会談4
正直、甘く考えていた。
和平交渉なんて手を握り合ってこれからよろしく。程度のモノと思っていたのだ。
まぁ、流石にすんなりそうなるとは思っていなかったものの、まさかこれ程ややこしいモノだとは思わなかった。
ソルティアラとの会談で行われたのは、和平交渉によるメリットの提示だ。
こちらと仲直りするとどんないいことがあるかを説明する。
流通による魔族の扱う武器防具、アイテム等の流出、どれ程の量を人間に流すか。これも全く皆と相談していなかったので自分で説明しなければならなかった。
正直何処まで上手くやれたか全く分からない。
下手したら不利な条件を突きつけられていたかもしれない。
矢鵺歌に視線を送ったが私じゃ無理と首を振られたし。
他にも、商人の行き来や、国境について、使節団の創設やらなにやら、流通貨幣の変換レートについてとかも話し合われた。正直俺には一杯一杯だ。
一応ディアが書記を務めてくれたので自分が何を締結したかは分かるが、後から見直して頭抱えたり若萌達に怒られることがどれ程あることか。
交換留学とか絶対怒られるだろうなぁ。
でもこれを他の国と話し合いになった時のテンプレにできればそれなりに無難な和平交渉は出来そうだ。
とりあえず、奴隷云々に関しては持ち帰って皆と相談すると伝えておいたし、致命的な失態はしていないと思いたい。
「それでは、とても有意義な御時間でした。願わくばこの和平が恒久のものになることを願いますわ」
「ああ。じゃあ、俺達は帰らせて貰うよ」
「ええ。では三日後にまた」
優雅に微笑むソルティアラに声を返し、ディアの元へ皆が集まる。
「じゃあ、ディア、頼む」
「それでは」
ディアの足元に魔法陣。それが俺達魔族組を包み込んだ瞬間、浮遊感が生まれる。
ソルティアラと大悟の見ている前で、俺達は光に包まれ、光が消えた時にはもう、魔王城の謁見の間に姿を露わしていた。
「おかえりなさい、セイバー」
謁見の間には玉座に座ったギュンターとその側に立って話をしていたらしい若萌。手に持っている羊皮紙からしてまた難しい話をしているんだろう。
俺達が突然現れたことに驚きもせず、さも当然のように挨拶をしてきた。
「今帰った。それで、なにしてんだ?」
「今丁度魔将の配置について相談してたの。コルデラからの話でちょっと怪しい動きの魔将がいたから」
「そうか。こっちは会談についていろいろと報告がある。とりあえずディアに会談の会話内容は書いてもらったから目を通してほしい」
「了解」
読んでしばらく、若萌とギュンターがわなわなと震えだした。
うん、どうやらヤバい条件で契約してしまったようだ。
ソルティアラの高笑いが聞こえてきた気がする。
「あー、その、なんか拙かったか?」
「流通貨幣の変換レート、これは一見こっちが得しているように見えるけど、向こうからの輸入品がとても高く購入させられることになってるわ。逆にこっちの商品は安く買われるの」
為替レート云々をいわれても、俺に分かる訳ないだろ。
「しかも武器や防具、魔道具に至るまで同数を取引? 今のレートで取引なんてしたら大赤字もいいところよ。あんた魔国を潰す気!?」
マジでお金関連で魔国潰れんのか。世知辛い世の中だ。
「それだけではないぞセイバー。なんだこの交換留学というのは? 人族からこちらに留学者を迎え入れ代わりにこちらから魔族を人族領へ? 正気か? 機密情報がごっそり奪われるぞ? 下手な魔族を向こうに送れば真名を奪われいいように操られかねん。ディア様が解除を行えるように、真名を奪っておく術も万能ではないのだぞ?」
「それについては、というかまず聞きたいんだが、人族側から送られてくるのは情報をすっぱ抜くエキスパートだ。奪われてマズい機密情報ってあるか?」
「む? それは……ふむ?」
考えるギュンター。しかし、やはり思いつかなかったようだ。
そもそも人族に奪われて困る情報は魔族には無い。それぞれが実力が高い兵士たちは各魔将が適当に指示出しをしているのでほぼ個人で動いていて、事後報告になっているし、こちらで決めるのはどこどこを攻め落とせ。という大雑把な指示なので機密という物ではない。
奪われて困る情報は魔王城にはないのである。
ギュンターがトイレ掃除してる事実くらいか? 意外性のある情報は。
そんなわけで、人族側からのスパイが来ても全く気にはならない。
「情報が奪われることは問題無いとして、こちらから向かわせる人材は決まっているのか? 向こうで情報操作により寝返らされる可能性もあるぞ?」
「確かに魔将や他の魔族だとその可能性もあるだろうな。だから、真名が奪われる心配のない魔神の一人に行って貰おうと思うんだ」
そう言って、背後にいる四人の魔神を見る。
「シシルシ、人族領に留学してくれないか?」




