第七話 電話
トゥルルルル、トゥルルルル。
「……はい、もしもし、田原です。
どうした、錦織?」
「どうしたはこっちの台詞だ!
何で留説に来なかったんだよ!?
おかげでお前の家まで紙持ってけって教授に言われたんだぞ!」
「はは、それはすまなかったな。
あいつの歌が嫌になってたんだよ。
なんか、免許証の更新に行ったら、さだまさしの『償い』聞かされるみたいでさ」
「なるほど、確かにそれは言えるな」
「本当に悪かった、錦織」
「な、何だよ、改まって。
一回謝ればいいよ」
「いや、自分は、本当はお前たちにずっと謝りたかったんだよ。
あの、追試の日以来……」
「えっ、なんかあったっけ、謝るようなこと?」
「ほら、俺が試験中に回した紙、あったろ?
あれに書いたこと、後で調べたら、間違いばっかりだったんだ」
「あ、ああ、あったね」
「確かにB型肝炎ウイルスはエンベロープに包まれてはいるが、その膜はけっこう強くて、石鹸くらいじゃ破壊されなかったんだ。
さすがあの鬼教授、なまじっかかじっただけの奴を落とす問題をよく心得てやがる」
「へぇ~、そうだったのか……」
「だから、お前ら全員留年したのは、俺の責任でもあるんだ。
本当にすまんかった……」
「い、いいよ、そこまで謝罪しなくても、どうせあの程度の勉強だったし、あの紙が無くても、ボトムズは全滅していたよ」
「いや、俺のせいに違いない。
余計なことさえしなければ……もう、生きている価値もないと最近思っている」
「んな馬鹿なこと言うなよ!
留年の一回や二回、何だってんだよ!」
「いや、自分は実は今回で、四回目なんだわ。
もうやばいんだよ……」
「あ、そうだったっけ?
そういや同い年だけど、入ったのは俺より一年上だったね」
「親も、いい加減諦めたらどうだって言ってきている。
毎日が辛いんだよ。
せっかく国立大学に入ったくせに、お前にはもう一千万以上かかっているって。
うち、母子家庭でさ……」
「そうか……」
「実は、あの日から夜も眠れず、食事も食べれず、今、精神科のクリニックに通院しているんだ」
「えっ……」
「正直に言うと、毎日死ぬことばかり考えている。
ただ、普通に死ぬのも悔しい。あの糞教授の思う壺だ」
「そ、そうだよ、馬鹿なこと言うなよ。
蛇池教授だって、リスカや服薬じゃ、そうそう死ねないって言ってたぞ」
「そんな馬鹿なことはしないさ、約束する」
「良かった……お願いだよ」
「もっと凄いことをして、新聞の一面を飾ってやる。
でないとあの人非人は堪えないだろう」
「な、何を言ってるんだ!」
「それに、錦織だって、噂で聞いたことあるだろ?
ほら、例の……」
「例のって……あんなの嘘に決まってるだろ!
絶対変なことするなよ!
とにかく今から行くから、そこを動くなよ!」
「これは、本当にお前らボトムズのためなんだよ。
俺の唯一出来る罪滅ぼしさ。
じゃあな、錦織」
「き、切るな、田原!」
「あっ、そうだ、実は自分、お前の名前で今度の夏コミに申し込んでたんだった。
受かるといいな。
後、お前んちに、俺の原稿を郵送しといたぞ」
「な、おい、今なんつっ」
プチッ、