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外伝・いつかのシシルシさん3

「砕け散れっ!」


 巨大竜を相手にたった一人の男が挑んでいた。

 シシルシは少し離れた場所でソレを呆然と見ていた。

 双方レベル8000オーバーのバケモノだ。


 西にあった山には本当に竜がいて、シシルシの初めて見る存在が群れを成して生息していた。

 そんな道を、我が物顔で歩く赤髪の男。

 当然竜が襲って来るが、そんじょそこらの駄竜では相手にならない。

 何度か襲ってくるうちに気付いた竜たちが忌々しげに唸りながら男に襲いかからなくなった。


 そして、山の頂上付近まで来た男が相手取ったのが、今、目の前で激闘を繰り広げている魔竜フランシュプニール。

 赤い肌を持つこの竜は、ドラゴンブレスに切り裂き、テイルバスターなど無数の攻撃を使い男を追い詰めている。


 男はかなり劣勢だった。

 流石に自分よりレベルの高い竜を相手にすると、彼でも苦戦するようだ。

 それでも、強くはあるのだ。並みの相手であればドラゴンとこれ程長く戦い続けられる訳が無い。

 そもそもがドラゴン退治には複数の人間が居てようやく闘いになるのである。ソレを一人で狩ろうというのが無謀な試みであった。


 だからといって彼を手伝う事は出来ない。

 シシルシのレベルではドラゴンの一撃で即死してしまうからだ。

 すでに2000レベルに到達しているとはいえ、6000レベルもの開きがある敵を相手にしては、月とスッポンくらいの差がある。


「くっそ、こんな強いの想定外だ」


 激突した地面からなんとか立ちあがり、男は懐から薬瓶を取り出す。


「奥の手、使うっきゃねぇな」


 迷いなく薬瓶に入った液体を呑み干し薬瓶を投げ捨てる。

 地面を転がる薬瓶が崖から落下して遥か下で無残に砕け散った。


「そるァ、これが奥の手、限界突破だ! ステータスオール2倍だぜ!」


 クスリは即効性だったようで、地を蹴った瞬間、シシルシの視界から男が消えた。

 驚くフランシュプニールが物凄い勢いで切り裂かれて行く。

 迸る絶叫と周囲に飛び散る炎の吐息。


「これで、トドメだァ!!」


 シシルシが気付いた時には、フランシュプニールの首の上に辿りついた男が気合い一閃。首を切り裂いた。

 シシルシのレベルが再び一気に上がっていく。2000回に昇る連続したレベルアップ。

 思わず感嘆の声を漏らしてしまう。


 フランシュプニールを撃退した男はフランシュプニールの遺体に背もたれ息を整える。

 その場にシシルシがやってくるのを見て、よぉっと手を上げて微笑んだ。

 ついでに目の前に出てきたアイテム入手ダイアログにいいえを選択する。


「あれ? アイテム入手しないの?」


「するぜ? その前にいろいろと剥ぎ取るもんがあるんだよ。アイテム入手だけだと手に入らないドラゴン肉とか牙とか爪とかな。ドラゴンの肝は特に貴重部位だ。アイテムボックスに入れるまでは絶対アイテムにするわけにはいかねぇ。ドラゴンは余すところなく貴重なアイテムになるんだよ!」


「なるほど」


 納得するシシルシの側に、後ろから何かがやってきた。

 なんだ? とそちらを見れば、シシルシと同じくらいの大きさの竜が一匹。くぅーんと力無く鳴きながらフランシュプニールを見つめていた。


「子供?」


「あー、子持ちだったか。こりゃちょっと面倒だなぁ。っつっても殺した後に出て来られてもどうにもできねぇんだよなぁ。復活魔法持ってる奴近くにいねぇかね? 無理だよな」


 やっちまった。と頭を掻く男。

 シシルシは少し考え、フランシュプニールに近づくと、ナイフでその身を少し切り取る。

 そして、子供と思しき竜に見せつける。


「食べる?」


「って、こらこら。母親の肉食べさせようとすんなよアホって、喰っちゃったよ!?」


 レベルの高い肉を食べたせいか急激なレベルアップを始めた竜が突如巨大化した。


「マジか!?」


「おー。この子フラジャイルだって。じゃあフラージャだね。そう呼ぼう」


「つか逃げろシシルシ!」


「大丈夫だよ赤いおぢちゃん。この子のレベル、まだ2000くらいだから」


 ぽんぽんと足元を叩くシシルシ。フラージャは悲しげに咆哮を轟かせると、母親と思しきフランシュプニールにドラゴンブレスを撃ち放つ。


「なっ!?」


 ブレスを吐き終わると、男を一瞥して遥か空へと羽ばたいて行った。

 どうやら男に母親の亡きがらをくれてやる気は無い。ということらしい。

 原型が無くなりアイテム入手が不能になる前に、なんとかアイテムを取ることに成功する。


「くっそ、俺様のドラゴンステーキが……」


「肉切れなら幾つか取ったよ?」


「容量の問題だっつの! アレだけの巨体だぞ! ミノにハラミにサーロイン。ああ、チクショウ。折角勇者の嬢ちゃんに習った美味しい肉の部位が……」


 嘆く男にシシルシは思う、別に他のドラゴンで採取すればいいんじゃない? と。

 ただし、言葉にするとそういう問題ではないと反論されそうなので口を噤むことにしたシシルシだった。

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