魔王領慰問団9
「アウグルティース、お呼びにと聞いてまいりました」
最後の魔将アウグルティース、何処に居るのか分からなかったので兵士に呼んでもらう事にした。サイモンとブルータース、ついでにペリカもここに連れて来た。折角だし全員の前で証言して貰おう。言い逃れはさせないぞ。
「魔将が全員揃っておりますな? 何か重要な話が?」
「ああ。ギュンターと各魔将の動きを探っていたのだが、ここ、四騎将の一人が妖しい動きをしている事に気付いてな。慰問ついでに本音を探っておこうと思ったのだ」
「……妖しい動き、でございますか」
少し考えるそぶりを見せたアウグルティース。なんだろうなこの名前。アウグスティヌスとかいう過去の英雄の名ゼリフが聞けそうな気がしてくるよ。というか、多分言うんだろうなぁ。
よし、じゃあ、追い詰めてみるか。
「どうやら人族と通じ、彼らを魔族領に連れ込もうとしているようだ」
「なんと、そのような恥知らずが魔将にいると言うのですか」
「そう思ったのだがな。よくよく考えるとあり得るのだ。そもそもこの動きが始まったのは俺の魔王就任後になる。となれば、だ。人族が現れたことを俺の指示不足としてしまえば俺を失脚させる足掛かりにもなるだろう? それにこの付近にはディア……リッチオの領地がある。何も知らん人族は間違いなく踏み込み眠れる獅子を起こすだろう。自領を荒らされた魔神が事の発端が俺にあると知ればあるいは、俺までも殺されるやもしれんな。などという方法を取るつもりではないかと愚考してみたのだ」
まぁ、ディアは魔王城で俺の動向見てるけどな。今は……確かルトラと一緒に屋敷で調べ物してるんじゃなかったっけ。ということは、誘えばここまで来るかもしれないな。
(行きましょうか?)
うぉうっ!? 念話か。焦った。
ディア、もしかして今の話聞いてた?
(気になる存在にはマーカーを付けて周囲の状況を見させていただいております。そ奴が我が領地にちょっかいを掛けようとしている不届きモノですか)
可能性はあるけど、まだ認めた訳じゃない。これからだ。
(では認めましたら私がそちらに向かいましょう。よろしければ罰は私めが)
ディア様がお怒りでいらっしゃいます。俺では止められそうにないので喜んでディアに譲っておくことにした。
「なるほど、つまり魔王陛下に未だ逆らおうとしている輩が魔将に居ると?」
「ああ。そこで全員に聞いて行こうと思ってな。アウグルティースは誰だと思う?」
「そうですな……妖しいといえば、メロニカの動きはここ最近妖しいですな。昔は眠いだるい休みたい。と言っていたのに最近は人が変わったように精力的に魔物や人間の撃破を行っております」
それは単純に別人に入れ替わってるだけだ。
俺は横目でペリカを見る。ペリカはそっぽ向いて下手な口笛を鳴らしていた。
「あるいは、ブルータースかもしれません。なぁブルータース。確かこの前デスサイズベアを倒した人間を褒めていただろう。随分と気に入っているようだが?」
「うむ。ギーエンであるな。あの男は珍しく骨のある人族だ。ぜひとも一対一で闘ってみたいモノである。良い闘いになると思うのだがな」
「と、言った具合で。このブルータースの話が拡大解釈されたのではありませんか?」
「なるほど。確かに人族との接点といえばブルータースの話の拡大解釈はありうるな」
コクリと頷き、俺は真っ直ぐにアウグルティースを見る。
「ところでアウグルティース。先程まで本陣を留守にしていたようだが、何処にいた?」
声音を変え、低い声で尋ねる。
急に変わった空気にアウグルティースもようやく察したようだ。既に二人の疑いが晴れ、自分が黒ではないかと疑われていること、否、ほぼ確信されていることに。
脂汗が吹き出る。
いい年のおっさんが恐怖に怯えながらも決意を持ってこの危機を回避する術を模索し始めている。
そして、生唾を一度呑み込み、俺をしっかと見定める。
「まさかとは思いますが魔王陛下。この私めをお疑いでございますか? 裏切りの将サイモンをこそ真っ先に疑うべきでありましょう。先王陛下に忠誠を尽くし、死力の限り尽くす私を、まさかお疑いでございますか?」
「部下を疑いたくは無いモノだよアウグルティース。だが、悲しいかな。君は先王に忠誠を尽くしているのであって、ぽっと出の俺に忠誠を尽くしているわけじゃないんだ。疑いたくはないが、疑ってかからなければその者が敵か味方か分からないだろう。だからこそ、君の忠誠を見せていただきたいモノだアウグルティース」
俺の言葉に、そう言えば、とペリカが羽を口元に持っていき何かを思い出したような仕草で話しだす。
「そういえば、私が人族にトドメを刺す時、決まって何名かの人族が生き延びるんですよね、どっかの誰かさんが横入りして来るせいで」
じぃっと見るのはアウグルティース。疑惑の視線が二つになった。




