祖たちはもう残っちゃいないぞ? 新しい共同墓地に埋葬されたのはこの前死んだロローラの婆さんだけだ」


「……はぁ?」


 意味が、理解できなかった。

 父と母が建てた家を自分の家の馬小屋にした?

 先祖の墓を暴いて……結婚した新婚カップルの家の資金に変えた?


「村の皆で決めた事だ。お前が居なかったわけだし、御両親は無縁仏として一緒に換金させてもらったよ。キッシェルも喜んでいたさ」


 その日、世界が悲鳴をあげた。

 圧倒的な暴力が、局地的に吹き荒れた。

 村人たちは地面に埋まり、次々と赤い華へと変わっていった。


 その光景を、ただ一人生き残った門番は呆然と見つめていた。

 泣き叫ぶ女の鼻を引き千切る狂った少女が建物の隙間から見える。

 直ぐに次の男に向う少女は次々と地面に埋まったハナたちを摘み取って行った。

 その光景に、門番は一人絶望に震え、慌てるように魔王城へと走り去る。


 通報を受けてやってきた当時の魔王が目の当たりにしたのは、何も無くなった村跡に、一人呆然と佇む無垢な少女。巨大な剣を地面に突き刺し、ソレをただただ見つめていた。

 封印の間へと連れて行かれる少女の瞳から、一筋の涙が流れたのを見た者は……誰も居なかった。

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