またあとで
後悔はしてないけど心残りは沢山ある。
私の生き方は歪なものだ。
後も先も考えていない。
永遠に続きそうないつも通りの日々をのうのうと暮らしていた。
堕落をして欠如して、やるべき事もせず、他人との共存を拒み、自分自身との向き合いも避けた。
だから、私には友と呼べる人間はいなかった。
だから、私には師と仰ぐ人もいなかった。
だから、私には生きる意味が見いだせなかった。
私は人間ではなかった。
姿形が人間であっても、それを変えることが出来なくても、私は人間であること否定した。
人間が嫌いだったのだ。
いずれ近いうちに自分は孤独死をすると思ってた。
そう思い続けて、二十年経った。
二十歳の私には、何も無かった。
だから、死のうとした。
変化の無い日々に、変化をつけようとしたのだ。
「私が死んだら世の中から人間が一人消える。それはそれだけの事だ」
崖の上で一人呟いた。
「馬鹿みたいだ」
私は下を見る。
海があった。
海はそこにあるだけだった。
「じゃあ、私もそうだな」
そこにあるだけなら、そこから無くなっても変化はない。
さて、そろそろか。
そう思い靴を脱ごうとして後ろを振り返った。
だが。
「.......ん?」
いつの間にか少年がいた。
10歳くらいか、Tシャツに半ズボンとラフな格好をしている。物凄い綺麗で顔だけ見れば女の子みたいだ。
その少年が私の後ろに立っていた。
まるで私を崖から突き落とすみたいに。
少年は黙って私を見ていた。
「..........」
「..........」
「..........」
「..........」
「..........何か用?」
あんまりにも喋らなくて思わず私から話し掛けてしまった。
「..............」
少年はなおも黙っていた。
「.......」
「.......」
「.......」
「.......」
................なんやねん。
「やりにくいからどっか行ってくれない」
私はいい加減イライラして少し口調を強めた。
「選んで」
「へ?」
突然喋った。
「崖に飛び込んで惨たらしく死ぬか、僕があなたを殺すか」
「え、いや」
「選んで」
「あの」
「選べ」
「................」
有無を言わさぬ強い口調に思わず黙ってしまった。
くそ。
なんだなんだ。最近の子供は今から死ぬ人間に対してこんな不謹慎な茶々をいれるのか。
こんな可愛い顔してんのに。
言ってる事は何一つ可愛くない。
だが。
(何故か、この子の顔を見てると心が落ち着く)
赤の他人の意見なんか聞きたくもないが、でもまあ、崖に飛び込んで死ぬよりかは可愛い子供に殺された方がいいのかもしれない。
何故かそう思った。
「あんまり苦しまないなら、任せる」
冗談混じりにそう言った。
最後に良い思い出が出来たと、そう思っていた。
だが少年は。
「はい。ちょっと痛いだけですからね」
そう言って気付いたら馬鹿でかい鎌を振りかざしていた。
「へ?」
「ではまた」
そう言って、私の胴を斜めに切り裂いたのだった。
鎌を振りかぶった瞬間、少年の表情が見えた。
とても良い笑顔で笑っていた。
私はその笑顔で、初めて他人に惚れそうになった。
頑張れる所まで頑張ろう、と思います。