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交換留学開始

「来たわね」


 ルトバニア最前線基地である最近出来た砦にやってくると、ソルティアラに出迎えられた。

 前回と同じ会議室へと案内された俺達は、相手側と軽い挨拶を交わし合う。

 今回連れて来たのはシシルシとその世話役が六人。ついでに矢鵺歌とラオルゥである。


 ディアは自分の家に戻っている。ルトラをお供に引き連れ、何やら気になる事が出来たとか言って戻ってしまった。

 ギュンターや若萌はいつも通り、お仕事に精を出していて、ユクリもそれに付き合っている。


「今回は矢鵺歌さんとラオルゥさんとシシルシちゃんだけなのか? そっちの六人が交換留学の人?」


 と、声を掛けて来たのは大悟。何も知らされていない哀れな勇者は普通にフレンドリーに話しかけてくるのだが、その背後で佇む七人はこちらに敵意を向けてきている。どう見ても留学するつもりが見当たらない。


「こっちは七人だ。そちらも同数でいいのか?」


「ええ。先程人数をお聞かせいただいたのでこちらも同数に押さえましたわ」


 俺が連れて来る人数に合わせるのは既に決まっていたようだ。

 おそらく大量に連れてきた場合のためにまだ数人待機しているとみていいだろう。

 ゴブリン共を1000匹単位留学させるとかも想定されていたのかもしれない。

 少しソルティアラが安堵しているように見える。


「七人?」


「ああ。こちらの、ああ、折角だし一人一人自己紹介しようか。フェレ、頼む」


「はい」


 ストレートヘアでキレ長の眉を持つサキュバスが一歩前に出る。


「ご紹介にあずかりました。フェレと申します。今回世話役としてご一緒させていただくことになりました。人族領については余り知らないのでご教授いただければと思いますわ」


 と、魅惑的な笑みを大悟に向けるサキュバスさん。大人の魅力を見せつけられた大悟はやはり顔を赤くしていた。

 あら? とソルティアラがソレに気付いたが、気にしたふうも無く続きを待つ。

 ふむ。ソルティアラと大悟は出来てると聞いていたけど、なんか脈無さそうな感じだぞ大悟。


「ロバートだ。執事として同行する」


 インキュバスのロバート。彼の目的は貴族子女を魅了し王侯貴族の情報を手に入れることにある。

 フェレは貴族相手ではなく、本当にシシルシの世話をしてもらうことを考えると彼が情報収集の顔役のようなモノだ。こいつ、結構好色らしいので、喜んで引き受けやがったんだ。

 まぁ、リア充は爆死させたいような気がするが、一応仲間なので舌打ちだけにしておいた。


「モルガーナと申します」


 身体の透けている娘が応える。スライム族のモルガーナ。スライム族ではあるがスライムとは違い意思を持つ単細胞生物で、昔取り込んだ人間の姿に擬態しているらしい。

 女性の方が餌のかかりがよいのだとか笑顔で言われてちょっと引いたのは秘密だ。


「メデュパですの」


 四人目はゴルゴーン族のメデュパ。ラオルゥの劣化番みたいな存在で、視線を合わせた相手を石化させる能力を持っているらしい。

 ラオルゥのように自動発動ではないので人族領でも充分活動出来るそうだ。顔立ちも綺麗なので彼女がロバートと同じように男性側の情報収集を行ってもらう予定である。


「それと、こちらがガンキュさんですの」


 メデュパが言葉を話せないガンキュの代理で紹介する。

 ガンキュは性別不明の目玉に毛が生えた生物だ。飛行型の魔物なのだが、意思疎通は可能なため眼球族として魔族認定されている。

 ガンキュの特殊能力に着目したギュンター肝入りのスパイ要員である。


「最後に、私、ポェンティムですな」


 最後の一人はくたびれた老婆に似た女。額から一つの角を覗かせた白髪の生物だ。

 肌の色が緑なのがちょっと異常に見えるが、魔族なのだから仕方無いだろう。

 ちなみに、こいつはサトリと同様の能力を持つらしい。気難しい性格と秘密主義のため、報告には少々面倒ではあるだろうが、おそらく一番頼りになるスパイ要因だろう。


「このメンバーと一緒に留学して貰うのが……」


「シシーだよ」


 えへらっと笑みを浮かべたシシルシがぴょいんと前に出る。

 両手を後ろで組んでソルティアラを覗きこむシシルシ。

 彼女までやってくると知った瞬間、ソルティアラの顔が明らかにひくっとしたが、俺は気付かなかったことにした。


「え? シシルシちゃんがこっちに来るのか? 本気か誠?」


「えへへ。大悟ちゃんとあそんでいーって言われてるよ。よろしくね?」


「え? あ、う、うん」


 シシルシがさっそく大悟で遊びだした。

 気圧されたようにしながらもどこか嬉しそうな大悟は、やはり可愛い系少女から慕われるのはクリティカルヒットらしい。とりあえず拝んでおくか。成仏しろよ大悟。南無南無。

 きっと近いうちに知ることになるだろうシシルシの闇を目の当たりにする大悟の不幸に、俺は一人黙祷を捧げるのだった。


「えへへー、留学楽しめると良いなぁー。ねーソルティアラちゃん」


 ひとしきり大悟の反応を楽しんだ後、シシルシはソルティアラに視線を向けて笑みを浮かべる。

 彼女一人だけに見えるようにして、三つの目が深淵を覗かせたのは、多分遊び感覚なのだろう。

 今、悲鳴呑みこんだぞソルティアラさん。

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