表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/337

プロローグ

最初なので二話連続掲載

「てめええええええぇぇぇぇぇぇ――――っ!!」


 赤いスーツを着た男が走る。怒りに任せた一撃を叩き込まんと、自慢の武器を構え、タキシードを着た男に突撃した。

 怒りに打ち震える彼はその怒りを体現するような黒い靄を周囲に漂わす。纏わりつく憎悪と共に、剣に力を込めて行く。

 殺してやるッ、悪意の乗った一撃を振り被る。


 親友だったのだ。

 自分は敵であるあいつに信頼を感じていた。友人と呼べる付き合いではなかったが、彼が絶望した時、立ち止まった時、叱咤して背中を押したのは、いつだってあいつだった。

 そのあいつを、殺した。その存在が、今、彼の目の前に居た。


「残念だが赤い悪魔くん。君には私を殺す事は出来ない。何しろ、この世界にいる時間がないのだから」


「何をブツクサ言ってやが……っ!?」


 タキシードの男に斬りかかる瞬間、彼の真下に浮かびあがる魔法陣。

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。でも、その光は、知っていた。


「……っ!?」


 咄嗟に少女が手を伸ばす。何かを言っていたが聞こえない。多分、自分の名前だ。

 泣きそうな顔で手を伸ばし駆けて来る少女に、彼は思わず視線を逸らした。

 自分が巻き込んだ少女。自分のせいで人生を変えてしまった彼女は、こんな時も彼を心配していた。彼女に、そして彼等に背を向けた自分を必死に光射す場所へと引き上げようとしてくれた存在だ。でも、彼女にはもう、仲間がいた。


 かつて彼が所属したチームが彼女の仲間として存在していた。

 彼にはそこへ戻る意気地も理由も気力もない。

 それに、自分がその世界から消えたところで誰が惜しむだろう?

 その少女も、チームの一人と良い仲になってるのだから、今更自分に居場所は無いのだ。


 折角所属した場所も。倒すべき好敵手も、既に彼には手の届かぬ場所へ向ってしまったのだから。

 だから、彼は光に飲まれ、静かに告げる。

 さよなら、皆。さよなら、俺の故郷。さよなら……俺の居た世界。


 その日、赤き悪魔と呼ばれたスーツの男が世界から消えた。

 その世界で何が変わり、どんな未来へ向ったのか、既に男には関係のないことだった。

 光溢れる回廊を流されるようにして彼は往く。

 遥か遠い、自力では絶対に戻れない場所へ。


 光が導く先に、再び地面があった。

 彼がそこに辿りつくと、光の粒子たちは役目を終えたと去っていく。

 彼の視線の先に、女がいた。他にも数人ローブ姿の誰かがいたが、薄いドレスを着た綺麗な女性だけが、彼ら(・・)に一歩近づく。


「お待ちしておりました。勇者様方。遠き世界よりはるばるお越しくださりありがとうございます。そして、お願いします。我が国を御救いくださいっ」


 星に願うように祈りを捧げた少女に、彼はああ、テンプレかぁ。とどうでもいいことを考えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ