魔王領慰問団8
「わ、私が、近衛兵団……?」
「俺の護衛、とは名ばかりの遊びに行くのに付き合ってもらう人って奴だ。魔王なんて身になるとおいそれと外出も出来なくてな。そこの騎士さんみたいに余裕のあるギュンターの護衛兵を借りてるのが現状なんだ。だからそれなりに強いお前が俺が自由に動かせる近衛兵になって貰えればギュンターの兵が空いてるかをいちいち確認する必要も無くなるからな」
「は、はぁ……」
今、彼女の頭の中では様々な想いが駆け廻っているのだろう。
「一応先に言っとくが、メロニカは魔将としてここに出張って貰いしばらくは働いてもらう予定だ。本人次第だがな。魔将が荷が重いと言うのならやめてもいいし」
「魔王陛下、魔将は嫌だなどで止められるものではございませんが」
「役に立たないと言うならば別の人物に任せた方がよいだろう。なんならペリカを代わりに魔将にしても問題はあるまい。今まで彼女で問題無く回っていたのだ」
「そ、それはそうなのですが……」
俺の言葉にサイモンも言葉を続けられなくなった。
ともかく、この話はメロニカが来てどういう態度を取るか次第だな。
「まぁ、今直ぐに返事はムリだろうからな。しばらく考えておいてほしい」
「わ、わかりました」
混乱気味のペリカをその場に残し、俺達は別の魔将の元へと向かう。
もともとこの魔将訪問は人族と通じているらしい存在を探すために行っているのだ。
とりあえずペリカは白だと分かっただけのこと、残り二人のうちどちらかだろう。
「この先に居るのが魔将ブルータースですね」
ああ、あいつか。
……ブルータース、お前もいたか。というか、名前からしてこいつが黒じゃね?
そんなブルータースは牛の上半身を持つ蠍という変わった生物である。
今はどうやら休憩中のようだ。魔物がやられそうになったら直ぐに出られるようにと待機所の椅子に腰掛けている。
俺達が来たのを見て立ち上がろうとしたので、座ったままでいいと告げておく。
しかし、よく椅子に座れるな。普通に椅子に座らない方が楽そうな気がするんだけど。
「これは魔王陛下。このような場所までわざわざ御足労頂けるとは、恐悦至極にございます」
「うむ。で、貴様は何を隠しているのかな?」
色々考えたんだけど、煙に巻かれること前提で直球勝負する事にした。時間短縮だし、最悪真名使えばいいからこれでいいんだよ。変に回りくどく聞いてものらりくらりとかわされるだろうし。
と、いうかぶっちゃけ面倒臭くなったので直接聞いただけだったんだけど……
「な、なんと、サイモンにすら隠していたアレをもうお気づきに!?」
「一応、お前の忠誠心の確認のためにも、答え合わせと行こう。サイモンが邪魔なら外させるが?」
「いえ、良い機会です。私めも後ろめたくございましたゆえ、この機を存分に活用しましょう」
快活に笑ったブルータースは再び俺を見る。
「実は私、編み物が好きでしてな。アラクネやデススパイダーの糸を貰って幾つか作品を作っておるのです。彼らが見張りの時に引き抜いておりましたので、少々後ろめたかったのですよ」
なんだこいつ、内心滅茶苦茶乙女じゃねぇーか! 女子力高いぞ!?
「あ、ちなみに、趣味は料理と掃除と編み物で、部隊の女性兵に蜘蛛糸の服を作ったりしております。防御力が高いので結構重宝されておりますよ」
「最近防備が薄い気がしてたのは貴方のせいですかっ!?」
たまらず叫ぶサイモン。
いや、うん。これは裏切りとかそういう状況じゃないな。となると、残る一人の魔将が裏切りの犯人か。
編みかけのベストっぽいのを見せて来るブルータースに折角だから一着作って貰う事にした。
出来次第サイモンが魔王城に送ってくれるらしい。
若萌に見せてみよう。呆れそうだけど。
ブラジャーやパンツの替えが欲しいとか言ってたからなぁ。この世界スポーツブラくらいしかないらしいんだよ。パンツもごわごわなんだそうだ。最近は白スーツで過ごしている事が多い。
「ところでブルータース、人族について何か報告していない事は無いか?」
「は? 人族でございますか? そうですね……ああ、最近実力を付けつつある男が一人います。本日もデスサイズベアを倒しておりました」
ああ、あのおっさんか。
「あの者の名前、ギーエンというそうです」
裏切りの武将が向こうにもっ!?
「私が先程闘っていた時ですが、向こうの兵士が彼を後方に下げる時に叫んでおりました。報告できる事があるとすれば……そのくらいでございましょうか?」
含むところは無いといった様子で告げて来たブルータース。どうやら他に隠し事はないようで、話せてよかったと胸を撫で下ろしている。
サイモンが事実確認をアラクネたちから取っておきますと告げていたので、余裕があるようなら兵士達のシフトに組み込んでやるように告げるのだった。




