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外伝・いつかのシシルシさん1

「よぉ、何してんだガキ?」


 それは、はるか前のことだった。

 ずっと昔、何年、何十年、何百年も前の事。

 一人の男がそいつに出会った。


「オハナ摘み」


「ゴブリンは花じゃねぇだろ。まぁいいや。魔族に何言ってもしゃーねぇ」


 後ろから覗いて来ていた男は溜息を吐いて頭を掻いた。

 彼女の目の前には、頭以外地面に埋められたゴブリンが何とか脱出しようと首を振っている。

 少女は叫ぶゴブリンから目を離し、男に振り向く。


「シシーに何か用? 最近新しく考えた遊び試してるとこなんだけど」


「それを遊びっつーのが流石魔族のガキだな。つかお前、三眼族かよ。こんなとこ居たら狩られるぞ?」


 心配そうに告げて来る男はこの付近には珍しい存在。そう、人族という存在だった。

 シシルシはなぜそんな人物がここにいるのだろうと首を傾げる。


「人族さんは何しに来たの? オハナ摘む? それとも目を出す?」


「やらねぇよ。俺様は勇者様に付いて魔王退治って奴さ。最近仲間に入った魔族娘庇ったらお前はいらんっとか言われてな。ついさっき解雇されちまった。魔族領の中央で一人っきりにされんだぜ、今までの仲間に対する仕打ちじゃねぇーと思わねぇ? 勇者ちゃんも魔族娘守りたいとかいいながらあいつらの言いなりじゃねぇか。俺様が居なくなったらあいつら調子乗るだろうし、今回の魔王討伐も無理かもしんねーな」


 再び深い溜息を吐き、その場に胡坐を掻いて座る。


「まぁそういうわけでよ、暇になったから相手してくれ。正直今誰かと会話して愚痴りたくて仕方ねぇ」


「シシーの都合は考えないんだねぇ。まぁいいけど。ちょっと待っててね。目を出してからオハナ摘むから」


 目の前で行われる非道な行いにうわぁっと青い顔をしつつ、男はしばし、その場に座っていた。

 血塗れになったシシルシが彼の前にやって来てちょこんと座る。

 三つの目で不思議そうに見られる男は呆れた顔をしながらも、話を聞いてくれるつもりのシシルシさんきゅっとお礼を告げる。

 赤い髪の好青年。人族の中ではかなりのイケメンに入るだろう男は、シシルシを前にしても警戒することはなく、無防備に笑みを浮かべた。


「いやぁ、まさか本当に愚痴聞いてくれるとはな。お前イイ奴か?」


「んー。というかシシー暇だから暇つぶしに付き合ってあげようと思って。村では爪弾き者ですから」


「あん? そりゃどういうこった?」


「だいぶ前にね、三眼族狩りがあったの。お父さんとお母さんがその時目を出されちゃった。だからその時孤児みなしごになったシシーは村で育てることになってるの。同年代の子はね、親の仕事手伝ったりしてるけど、シシーはね、何もする事が無いの。ただ生かして貰ってるだけ。ご飯を食べるだけのタダ飯ぐらいの要らない子なんだって」


「擦れてんなぁ。つかここでも居んのかよ……」


 再び溜息を吐いて頭を掻く赤髪の男。


「それで? 赤いおぢちゃんの愚痴は? つまらなかったらおぢちゃんのオハナ摘んじゃうよ?」


「そりゃ御免被りたいな。まぁいいや。俺ぁな、元々人族の王族って奴らしいんだ。つっても王様がメイド孕まして産ませた子でな。王位継承権っつーのが低いらしいんだ。んで、王子様が魔王退治でどんどん死んでった結果、次の王族候補として俺の腹違いの弟にお鉢が回ってな。そいつの側仕えとして無理矢理魔王退治に来させられたっつーわけだ。勇者の嬢ちゃんも心配だったからほいほい着いてきたらこのザマだ」


「ふーん。ざまぁ。って言えばいい?」


「くっそ、反論できねぇ」


 はぁっと息を吐き出し空を見上げる。

 きっと、彼はここに来るまでいろいろな事をしていたのだろう。

 時に王候補の弟と衝突したり、魔族の娘を仲間に入れようとした勇者を庇ったり。

 でも、結局仲間から外されてしまった。口うるさい彼をパーティーは排除したのだ。


「まぁ、これもなんかの縁かねぇ」


「縁って? シシーと赤いおぢちゃんのこと?」


「おぢちゃんいうな。俺はまだ20いってねぇぞ?」


「シシーは10いってないよ? 10歳差はおぢちゃんでいいよね?」


「やめろっ。お兄さんと言ってくれ。おぢちゃんは呼ばれたくねぇよ!?」


「うん。わかったよ赤いおぢちゃん」


 数回、同じ言葉のやりとりを繰り返しながら、男は不意に立ち上がる。

 どうしたの? と見上げるシシルシに、掌を差し出した。


「言ったろ。これも何かの縁だ。お前を一人で生きて行ける程度に鍛えてやるよ。付いて来な嬢ちゃん。もう、役立たずなんて誰にも言わせねェくらいに俺様がしてやるぜ!」


 きらりと歯を光らせる男に、シシルシは何言ってんだこの人。と思わずぽけーっと見つめていた。

 何かを勘違いした男は惚れんなよ? と追加の台詞を投下したが、シシルシの耳には届いていなかった。

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