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外伝・今日のシシルシさん2

「じゃーあ、街の探索したい!」


 結局探索か。溜息を吐いた大悟だが、シシルシが暴れないためならば仕方無い、とソルティアラに視線を向ける。

 彼女も同意見らしい。シシルシは任せるわ。と目が言っていた。


「じゃあ街を案内するよ。変な奴も居るから僕から離れないで」


「はーい」


 元気よく返事をするシシルシ。

 一抹の不安を覚える大悟だが、シシルシと共に城から出て城下町を散策する事にしたのだった。

 そこで何が起こるかなど、彼には予想すらできなかったのだが。




 貴族街から足を伸ばして平民街へ。流石に貴族街をふらふらして問題が起こるといろいろと後処理が面倒なので散策は平民街メインで行う事にした。

 といっても平民街だって危険は沢山ある。

 特にシシルシの容姿が少女なだけに、一人で歩くようなことになればヤバい連中に囲まれることは確実なのだ。

 大悟は絶対に守り切るぞ。と気合いを入れて案内を始めた。のだが……


「やっきとり~。あ、こっちはなーに? おー。なんか凄い」


 あっちへこっちへウロチョロと走りまわるシシルシに、早くも振り回されていた。

 屋台から屋台へと移動するシシルシはどんどん遠くへと行ってしまい、慌てて追いかける大悟の視界からさっさと消えて雑踏に紛れてしまった。


 魔族領からのお客さんである彼女が何か事件に巻き込まれたら……

 大悟は青い顔で人の波を掻きわける。

 しかし、見当たらない。


 そんな必死に探す大悟の後ろ姿を見ながら、シシルシはくっくと悪どい笑みを漏らす。

 ワザと姿を隠し、大悟の慌てる姿を見ているのである。

 頭を抱えながらどうしよう? と愕然としている大悟。大いに楽しみながらそろそろ声を掛けてやるか。そう思って歩き出したシシルシの前に、足が立ちふさがった。


 誰の足? と見上げれば、気持ち悪い笑みを浮かべた男が一人。

 否、背後に二人。合計三人の男達がシシルシを囲んでいた。


「げへ。ア、アニキ、可愛い子、見つけた」


「お嬢ちゃん、迷子かなぁ。お兄さんたちが探してやるぜぇ。ほら、こっち来なァ」


 シシルシが何か言うより早く男達はシシルシを抱えあげてその場を撤収する。

 路地裏に連れ込み、逃げ道を塞ぐ。

 男の一人がナイフを引き抜きシシルシの眼前に向けた。


「よォクソガキ。その可愛い顔に傷作りたくなけりゃ脱ぎな」


「なーにおぢちゃん? おかぁさんどこぉ?」


 未だに状況を分かっていないらしい少女は可愛らしく首を傾げる。

 しかし、男達にぶりっこは通用しないようだ。


「げへ。兄貴、オ、オレ。尻、尻がいい」


「まぁ、焦んな、どうせ逃げきれりゃしねぇんだからよ」


 シシルシは下卑た笑いを向けて来る男達を無視して額を隠していた布を取る。

 人間領に来る時に一応持って行けと誠に貰ったバンダナというモノだ。

 第三の目を隠すのに使うモノで、これを使えば人族として見られるらしい。


 額から現れた第三の目を見た男達が押し黙る。

 相手がただの少女ではないと気付いたのだろう。

 だが、所詮目が三つあるだけの少女、武器も持っていない存在に危機感は感じない。


「へっ。魔族かよ。だが残念だったな。目が三つあるだけで逃げるとでも思ったか?」


「兄貴、オイラ気に入った。コイツ、オイラ欲しい」


「だから、焦んな下僕共。今直ぐ調教してや……」


 ぐりん。目の前の少女の三つの目が、消失したように黒い深淵に変化して見えた。

 恐怖が押し寄せる黒い穴。渦巻いて見える悪意の塊を目にした男達は、それだけで全身を震わせていた。

 ようやく気付いたのだ。自分たちが手を出してはいけない存在に手を出してしまったことに。


「くけけけけ。どこ行っても居るよなァテメーらみて―なのはよォ」


 ゾクリとする声が聞こえた。

 目の前の少女から発せられたと気付くまで、彼らはしばらく周囲を見回していた。


「人族での殺傷はあんますんなっつわれたけどよ。それが双方にとっては良い結果に繋がるなら、別に遠慮いらねぇよな? なぁ社会のゴミ君よ? とりあえず、お鼻摘みと行こうじゃねェか」


「は……ひ……ひゃはぁぁっぁぁぁっ……」


 路地裏の奥、三人の悲鳴がしばらく響いた。




 大悟は焦っていた。

 シシルシが全く見当たらない。

 やっぱり外に連れて来るべきじゃなかった。多少面倒だったが城内で遊ばせておくべきだった。


 泣きそうになりながら必死に走り回る大悟。

 その背後に、彼女はゆっくりと近づいていた。

 一息ついて周囲を見回っていた彼は、そこには居ないと判断して次の路地へと走ろうとして……


「大悟ちゃん、何急いでるの?」


「何ってシシーを……シシーっ!?」


 声を掛けられ煩わしげに振り向いた彼が見たのは、今まで必死に探していたシシルシだった。

 思わず安堵でその場に座り込みたくなるが、よろめく身体をなんとか繋ぎとめる。


「はぁ。もう、焦らすなよ。俺の周囲からいなくなられたら焦るだろ」


「てへー、めんごめんごー。薔薇の木を伐採しに行ってたんだよ~。おハナ摘みの長い版~」


「トイレかよ、全く……って、シシー何食べた? 頬に赤いの付いてるぞ?」


「およ? エヘヘ。大悟も食べる?」


 気付いたシシルシはペロリと舐めて赤い飛沫を消し去る。


「いらないよ」


 とりあえずトラブルなく帰りたい。来て早々どっと疲れた大悟だった。

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