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会談3

 沈黙が落ちる。

 俺がどのような思いでこの会談に臨んでいるのか、ようやく理解したって面だなソルティアラ。

 もしかしてただ和平を望む能天気な異世界の夢見がちな男とでも思っていたか?

 成り行きで魔王になったから一応自分人間だし、人間と仲良くしようとか思った単純思考と思ったか?


 ならば今直ぐ是正しろ。俺は俺の正義の元に、できるなら和平を望んだだけだ。

 確率でいうならば十中八九戦争に突入すると思っている。

 一応大悟の居る国だからこそ、一番に会談を開いてみただけだ。

 云わばただの体裁。初めからこちらは和平が成立するとは考えていない。


「少し、思い違いをしておりました」


「ほぅ?」


「そちらの書類は何も知らない我が国の貴族の要望にございます魔王陛下。こちらとしてもあくまで貴族たちの願いを魔王陛下にお見せした。そういう体裁が必要でしたの」


 そう、姿勢を正して神妙な顔をするソルティアラ。

 どうやら相手も本格的に交渉を始める気になったようだ。

 ようやく本題が始まるらしい。


「こちらの要望としては魔族の要望を聞いたうえで付け加えたくございます。何しろ魔族がどれ程人族との和平を望んでおられるかわかりませんでしたもの」


「人が悪いなソルティアラ姫。俺は最初から真剣な会談に臨んでいるつもりだぜ? 確か、ギュンターの時代じゃ魔王が率先して人族と敵対したとか?」


「ええ。当時はムーラン国共々各国が震撼し、魔国の侵略を止めよと迎撃したと聞いておりますわ」


「ふむ? おかしいな。我が国では人族の侵略が酷く、ギュンターが指揮を取り人族の侵略を押し返したと聞いているが?」


 二人して押し黙る。

 どうやら俺がそこまで事実を知っていると思っていなかったのか?

 不意に、ほほほほほ、と口元を隠して笑うソルティアラ。どうやらまだ腹の探り合いが続いていたらしい。


 俺の勉強不足の場があればそこを突かれかねないな。若萌がいてくれれば丸投げ出来るのに。こういう交渉事は俺よりアイツの方が向いてると思う。

 すまんが矢鵺歌。俺がミスったらフォロー頼むぞ。お前しかたぶん頼れる奴居ないし。

 ディアとか絶対ミスったの気付いても黙ってそうだし。


「これは失礼。どうも相互の理解に齟齬がございますようで」


「……そのようだな。どうやら互いに・・・都合のよい解釈で相手を敵と認識しているらしい」


「この誤解を解消し、真の和平を結びたいモノですわね」


 クスリと笑みを浮かべるソルティアラ。その目元は全く笑っていない。


「ああ、そうですわ。折角ですから和平のために互いに交換留学を行ってみませんこと?」


「交換留学?」


 というのはアレか? 日本でも外国との学生交換があって外国で日本人が学べる代わりに外国からやってきた学生に日本の学校で学んでもらうって言うあれか?


「我が国から一人、魔国へと渡りそちらの国がどの程度の文化を持っているのかを学ばせて頂き、同時に魔族にも人族の営みを見ていただこうと、和平の一歩としてはとても有意義ではございませんこと?」


 ニヤリ、笑みを浮かべるソルティアラ。

 確かに、普通に聞けば問題無く聞こえるのだが、提案して来たのがソルティアラという時点で警戒感が生まれる。

 しかし、現状これを断ることの方がこちらに和平に望む気持ちが無いと思われかねないため愚策。

 ここはあえて話に乗るべきだ。


「いいだろう。いつ頃行うのかな?」


「こちらは今すぐにでも、対象はこの城に既に連れてきておりますので。エルジー、ここへ」


 会議室の扉を開き、一人の女が現れる。

 綺麗な顔に冷血な瞳。キレたナイフのようなその姿は、一般人や聖騎士といった類の表側の人間では決して見れない機械じみた顔だ。

 動きの所作も洗練されていて、どう見てもカタギの存在ではない。


 そうか、おそらくスパイやらなにやら影でやってる奴だ。武藤の奴みたいな存在だな。

 本来なら敵国に知られることなく秘密裏に情報を手に入れるために訓練された存在なのだろう。

 これは魔族の国にある機密情報を手に入れるための一手だ。

 やられた。こいつ、初めからこの交換留学を考えてやがったな。


 ……今から機密を隠せるか?

 だが、どうやって? 機密なんて……機密なんて、あったっけ?

 あれ? 思ったんだけど魔族に機密があってソレが漏れたところで痛みどころが見当たらなくないか? 機密なんてギュンターがトイレ掃除好きってことくらいじゃないか?


 ふむ、なんか問題無い気がして来たぞ。

 となると、これを機にこちらもそれなりの人材を送って相手の情報を探ったり操作したりしておくべきだろう。相応しい人物は……


「一ついいかな?」


「何でございましょう?」


「付き人を数人付けることは可能かな? 一人で着替えなど難しいこともあるのだが?」


「ふむ……そうですわね、来られる方によりますが、あまり貴族の方に来られましてもそれが魔族の代表扱いされてしまいますわよ?」


 好き勝手するようなやっかいものを持ちこんで来るなよ? 言外にそう言われたようだが、こちらとしては代表者云々よりもその付き人の方が重要なのだ。さぁ、どう出る?


「そうですわね。こちらも付き人を付けてもよろしいのであれば」 


「ああ、それで構わない」


 どうせスパイが増えるだけなら問題無い。取られて悪い情報など殆ど無いし、最悪ルトラの力押しがあるからな。


「ただ、こちらには用意がいる。二、三日後にそちらの王都に向かわせるという事で構わないか?」


「では三日後に再びこちらに御足労いただけませんか? こちらの留学者もその時に」


 こうして交換留学が纏まった。

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