魔王領慰問団10
疑惑の視線を受けたアウグルティースがうっと呻く。
「最近、軍の食糧がいくらか不正に引き出されているようなのです。決まってアウグルティース直属の部下が警備に付いている時なのですよね」
サイモンも乗っかる形で疑惑の視線を向ける。
「バカな!? そのようなことは偶然、気のせい。そもそも不正など部下がやったことかもしれんではないか。なぜ私に疑惑が向うのだ! だろう、なぁブルータース!」
「そう言えばこの前、お前の天幕から聞き覚えのない男の声が聞こえたよな。なんだっけ、報酬? 人族領に屋敷とかなんとか」
決定的だろソレ。
「ブルータースっ貴様もかっ!?」
流石にこれはマズいと思ったアウグルティースが剣に手を掛ける。
これはこの場を突破して人族領に逃げ込むつもりかな。
「さて、もう少し冷静になれば疑惑のまま終われたモノを、愚かにも馬脚を現したか」
「くっ。こうなっては仕方あるまい。ああ、その通りだ。貴様のような人間などが魔王になるなど片腹痛いわっ。ギュンター様、あるいはディアリッチオ様に王位に付いていただき人間共を徹底的に殲滅するのだ! まさかこれ程早く露呈するとは思わなかったがなっ」
さらばっ。とばかりにバックステップ。天幕から逃れようとした彼は、背後にいた人物とぶつかってたたらをふんだ。
「なっ、誰だこんな場所に立っている馬鹿……は……っ!?」
振り向いて剣を向けたアウグルティース。彼の背後に立っていたのは初老の魔族だった。
紳士服を着た男は、にこやかな笑みを湛えながら、しかし怒りの籠った感情を必死に隠すようにしていた。
「でぃ、でぃあ、でぃあ、でぃあああああああああああああっ!?」
「お話聞かせて頂きました。素晴らしい判断です。魔族のために人間を王に戴きたくはない。なれば殺してしまおう。良い判断ですよ。ただし、我が領地に人族を入れるなどという愚考はそれを帳消しにしてあまりある」
「あ。ちが……わた。私は……」
「魔王陛下。この者、お借りしますがよろしいですか? 無事返せるかどうかは保証できませんが」
と、朗らかに聞いて来るディア様。俺は頷くしか出来なかった。
逃げる事すら忘れたアウグルティースの首根っこが掴まれ、ディアに引きずられて行く。
あれはもう、終わったな。
「あ、あの方は……ディアリッチオ……様?」
「ああ。御本人登場だ。魔神はフラージャ以外既に魔王城にいるんだよ。俺を殺すためにあいつら使うには情報が古かったな。既に知り合ったあとなんだ」
これにはペリカもブルータースも青い顔で対応するしかなかった。
一応、連絡は行ってたらしいサイモンだけが苦笑に留まっている。
「魔王陛下。この後はどうなさいます?」
「東と南を見て回ろうと思う。その二つの場所でも妖しい動きをしてる奴がいるらしいからな。やはり俺が魔王ということで魔王が軽く見られてるのかもしれないな」
「そうですか。ああ、では私は極秘情報を一つ提供して株を上げさせてもらいましょう」
サイモンが一度エルジーを見て、でも気にせず話しだす。
昨日とかに話せた事じゃないのか?
情報を秘匿していたのは何か理由でもあるんだろうか?
「実は先日ディアリッチオ様所有の森に巨大な樹が空から降ってまいりまして、あの一番目立つ中央の木ですね。どうやら霊樹とよばれるモノのようです。同時に数百ものエルフも同じ場所に落下しているのを確認しております。ディアリッチオ様が封印された状態であればそのまま放置していたところですが、ディアリッチオ様にご確認の上、一度見に行かれた方がいいかと思います」
マジかよ!? あのでっかい木、元からここにあったんじゃなくて空から最近降ってきたのか!? 何ソレ、この世界って空から雨の代わりに木やらエルフが降ってくるのか!?
ちょっと、気になるな。慰問終わったらディアと一緒に見に行ってみるか?
「そう言えば、数日前の事ですがあの近辺に何か鳥のようなモノが無数に舞っていたのが目撃されています。目の良い者が女性用のパンツみたいだ。などと言っておりました。新種の魔物かもしれませんので探索される場合は気を付けてください」
気を付けろってもディアでどうにもならないならもうお手上げだろ。
あまり気にせずアイツと行ってみよう。
ま、それは後でいい。とりあえず北についてはメロニカだったか、あいつが来れば問題は無くなるな。
ペリカの話では半日後には到着できると思うとの事だし、あと一日ここに居て明日にでも出発すればいいか。急ぐ旅でも無いんだし。
それからしばらくメロニカが到着するまで、俺達はサイモンの指揮で森から引っ張り出される魔物と、ソレと闘う人族を見学して待つのだった。
というか、あのおっさんほんと強いな。デスサイズベアってレベル400位の奴らしいのにほぼ瞬殺だぞ? あいつが勇者でいいんじゃね?




