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外伝・いつかのシシルシさん4

 どれ程の間、男と一緒に生活しただろう?

 シシルシは男と野宿する事に、抵抗感はなく、まるで長年一緒に冒険しているパートナーのように思い始めていた。

 冒険のやり方も、ダンジョンの攻略も、彼は熱心にシシルシに教え込んだ。


 魔法も戦闘方法も、剣の扱いも、素手での格闘も。

 男が持てる技術は全て注ぎ込み、シシルシもまた、三眼族に伝わる秘術を男に教えていた。

 といっても、三眼族の三つ目についての秘密というだけで、大したものではない。

 単に自分が倒した者の魂のようなモノを三つ目に閉じ込めることでその三つ目の価値を高めるというだけだ。


 つまり、綺麗な三つ目を手に入れたければその対象に多くの誰かを殺させてからにすれば高価な目玉を手に入れる事が出来る。というただそれだけのことである。

 彼にとっても全く役に立たない無駄知識だったので、そのまま秘匿することで二人は了承した。


 レベルがかなり上がったシシルシを連れて、男は人族領に来ていた。

 シシルシの額を鉢巻などで隠してしまえば普通の女の子にしか見えないので、人族領でも充分に歩けるのだ。

 御蔭で人族の営みというものを知ることが出来た。


 人族領は美味しい食材で溢れ、多くの人が酒場で笑い合い、暴れ合い、吐き合っていた。

 活気に満ちた城下町はとても魅力的で、シシルシは我を忘れて楽しんだ。

 だから、悪意に気付くことは無かったのだ。


 宿屋に戻り、男と二人眠りに付く。

 次はどこに行こうか、何をしようか。

 そんなことを楽しく決めながら、一つのベッドに寄り添うように二人で眠った。


 別段何かがあったわけじゃない。

 ただ父親と娘が一緒に眠る。その程度の行為であった。

 それでも、シシルシの中に男が人族であるという警戒感は少しも無く、代わりに、小さく燻ぶり始めたナニカが生まれ始めていた。


 男の側にいると落ち着く。

 その程度の想いは、少しずつ、彼女の心を満たし始めていたのだ。

 その日までは……


 ある日、いつものように冒険をしていた。

 オーク討伐を行い、野外キャンプをしていた時の事。

 オーク倒したし、次は何を受けようか? 楽しげに話す男とシシルシ。

 その背後から、二人の男が現れた。


 最初に気付いたのは男の対面に居たシシルシ。

 初めて見る二人の男に会話を止めて誰? と告げる。

 それに気づいた男が振り向くより早く、凶刃が男を貫いていた。


「なっ!?」


「オラッ、サオロ、さっさと金目のモノ奪い取れ!」


「へへ。悪いなおっさん。俺らのために死んでくれや」


 ごぷりと口元から血を吐き出す男は、素早く反応した。

 二人の男を吹っ飛ばすと、シシルシを連れて走り出す。

 その拍子にシシルシの鉢巻きが外れてしまった。


「あ、アニキ、あいつ三眼族だ!」


「マジかよ! ツイてるぜ俺ら! 待ちやがれクソがっ、そのガキ置いて行けっ!」


 男は血を吐き散らしながら懸命に走る。

 男達等いつでも倒せるのに、彼はそれを選択せず、シシルシの安全を優先したのだ。

 やがて、オークを討伐仕切った洞窟に辿りつき、洞窟に入った瞬間、力尽きるように倒れた。


「クソっ、やっちまった……」


「なんで……あんなの、赤いおぢちゃんならすぐに」


「バァカ、テメェ。俺は魔物や魔族は殺すが人間は殺さねぇって決めてんだよ。例え相手が悪人でも、だ。もう、二度と殺さねぇ。……なんて言っても、自分が殺されんじゃざまぁねぇやな」


 背中からはおびただしい血が流れている。

 目が霞みだしたのだろう、焦点が合わなくなりつつある。きっとシシルシの顔すらもう、見えていないのだろう。


「まずった……こんなことなら……あいつに回復魔法……習っとくんだった」


「教会まで、持ちそう?」


「無理だ。お前が俺の死体を……連れて行くのも、な」


 そう言ってシシルシの額を差す。三つ目が顔を出していることに今更ながら気付いたシシルシ。

 ここから魔族領に戻るにも彼の死体を持ってということであれば不可能に近い。

 まず人族の検問で弾かれる。


 無理に押し通るには死体が邪魔になる。現実的じゃないだろう。

 かといって人族領の教会に向うには、三眼族という自身が邪魔になる。

 復活魔法もここには無い。


「シシルシ、最後の頼み、聞いてくれるか?」


 静かに、決意したように男は告げる。


「俺を殺してくれ。あいつらみたいなクソに経験値を与えたくねェ」


「シシーに、それをさせるの……?」


 赤いおぢちゃんは酷いなぁ。そう呟いて、シシルシは空を仰ぐ。洞窟の天井しか見えなかったが、決意は出来た。

 生まれ始めた恋心という小さな芽を自ら摘み取る。

 さようなら、赤いおぢちゃん。

 小さく呟き、愛しき男の命を奪った。

 彼はきっと、三つ目に囚われ、ずっと一緒に居られるだろう。

 代わりに、彼は死した後ずっとシシルシの眼に囚われ続けるのだ。


「シシーは生きるよ? ううん。俺様、うん。赤いおぢちゃんみたいでいいね。俺様は、どんな絶望が来ても生き残ってやる。だから、そこから見てろよ。俺様が生きる世界を」


 まずは手始めに……シシルシは男の元へ、二つの魂を送り届ける事を決意した。

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